朝日・金目川左俣

この沢登りは、僕にとって今までのどの沢登りよりも印象深いものになりました。沢の良い所も悪い所も全てあり、釣りに焚火に滝にゴルジュ、泳ぎに登攀に薮漕ぎにスノウブリッジまで山と沢のフルコースを心行くまで堪能しました。2日目のほぼ限界に近い17時間の行動は夏の山行のみ可能なハードなものでした。水と太陽のありがたさと厳しさをとくと思い知らされました。自然はすばらしい!!

木曜日夜9時、京都駅に集った我々5名は遠く東北の朝日連峰の一つ「祝瓶山」につきあげる沢「金目川本流左俣」遡行に胸踊らせていた。京都駅でT嶋のMTBをY形号に乗せ、出発。運転を交代しながら、Y形県小国町の道の駅で朝食をとり遡行開始地点を目指し車を走らせる。途中ゲートがありそれ以上車で行く事は不可能となり、そこからT嶋を除く4名は林道を歩き遡行開始地点の金目川に降り立った。T嶋は今回のコースの最終地点に車をまわし、MTBでゲートまで帰って来てから4名の後を追う事に・・しかし、この距離は尋常ではない。車でも小一時間かかる距離だ、しかも峠道であり途中から徒歩が必至。T嶋ならではの成し得る技だ。T嶋に敬意を払いつつ、我々は早速、金目川のカッパと化 した。

この日のテン場は、2日目の核心部が連なる手前の河原でとることにする。テン場までは23の大岩や明るいゴルジュがある他、別だん変わった所はなく、普通のきれいな沢である。初めて沢登りをするのだったら1日目だけでも十分だったかもしれないが、我々はすでにカッパの域に達している?!この日はただの川歩きと言ってしまう・・というのも後述するが、2日目の印象が余りにも強かったからかも知れない。途中、T嶋を待ちつつ、4匹のカッパ達は昼飯のおかずと夕食のメインの蛋白源を求め、色々な方法で漁に出かけた。

まずはボスカッパK谷がカッパのくせに竿を出しているではないか!しかも毛針釣(ふらいふぃっしんぐ)ならぬもので人間なみに、挑戦しようとしている。なかなか生意気ではあるが、その姿は人間なみに板についている。残る3匹が高見で見ていると、早速釣れているではないか!モグリ専門カッパY形が玉網を持って駆け付けると、何ともボスカッパ、久しぶりの大物に焦り、逃してしまったらしい。25センチはあったであろうと、悔やみながらも別の沢に再挑戦。ふとみると何やら川の底をごそごそやってるカッパがいる。そう手掴み専門マジックハンドのカッパU田である。この広い河原で逃げる所もいっぱいあるのに、まさかやっても無理無理とほくそ笑んでると、「いた!」とU田カッパ。「えっ?!」とガタカッパ。またもや玉を持って近付くと、なんと先ほどボスカッパが逃した岩魚を手掴かみで捕ってしまったではないか!まさにマジックハンド!かくして最初の蛋白源はハンドパワーでカッパ会を深閑とさせた U田カッパがゲット!確かに25センチくらいある大物で、おまけにリリースしたときに切れたフライまでついている。この岩魚に刺激され、様々な方法で各カッパが奮闘。T嶋と合流するまでに3匹の岩魚をゲットした。

フライより餌釣!と従来の釣方にこだわるカッパ大明神「K原」は高価な餌を買って来たもののなかなか、アタリが来ない。モグリ専門カッパY形は瀬であろうが、淵であろうがおかまいなく潜り、先に三碇の付いたヒッカケなる武器で挑戦しているが、なかなかうまくいかない。川の水はまだ冷たく、気温も盛夏とは違い涼しい。長い間潜る事が困難なのである。と一応言い訳を言っておこう。

