【夏合宿】憧れのキレットと滝谷クライミング
 (無雪期縦走・無雪期アルパイン)

メンバー CL松田・高橋ひ・津久井み・廣澤・山住・稲野・木村・田澤・川島
期日 2003年8月12日夜〜8月17日
山域 北アルプス 穂高岳周辺
ルート
山行形態 無雪期縦走・無雪期アルパインクライミング
文責 津久井み

報告と所感

 雪稜での初合宿。どんな山行でも臆病+心配性のわたしは行けるかどうか不安になる。しかも今回は重?い登攀具を持っての槍穂縦走と、「飛ぶ鳥もかよわぬ」「岩の墓場」と呼ばれる滝谷でのクライミング・・・。これはもう軽量化しかない!と8.2mmのロープと軽いレインウエアーを思い切って新調しての参加となった。

*8月12日(火)

 運転をいなっち、ひろりんにお任せし、新米ドライバーのわたしは少し横にならせてもらったり、助手席でおしゃべりをしたりしながら、お天気を心配しつつも、お気楽モードで新穂高へ向かう。松田さんは例の如く日頃の睡眠不足解消のためか一番後ろですやすやお休み。

*8月13日(水)

 道の駅で車中仮眠し、松田さんから定番アンドーナツを頂き、眠い目をこすりながら出発する。途中コンビニに寄り、朝ご飯を調達。しかし、買い終わっていくら待てども松田さんの姿が見あたらない。ふと視線を向かいの交差点にやると、そこには交差点の花壇に座っておみそ汁をすする松田さんの哀愁(?)ただよう背中が・・・。松田さんの真似をして、みんなで交差点の花壇に横一列に並んで座り込み朝食をいただく。きっと端から見たら異様な光景だったと思う・・・。

 新穂高に着いてから第1ロープウェイに一番近い無料駐車場が満車で右往左往する。結局、第2ロープウェイに近い、「足湯」と書かれた看板を右に曲がったところにある少し離れた駐車場(きれいなトイレ有り。ティッシュ付き)に停めることになった。そこで共同装備を分担する。今回、食料はわたしのわがままで3人で負担してもらうことになっていたので、重さを均等に分けるのが難しかった。多少の誤差は仕方がないということで、最終的にはじゃんけんで。荷物を全て詰め込むと想像通りの重さに。(今回、軽量化するために全ての装備をはかりで計り、削れるものは削り、合計19.5キロくらいになるだろうと考えていた。どの山行でも余っていた行動食も今回は一日分300g以内に押さえたが、量はちょうどよかった。)ひぇ〜、大丈夫だろうか…と一瞬不安になる。でも、ま、今日は槍平までだし、なんとかなるか〜と思い直す。

 みんなで写真を撮って、出発。もしかして第1ロープウェイに近い無料駐車場に停められるかもしれないということで、とりあえず、車で出発した。しかし、また係りのおじさんに止められてしまい、みんなをロープウェイ前で降ろしてから松田さんが車を戻しに行ってくれることになった。松田さんに悪いな〜と話しながらロープウェイの売店内で待つ。しばらく待つと涼しい顔でニコニコした松田さんが・・・。結局、無料駐車場の反対側の入り口から入ることができ、そこで別の係りの人に事情を話すと停めさせてくれたとのことだった。よかった、よかった。

 予定より若干遅くなってしまったが、快晴のなか、ようやく槍平に向けて出発。顔中に汗が噴き出る炎天下で、明日以降の大雨暴風など、この時は一寸たりとも想像できなかった。

 しばらくはダラダラと林道歩き。白出沢出合を少し過ぎたあたりから山道らしい登りになってくるのだが、それまでの2時間半の林道歩きが一番つらかった。それからは所々で休憩しながらわたしにとったらちょうどいいペースで進んでくれる。チビ谷でも休憩。とてもさわやかな風が心地良い。疲れも和らぐ。チビ谷からすぐのところに、滝谷避難小屋がある。ついでなので中を見に行く。ちゃんとトイレもあった。小屋のなかには滝谷登攀中のクライマーの荷物がデポしてあり、「登攀中です」と書いて貼り紙がしてあった。滝谷登攀を現実のモノとして実感し、ちょっと緊張する。

 小屋から行くとすぐに、先日の台風で流されていたという丸木橋を通って滝谷沢を渡る。わたしは丸木橋の下が地面だと平気なのだが、下に水が流れているととたんに怖くなる。今回もちょっとのことなのに、足がすくんでしまった。みんなはピース写真を撮りながらの余裕なのに・・・。

