黒部丸山一ルンゼ中間壁・イリュージョン82

 

期間・02年9月20日から9月22日

メンバー・CL・N川、京都雪稜クラブ

        O森、関西岩峰会

        E口、佛大WV部

資料・日本のクラシックルート、日本登山大系5、日本の岩場下巻

   岩と雪・19、47、129、130、155号

 

感想・報告

出発前日の晩、E口さんには私の避難小屋に泊まってもらい、翌日の20日の早朝に阪急四条烏丸駅でO森さんと落ち合い、高速道路を利用して豊科、そして扇沢に到着。扇沢からトロリーバスに乗り込みダム駅に到着。以前の三月に来た時は、出口は雪に埋まりトンネルを掘って外に出たのが懐かしく感じる。今日は、内蔵助出合の鉄塔下のテン場までなので気楽にスタートする。途中、「丸ハゲ東壁、大ハゲチャビン、、、」などと冗談を言いながら歩いていると、テン場に到着。水汲みを兼ねて、登攀具のデポと壁の偵察に出かける。

一ルンゼ出合から3分の2位を登ったところに、登攀具をデポした。帰路、水を汲んでテン場に戻る。

9月21日・快晴

いよいよO森さん、E口さんの本チャンデビューの朝である。少し肌寒いが見上げる空は最高である。良いなー、好いなーの登攀日和である。快調に一ルンゼ出合から南東壁基部まで駆け上がる。少し休憩して、取付きまで登り登攀具を身に付けてザイルを結ぶ。私のリードで登攀開始。

1P目・?・35M、N川

階段状のピッチ、久し振りの岩登りなので緊張するが、無事ビレー点に到着。二人をむかえる。O森さんは、なんかわざと難しい所を選んで登ってきたとのこと。E口さんは、私のラインを登って到着。

2P目・?・20M、N川

ここからは、細いバンドから凹角の下に進むのであるが、私は少し登ってからバンドに下りてしまった。ランニングを一本も取っていなかったのでドキドキしながら、3人が立てるレッジを見つけてハーケンを2本打ってから、二人に登ってきてもらう。ここから見ても凹角の下まで残置が無い、、、。スタンスには砂や小石が乗っているので、何度か登り下りしても、怖くて進めないが気合で前進。なんとか、トラバース終了。ここで、アングルを一本叩き込んで、凹角下のビレー点へ。O森さん、E口さんの順で到着。ハーケン2本とアングル一本は、E口さんが回収して来てくれた。

3P目・?+・35M、N川

唯一残置の少しあるピッチである。少しの草付きと浮石に注意がいるが、問題は無し。

4P目・?・40M、N川

ここも易しいピッチ、3人とも順調に通過。ホンマに駆け上がった状態のピッチ。

5P目・?・20M、N川

左上気味にスラブを駆け上がる。しかし、残置は無い。見つけられなかっただけかもしれないが、、。眼下には、白いスラブが日差しを浴びて輝いている。高度感も出てきて、素晴らしい写真を数枚激写。到着した広いテラスで、各自行動食にて燃料補給・電池を充電。

6P目・?・40M、N川

広いテラスからトラバースして、草付きを右上して行くが不安定な草付きの中に指を突っ込んだり、引っ張ったりの何でも有りで登っていく。トラバースの途中で私の拳くらいの大きさのアザミの花を見つけた。ホンマに大きなアザミなので感動。嫌な草付きを通過すると快適なスラブが現れる。この草付きには、O森さん、E口さんも苦労したようで、ビレーしていても、なかなかザイルが動かない。しかし、スラブに移るとスピードはグングンと上がってきた。

7P目・?+・40M、N川

トポにあるように、快適なスラブ。下部の岩壁のような嫌な草付きは無い。ホンマにシューズのフリクションが教科書で表現されているようにキマッてくれる。しかし、落着いて登らなくてはならない、取ったランニングは一本だけ。

8P目・?・40M、リード交代でO森さんへバトンタッチ

ここも快適なスラブ。O森さんは少し左上気味にザイルを伸ばし、途中の草付きにランニングを取り、ビレー点へ到着。続いてE口さん、私と登って行く。?級のピッチとはいえ、