そうこうしているうちに、カッパ隊長「T嶋」がやってきた。T嶋の労を労うべく、昼食の準備に取りかかる。言わずと知れたそうめんなのだが、今回マジックハンドのU田がコック長ということでソウセージにキューリ、天かすまで付いた豪華版のそうめんが完成。その横には先ほど捕った岩魚が刺身になって登場!何とも豪華な昼食となった。

その後、一行はテン場に向けて出発。途中、滑り台やジャンプを楽しみ、また枝沢の細いゴルジュの中の岩魚を捜したりと冒険心は絶えない。

やっと、この渓で初めての滝らしい滝と言える「魚止の滝」に到着。まだ、岩魚を一匹も捕っていないY形とK原はこのチャンスを逃してなるものかと躍起になる。まずはK原が釣りで挑戦。しかしなかなか釣れない。滝の釜は広く、ヒッカケには申し分ない。次にY形が潜ってみると、いるわいるわ10匹位の岩魚達が逃げる場所を求めて動き回っているではないか。思わずヒッカケを持つ手に力が入る。岩場に隠れた岩魚をT嶋、K谷に引きずり出してもらい、結果3匹の岩魚をゲットしたY形は嬉しくて仕方がない。ついでT嶋、K谷もヒッカケに挑戦!T嶋は皮下脂肪が薄く、寒がりのため長く潜る事ができず断念。K谷はヒッカケ初めてで、いきなり一匹ゲットした。さすがはカッパの中のカッパである。

魚止の滝は滝の落口の右からトラバース気味に攀じる。続く逆くの字4メートルの滝も攀じり、左俣と中俣に分かれる手前で今日のテン場をとる。

早速、タープを張り今夜の寝床を確保。その後K谷、K原両カッパは再び釣り竿を持って奥の渓に消えて行った。残るカッパ達は夜の宴の準備にとりかかる。流木はあまりないが、事足りる範囲には散らばっている。焚火をし湯を湧かし、捕ってきた岩魚の腹を抜き、せっせせっせと働いている。K谷が2匹釣って引き上げてきた。続くK原も餌釣りにこだわった甲斐がある、念願の岩魚を釣り上げた。それも超大物で30センチ大は裕にある。今日初めてでしかも大物を仕留めたK原の顔は満足感で満ちあふれていた。K原の釣った大物は刺身に、その他は全て塩焼きにして宴の肴となった。重いけどがんばった楽しみが今、放たれる。ビールにワインに日本酒、最後が岩魚の骨酒が振る舞われる。焚火に映るみんなの顔は笑顔で満ちあふれている。ハーモニカの調べにのって我々だけの渓の夜は深けていく。

 

400 まだぼんやりとした光の中で、朝食の準備にとりかかる。皆の顔は昨日の夜とは違っていた。今日の核心部に備え、戦闘準備を心の中で作りはじめている。そんな顔をしている。520 出発。すぐに二股に到着、左俣に入り、しばらくは単調な渓相が続く。沢の幅が右と左から押しつぶされる様に狭くなってくると、いよいよゴルジュ帯の始まりである。この手前で小休止し心の準備をする。V字谷の典型とも言えるこの沢は他の沢では、どう考えても高巻きしていたような滝でも高巻きすることは不可能で、水しぶきを浴びながら直登するしかない。水流でつるつるに磨かれた岩には手がかりや足掛かりはなく、つっぱ りで通過する他は、かなりのフリークライミングの技術を要する。K谷、T嶋にリードをとってもらい、それでも登れない滝は全員で押し上げる。水をたっぷり含み重くなったザックは離し荷揚げするが、これもまた大変な作業だ。何人か上に上がり、上がった人間で下からのザックと人間をひっぱりあげる。こんな滝がいくつも続く。でも、だんだん楽しくなってくる。