 藤木レリーフのあたりから雲行きが怪しくなってきた。はやく槍平に着かないと降ってきたらイヤだな?と思いながら、一歩一歩足を前に出す。やっと小屋が見えてきた。うれしい!小屋の手前にある沢で、みんなで顔や手を洗って小綺麗?にしてからテン場に到着。さっそくテントを張り、外で食事の準備。食べ終わるまで天気が持ってよかった。食事はさつまいもが丸々一本入った豚汁。さつまいも争奪戦になったが、とーっても美味しかった!幸せ?☆

* 8月14日(木)

 前夜、みんなは沢の音が気になったと言っていたが、全然気付かずに朝を迎えた。この一日目の夜が今回の合宿で一番熟睡できた。しかし、起きると予想通り雨・・・。一気に気分も萎える。出発するか停滞するかという話になったが、小雨になってきたため、出発。この日は行けたら南岳までということだったが、とりあえず槍の肩まで行こうということになった。

 雨のなか、ゆっくり登っていく。しばらくはアルプスに来ているとは思えないほど、普通の山道だったが、飛騨沢が左手に見えなくなってきたあたりから、視界が一気に開ける。ちょうど雨も小雨になり周りの山並みがガスの合間から見えた!あ?、やっぱりアルプスにいるんだ、槍に向かって少しずつ進んでいるんだと実感。まだ見ぬ槍をドキドキ想像しながら歩く。

 千丈沢乗越への分岐あたりからは、かわいらしい高山植物が迎えてくれた。お盆の時期は例年、高山植物は期待できないそうだが、今年は寒かったこともあってか、たくさん咲いていた。ヨツバシオガマ、ウサギギク、ハクサンフウロウ、ミヤマダイコンソウ、クルマユリ、イワギキョウ、ダイモンジソウ、トリカブト、チングルマ、、、名前を聞いてもすぐに忘れてしまうわたしにはこれくらいしか分からない・・・。途中、高山植物に囲まれて休憩。だいぶ気温が下がってきている。山住さん情報によると15℃とのこと。飛騨乗越の手前からは雨と風がかなり強くなってきた。休憩するが8月と思えないほど寒い寒い!気温は12℃まで下がっていた。

 乗越から槍の肩まではすぐだった。テン場は風の通り道になっている。すでに何張かテントが張ってあったが、どのテントもすぐにでも風で飛ばされそうな勢いである。待望の槍の姿はガスで全然見えない。どこにあるかさえ分からない・・・。いなっちとひろりんが小屋に受付に行ってくれる。その間、松田さんと風の来ない岩陰を探したが、結局、小屋指定で吹きさらしの?8と9の場所に張らなければならないということだった。今回、夏山と思って油断し、手袋は薄いもの一枚しか持ってこなかったのだが、これが大失敗だった。風雨で体は冷え、手がかじかんで感覚がなくなりながら、みんなでテントの設営を行った。夏山どころではなく、完全に秋山だった。あまりにも体が冷えてしまったので、みんなで小屋に行き、ホットミルクを飲み、暖を取る。いくらストーブの前を占領しても体が温まらない。いつまでも小屋に居ても仕方がないので、水を買ってテントに戻る。

 テントの中は風と雨で大変だった。中でレインウェアーを着ていても背中がびしょびしょになってしまった。それでも、みんなで楽しくいろんな話をし、大笑いしながらの食事となった。この日は木村さん特製のタイ風まぜご飯。むちゃくちゃ美味しかった!!食べる前はこんなにたくさんの量を食べられるかな?と思ったが、ペロリと食べてしまった。

 こんな天気のなか明日は北穂に向けて出発できるのかな〜、合宿もここで終わりになるのかな〜とぼんやり思いながら就寝。

* 8月15日(金)

 雨と風の音がすごくて、なかなか熟睡できず、起床。木村さんが一番に起きたが、みんななかなか起きない・・・。重たい体を起こし、シュラフから出る。外は相変わらずの雨と風。みんなで朝ご飯の準備をしながら、隣の2人用テントの松田さん、山住さんを待つ。この時、4、5テンにいるメンバーの間では、「この天気やし北穂をあきらめて双六に転進する??」「それか下山して16、17日は晴れる予定らしいからクライミングに行く??」という話まで出ていた。この時点ではわたしも含めてみんな、北穂に向かう、つまりこの天気でキレットを越える気持ちはゼロに等しかった・・・はずである。