こんな不安定なランニングで、よく頑張ってリードしたと感激した。また、、ビレー点は,貧弱であっが、ちゃんとしっかりと草付きの中の小木からバックアップが取ってあったのには、驚いた。そして、E口さんはO森さんの補助として、ザイルを整えている。トレーニングの成果があったやんと、心の中で喜んだ。

9P目・?+・40M、O森さん

高度感もあり、最高のピッチ。O森さんは、スラブを安定したホームで登っていく。フォローする私達二人は、ザイルで確保されているので十分にスラブのフリクションを楽しみながら、O森さんの待つビレー点へ到着。ここで、私か「よかったー、終了や」と言うと、

二人は「えー、もう終わり、、、」、「もっと、のぼらへんのん」と残念そうな抗議。しかし、最終の?級のピッチは、草付き・浮石が多い潅木帯に入るので懸垂下降のことを考えると、ここで登攀終了と判断した。ここで、下降の緊張感の緩和のために大休息。行動食を食べて、不要な登攀具をザックに詰め込み同ルートを下降。12回の懸垂下降にて、南東壁の基部の登山靴をデポした地点まで降りてきた。あとは、テン場まで下るだけであるが、陽が落ちるのが早いので、途中からヘッドランプを点けて降りた。振り返ると、壁の中でヘッドランプが、チカチカと光っている。「ヒュ―」と言う奇声や「ファイト―」と大声で壁のクライマーに声援を送り、途中で今夜の夕餉のための水を汲んでテン場へ帰った。

9月23日・曇り

少し遅い起床。4時過ぎに例の如く覚醒した私は、御機嫌良く寝ている2人を起こしてやろうという衝動に、、、、、。これこそ、物凄い抗議を受けそうなのでおとなしく、もう一度シュラフカバーに身を鎮めた。朝は、なめこ・大根おろしの温かいおうどん。そして、E口さんの屋久島の御土産のさかな。おなか一杯に食べて、黒部ダムまで登り返した。ダムに到着後、トロリーバスの発車時刻まで時間があるので、観光客に混じってダムの展望台まで見物に行った。トロリーバスに揺られての15分は心地よい睡眠に誘われた空白の時間であった。扇沢に到着後、「薬師の湯」へ向い露天風呂につかり、手掌に残るスラブの感覚が湯の中に溶けていくのを感じた時。ホンマに、3人で登ったという新しい喜びが湯の中から私の身体に染み込んできた瞬間でもあった。

 

登攀を終えて

今回は、新しい仲間との登攀であった。岩峰会・O森さん、佛大・E口さん。ホンマにありがとうございました。不器用なリーダーについて来て頂いて。今回は、天候にも恵まれて最高の登攀であった。知らんもん同士が、いきなり本チャンにと、、、思う人もいるかも知れませんが、今回の完登は事前のメール交換・登攀会議・トレーニング、意見交換、疑問の解決等の数多くの時間を通過してきたのである。

今回、なんで、このルートを選んだかと言うと、アプローチが短くて・アブミを使わない本チャンルートということで選んだ。しかし、素晴らしいルートなのに知っている人は少ない。言い換えれば、それだけ残置やビレー点が整備されていないとも言えるのである。今回、懸垂下降の支点すべてに、スリングを残置して整備して来たので安心して下降することが出来た。だいぶんと、話が外れてしまったが、それだけ本チャンの面白さを楽しめたルートであったのである。そして、事前のルートの研究、トレーニング、装備・登攀具の選択が重要であると感じた。そして、最近はグレードの追求や登ることばかりに気をとられているが、ビレー点・下降支点を上手く作れるかという事もである。少し辛口になるが、本チャンを目指すのなら、確実なビレー点、懸垂下降支点を作れるように勉強し技術を習得する必要があると思う。安全な支点に守られている登攀に慣れてきているクライミングが多い中、ホンマに支点を自分の手で作るということ無いですもんね。こんなドキドキした登攀がアルパインにはある。特にあまり再登されていないルートにはね。