華麗なバランスでフリーの妙味を見せるK谷、T嶋。水の中でもへっちゃら、でもコンタクトレンズは流せないとヘルメットにゴーグル姿の無気味なY形、上ずえがありつっぱりならお得意とU田、ジャンプで岩の上を忍者の様に渡って行くK原と色んな得意分野を備えたカッパ達はまるでドラゴンクエストの一行のようだ?!しばらくして一旦ゴルジュは広がりを見せるがすぐに狭くなり、ついには両岸切り立った狭くしかし「こんなとこ、どないして通過するんや!」ゴルジュに突入する。思わず皆の口からは「おー!」とか「ひぇー!」とか「ははは・・」とか驚きとも喜びとも恐さともとれる言葉が出る。しかし皆の目は着実に突破口を探っている。つっぱり、へつり、バランスでK谷が挑戦!水しぶきを浴びながら残るカッパ達も後に続く、水流は思った以上に早く、でも「気合いで前進!!」と雪稜の若武者の言葉を思い出し、みんながんばる。やっとこの狭いゴルジュを抜けたと思いきや、またもや5メートルの滝が 2段続く。この滝はさほど難しくなく右から岩伝いに登れる。今日の行動予定は沢をつめ、祝瓶山に登り下山するというもの。時間を気にしながら着々とペースを上げて行く。しばらくいくと目の前にもやがかかり、もやの間から白いものが立ちふさがっている。スノウブリッジだ!2つのスノウブリッジは上に残っているが、後は崩落し我々の進路を塞いでいる。恐る恐るスノウブリッジに乗り込み底が抜けない事を祈りながら前進する。

一ケ所、乗ったとたんに崩れ、冷や汗をかいた。雪の固まりが3メートルほど下に落ちて行く。下は無気味である。スノウブリッジを抜け、ずるずるの草付きを這い上がると10メートルの滝2段がかかる。はじめの滝は左側から登り、次の滝で滝直登組と右から巻き組に分かれる。ほぼ垂直だがホールドがしっかりしているため登りやすい。登った所で小休止をとり、再び出発。小さな滝を幾つか越え、右に折れる7メートルの滝にさしかかる。ここは左からトラバース気味に抜けるが、K谷がルート工作中浮石が抜け4メートル落下、右足首を痛めてしまった。岩がもろくホールドが甘い。ここは慎重にとハーケンを打ち確保しなが ら突破。K谷の怪我はなんとか歩けるから良かったものの、ここでは救助隊すら安易に入れない場所だ。怪我の状態をみながら先に進む。

しばらく行くとまたゴルジュ帯に突入、上部がハングしたCS3メートルを越えると、この渓で最大の20メートルの滝が行く手を阻む。ここは右手の小沢から大きく巻くのだが、この小沢とて、容易なものではない。この小沢以外は草付きのずるずるの急斜面で支点など一切とれない。この小沢を直登するしかない。下で確保しT嶋がリードする。下でぼーっと見ているが、かなり不安定な岩場で岩はもろく、下にいてもバンバン落石が降ってくる。30メートルザイルをフルに使い、登り終えるとそこからは潅木帯に入る。30メートル2ピッチ、フィックス を張りプルージックでのぼる。潅木帯のズルズルの斜面を木に捕まりながら攀じ登る。EL970mまで登った時、このままトラバースして二股から沢に戻り予定通り沢をつめるか、このままEL1179mのある尾根へのぼり尾根上を祝瓶山へ登るか、選択に迷った。沢に降りればそこからの傾斜は角度を増していて、負傷している足では困難を極めるのではないか?かと言って、尾根へ出ても薮漕ぎは必至だろうし、第一、水がないしビバーグもあまり考えたくない。全員の水の量は、また沢に降りるということを前提にしているので、ほとんど残っていない。地図とにらめっこしていたが、結局尾根から行くことに決定!ここでT嶋の教訓「巻きが大きい時はその前に必ず給水すること」