 みんなで、朝食(この日の朝食は雑炊だったのだが、暗くてよく見えず、水の代わりにポカリを入れてしまい、ポカリ雑炊となってしまった。かな?り甘い雑炊となってしまい、食べるのに一苦労。なんとか味を紛らわそうと木村さん山住さん、いなっちは雑炊に唐辛子をいっぱい入れていた!)。朝ご飯の間、少し雨が弱くなり、とりあえず、槍だけは登ろうということになった。もちろん松田さんは北穂まで行くつもりだったと思うが・・・。

 この日が下山予定だった山住さん、木村さんは帰りの時間がないということで、槍を断念して下山。残りの5人で槍に向かった。すると小屋の手前で、待望の槍がガスの合間から姿を見せた!!あまりに嬉しくみんなで興奮して写真を撮る。なんだか天気の回復が期待できそうで、一気に気分も盛り上がってきた。この天気のせいか、槍は大渋滞ということもなく、ところどころで少し待つくらいで登ることができた。雨の中の登りだったが、想像していたほど大変ではなかった。ガスで下が見えず、高度感が分からなかったせいかも?ついに槍登頂。やっぱり嬉しかった!祠に無事下山をお祈りし、みんなで記念写真と「やっほ〜!」をし、早々に槍を降りる。

 テン場に戻ってテントをお片づけ。雨はまだポツポツ降っている。念のため松田さんに「本当に今日キレット行くんですか〜?」と、こそっと聞いてみる。「そうや。(槍の肩を出発して南岳方面に向かって)けっこう行ってはる人いるやんか」とのお返事。ま、どちらにせよ、槍の肩にもう一泊なんて考えられなかったので、南岳までとりあえず行けばいいか?と内心思って出発する。するとすぐに一瞬青空が見えた!やっぱり天気は良くなるんだ!と確信。歩くにつれ、天気が回復してきた。嬉しい!

 南岳小屋に着いた頃には青空がいっぱいだった。ここでビショビショに重?くなったテントとフライを広げて乾かし、大休憩。ここで重大なことに気が付いた!!わたしが持っているはずの嗜好品の袋がない!紅茶とかポカリの粉とか調味料とかいろいろ入っていた袋である。どうしよ〜っ。槍のテン場にはなかったし、どこかで忘れてきたのかなぁー??一気に青ざめる。みんなは、「誰かのザックに入っているよ」「なくても砂糖はあるし、個人で紅茶とかポカリの粉を持ってきてるから大丈夫だよ」と慰めてくれる。優しいお言葉、本当にありがたい?。でも余計に悪いという気持ちが強くなる。(結局、嗜好品はその日の朝に槍の肩で下山した木村さんがゴミと一緒に持って降りていたということが後で分かって、ちょっとホッ。でも自分の担当分を持っていないことに南岳まで気付かなかったなんて反省です・・・本当にゴメンナサイ。)おまけにいよいよここからは、恐ろしいと噂に聞くキレット。自然と緊張してくる。なのに、追い打ちをかけるように、今朝、小雨の中、キレットに向かった韓国人の団体さん60名のうち一人がキレットで滑落したという情報が入ってきた・・・。「ひぇ〜!!重たい荷物持ってすでにフラフラなのに大丈夫か!?」とますます心配になってくる。バンダナを頭に巻き、気合いを入れてみる。

 ついにキレット突入。さっそくガレガレの所を降りていく。後から思うと何でもないところなのに、妙に緊張する。しかし、歩くにつれ気分も次第に落ち着いてきた。

 キレットに入ってすぐに男性一人とすれ違って以来、全然人にも出会わない。と思っていたら、先の方(最低コルの手前あたり?)に数名、人がいるのが見えた。行列の登山道はイヤだけど、たま〜に誰かと会うと小心者のわたしはちょっと安心する。「わーい、人がいる!」と思って、だんだん近づいていくと数名の人たちがただならぬ雰囲気で何かを持っているように佇んでいた。一人は仰向けに横たわっていおり、その横には緑のチェルトでくるんだものがある。「あっ、例の滑落した人が救助を待っているんだ」とピンときた。「滑落!」という文字が再び頭に浮かび、ゆるんでいた気持ちが緊張し直す。後で松田さんとたざりんに聞いた話によると、緑のチェルトには人がくるまっていたらしい・・・・・。

