安曇川 貫井谷右俣


弥幸に起こされて、目覚まし時計を見た。6時30分だ。あわてて、ザックを背負い家を出た。JR京都駅から携帯でK原さんに連絡する。結局、地下鉄・北山駅に7時45分のはずが、8時30分になってしまった。K原氏とU田氏(以下氏略)にお詫びして、気を取り直して今日の沢“貫井谷”に向かう。9時25分に駐車場に到着し、遅れた分を取り戻すべく、あわただしく準備をした。

9時40分出発。車道を歩き貫井谷を左手に見ながら橋を渡る。橋梁から見る貫井谷は、堰堤下流部しか見えず、河床・側壁共コンクリートで固められており、あまりにも無残な様相を呈している。車道からの印象では、本当に沢登りなんてできるの?といったところだ。まだ、梅雨入り前なので水量もやや少なめだ。左岸側のなんとなく個人のお庭のような道を申し訳なさそうに通過する。
しばらくは、谷のすぐ脇にある林道らしきガレ場を歩く。先程の堰堤などで土石が下流に吐けきらないのだろう。土石の堆砂が非常に多い。周辺は、樹齢30年程度の杉の植林地になっているが、露頭・転石が多いことから植物の育成にあまり良い山とは思えない。裏比良ということもあり、全体に光量が乏しく“悪しき谷”といわれているのにも十分な説得力がある。

我々は、更に堰堤2つと左枝俣を越えて沢に降りる。4m滝を2本越えると直ぐに右俣・左俣の分岐に到着した。10時25分。沢の規模としては左俣の方が大きくて面白そうであるが、以前にK原,U田が遡行していることから、今回は右俣に入渓した。入渓して直ぐに2mのCS滝があり、巻いても良かったが、ここは、ショルダーで突破することにした。K谷が足場となり、膝と肩を固定する。U田がリードで先に上がる。U田は、上流からシュリンゲで二人を引き上げてくれた。こういったチームワークは、沢登りでは非常に手軽で有効な手段だ。

次に、6m,5m,8m,4mと滝が連続して現れる。我々は、ここで練習も兼ねてハーケンを打つことにした。まず、K谷リードで登り、続いてU田がプルージックで登り、K原がアンカーでハーケンを回収しながら登る。6m,5mの滝では、確保の必要がないくらいであったが、水垢で相当滑りやすくなっているので油断は禁物だ。8m,4mの滝では、多少勾配もキツクなるが、所々に細かなホールドがあるのでシャワークライムを楽しみながら直登できる。K原がハンマーを強打しすぎてハーケンを弾き飛ばしてしまうが、時間に余裕もないので、再度降下して回収するのはあきらめて遡行することにした。11時40分。

次の8m滝は、U田が先頭になり、流れからやや左岸よりの比較的水垢の少ないところを注意深くのぼる。一般的に、滝の流れの中心は、案外水垢が少ないものだが、この沢では、滝全体が水垢でヌメリとしていた。さすがのウェイディングシューズもこれではフリクションの効かしようがない。それでも何とか突破し、11時56分、右俣のさらに左右の支流の分岐に至る。
ここは、水量が僅かに多い右支流に入るが、三条の滝12mを直登している“大阪わらじの会”の中年男性3名と出合う。我々は、右岸から高巻きして彼らと軽く挨拶を交わしたあと、先に行かせてもらうことにした。

核心部はここまでで、このあと連続してナメやゴーロが続く流れとなった。12時15分に25mスダレ状。EL870m付近で思っていたよりも早く水が枯れてしまった。我々は、これが伏流水であることを願っていたが、見事に期待は裏切られた。気がつけば、既にこの付近の植生は広葉樹となっており、我々は、乾燥した落葉の急斜面を黙々と歩いていた。
この付近でも、地盤の表層は多くの土砂で占められている。我々が通過すると、時折φ50〜150o程度の転石が、乾燥した落葉の斜面を10mも20mも転がっていく。比較的見通しがいいので先程の三人が後続に迫っていないのはわかるが、この落石は我々の責任で起こっている。確実に止まるまで、「ラック、ラーック」と大声で叫ぶ。注意していてもチョットの弾みで転がってしまうので、非常に気をもませられた。

13時15分、何とかこの斜面を抜けEL.1025m付近に到達する。周辺の植生は、低木に変わりだし、獣の足跡が多く見られた。この先は、ピーカンのお天気での藪こぎを強いられそうだ。この斜面を登っていて思ったことだが、U田さんは実に体力がある。平然な顔をしてこの斜面をすいすいと登っていく。
途中、低木から笹に変わり、13時30分、武奈ヶ岳の西側に伸びる稜線にでる。振り返ると空の青と山の緑しか見えない。先程までの沢の薄暗さは、なんだったのだろうと思うくらいあっけらかんとしていた。さわやかな風が吹き上げ、先程までの疲れがうそのように吹き飛ぶ。直ぐ近くに林道があり、13時50分、武奈ヶ岳着。ピークは、大勢の人でにぎわっていた。U田とK谷は、K原がボッカしてくれたビールを分けてもらう。3人で乾杯だ。
遥か彼方の白山を見ながら、ざるそば・冷麺などの昼食を摂る。14時26分、ピーク発。下山は、急傾斜の細川尾根を下り、15時30分に駐車場に戻る。車道を歩いていると、偶然、バーベキューに来ていた熊野さんとバッタリ出会う。世間は狭いものだ。時間も早いので、てんくう温泉に行き、汗を流してから家路についた。