ここで時間は1330。祝瓶山頂上に着いたのが1830なので延々5時間薮漕ぎしていたことになる。カッパの川流れならぬ、丘に上がったカッパになってしまった我々は頭のお皿が乾くのを恐れながら、薮の中をせっせと歩く。尾根上ではとんでもないブッシュの迷路になっている。「薮がましであってくれ」というみんなの願いは粉々に粉砕された。去年の合宿で這松の薮漕ぎが報告されたが、それに勝るとも劣らぬ薮漕ぎを強いられた。それでも少しでも頂上に近付いている事を時々薮の上に出た時に確認することで、発奮させていた。

曇り空に助けられているとは言え、お皿が乾く。一番早く乾いたのは、モグリ専門カッパY形である。水が切れると、こんなになるのかということを、いやというほど思い知らされた。尾根上では大切な釣り道具のヒッカケを軽量化と薮漕ぎの邪魔になるということでデポ?してきた。T嶋も軽量化のため、草履をデポ?する。また、雪稜のだれかがついでの時に取りに来るだろう・・・って、誰が来んにゃ!!

少しだけ持っている水を啜るようにみんなで回す。それでも焼け石ならぬ焼け皿に水とはこのこと。すぐにバテる。お皿の乾きが限界にきたとき、先頭を行くT嶋の歓声が聞こえた。「いやっほー!!!いえーーーーー!!やったーーーついたぞーー!!!!」後続のカッパ達顔を見合わせ「えっ、ついたっていった??」「ほんまかーーー!!」一気に歩くスピードが早まる。今まで苦しかった動悸が胸の高まりに変わる。エネルギーがぐんぐん上がってくる。自分にまだこんなにエネルギーが残っていたとは!ブッシュを抜けると目の前に一気に朝日連峰の山々が広がる。走って山頂に到着。みんな喜びの感情を押さえられない。「やったーーー!!やっほーーーぎゃーー!わぁーーーーーー!!!」お互い抱き合い、全身で喜びを表現している。山に登っていて一番すばらしいと思える瞬間だ。視界は360度開け、北に伸びる朝日連峰の山々のつながりが実にみごとだ。 しばしそこで喜びをわかちあった後、西に沈む夕日を見な がら下山路につく。K谷の足はひどく痛そうだが気力を振り絞り、歩いている。緊張状態では感じなかった痛みが頂上につき緊張がほぐれると、とてつもなく痛くなる。僕も一度味わった事があるからよくわかる。乾いたお皿は夜になってもやはり乾く、雨でも降ってくれないかと思いつつ、だらだらした尾根上の下山道を歩いて行く。今までの薮漕ぎにくらべると、このなんでもない細い登山道が国道のように見えてくる。途中、沢に降り「鈴出の水」をしこたま飲んだ我々は元気を取り戻し、車の置いてある。登山口まで戻った。時間は夜の1030になっていた。合計17時間歩いた体は疲れ果てていて、その日は行きに寄った道の駅でテントを張り、疲れを癒した。夕食もレストランも何も開いてなく、コンビニでラーメンを買って食べた。翌朝、歩き過ぎでむくんだ足をひきずり、デポしてある自転車を回収、金目そばを食べて帰京した。
                                          記:Y形

 

コースタイム

1日目 林道終了点730-金目川取り付き点755-岩魚小沢上900-モチア沢出合950-釣り-昼食1200-魚止の滝下1400-テン場1530

2日目 テン場520-連続10mの滝下900-7m滝下1015-20m滝トラバース点1330-EL1170mポイント1500-祝瓶山山頂1830-登山口2230

 

カッパ達の感想

 

ボスカッパ K谷:来年また朝日に来るぞ!!

カッパ隊長 T嶋:つかれた〜〜!でも年2回位は、この様な限界に達する山行がしたい。サンダルすてたし・・

カッパ大明神K原:自分のレベルに合わせて来ます。

マジックハンドU田:お助けヒモに助けられっぱなしでした。

モグリカッパY形:水がなきゃイヤ!!鈴出の水で助かった〜〜!