 長谷川ピークの手前(←今思うと。ピークの度に、「これが長谷川ピークや!」というお言葉を松田さんからいただき、その時は実際どれが長谷川ピークか分からなかった・・・。)で少し休憩する。休憩中、ヘルメット、ハーネス、ギア類を付けて救助に向かう男性二人に出会った。長谷川ピークからの信州側から飛騨側への乗っ越しは、わたしの短い足がなかなか定位置に届かず、けっこう高度感があって怖かった。(いなっちの長?い足を恨めしく思う。)長谷川ピークを過ぎるとまもなくA沢のコル。コルには、「A沢コル」とペンキで書いてあった。ペンキで岩に直に書いてあるのにもビックリしたが、とっくの昔に長谷川ピークを越えすでに飛騨泣きも過ぎたと思っていたわたしは、まだA沢のコルということに、もっともっとビックリした!この時点で16時30分。愕然!涙!!あたりはガスもだいぶ濃くなってくる。そこからは重たい荷物と登りとの戦い。ゼーハー言いながらがんばる。A沢のコルを過ぎた後に飛騨泣きも通ったはずだが、ガスっていたことと、ひたすら登りに徹していたせいで、長谷川ピーク同様、全然気付かなかった。

 「200」(北穂まであと200m)という文字が見えた時はどんなに嬉しかったか。でも「この最後の登りがほんまの飛騨泣きや!」という松田さんの弁には賛同!近いはずなのに遠かった。17時30分、北穂高小屋前到着。「やった?!やっと終わった?!」という気分。小屋の前では小屋泊まりの人たちがくつろいでいる。すると「ワーッ!!」という歓声が。何事かと思えば、ガスが晴れて、涸沢や北尾根、奥穂、常念がくっきり見えた!反対を見るとわたしたちが今日一日かけて歩いてきた槍がはるか向こうに見える。けっこう歩いたな?と実感。「とりあえず、暖かい飲み物とあんパン(売店で購入)を食べて休憩しよう」と松田さんが言うのも耳に入らず、いなっち、たざりん、ひろりん、わたしの4人は興奮しまくって、はしゃいで写真を撮りまくった。

 一時間ほど北穂で休憩し、やっとこさテン場に向かう。すでに日が暮れかかっているなかテントを設営。夕日がものすごくきれいだった。この日のご飯は皿うどんとワンタンスープ。これも具だくさん。おまけにウズラの卵入りで、すっご?く美味しかった!(しかもじゃんけんで一つあまったウズラの卵をGET!)小松菜和えは、乾燥小松菜をお湯で戻し、ひろりんが家で調合(?)してきてくれた梅しょうゆであえたモノで、食が進んだ。こんなに上品なものが山で食べられるなんて。なんて贅沢!今夜もまた、みんなきれいに完食。

 明日はいよいよ滝谷。この日は疲れ切っていたにも関わらず、なかなか寝られなかった。

* 8月16日(土)

 怖〜いイヤな夢を見て目が覚めた。本チャンの日の朝はいつも怖くて泣いている夢を見る。去年いくさんと行った北岳バットレスでもそうだった。無意識のうちに、やっぱり緊張しているのだろうか?壁を目の前にすると度胸がすわるのだが、行くまでは本当に心臓がドキドキ。

 白出にいる高橋・川島パーティが朝7時に北穂に来ることになっている。3時30分ごろ松田さんがそろそろ起きようとみんなに声をかける。シュラフの中から「おはよーございます」とみんなの声だけはするものの、一向に起きる気配なし。この日は4時に起きる予定。松田さんのフライングだった。

 餅入りラーメン(このお餅も軽量化を考えると持っていこうかすごく迷ったけど、一人小3個のお餅はみんなペロリとたいらげた。持ってきてよかった。)を食べ、テントを片付ける。片付けている間中、涸沢からどんどんクライマーが登ってくる。滝谷が混みそうで少々焦るが、7時待ち合わせなので、焦っても仕方がない。逆に「こんなに沢山の人が滝谷に行くんや〜」と変に安心するわたし・・・。

 松濤岩で高橋・川島パーティを待つ。待っている間に、シュラフやストックなどデポするものを整理し、腹ごしらえをしたり、トポを眺めたりしてゆっくり過ごす。この間にもぞくぞくとクライマーたちが滝谷に向かう。2人2人のパーティ、2人3人のパーティが沢を下っていった。8時ごろようやく高橋さんと川島さんが現れた。途中で縦走3人組に会ったとのこと。

 高橋さんたちもデポするものを整理し、いよいよわたしたちも出発。松濤岩からすぐのところで、第二尾根のP1の手前にある踏み跡を左方向にたどるとC沢が登場。このC沢は足を一歩出すごとに、小石から1m以上ある岩まで落ちる。わたしはさっそく5、60cmの岩を落としてしまった。本当にヒヤヒヤする。わたしたちが滝谷に向かった最後のパーティで、前方にC沢を下っているパーティも、後ろに続いているパーティもいないことが唯一の救いだった。松田さんの後を慎重に着いていく。慣れるまで本当に生きた心地がしなかった。

 C沢下降の前半は、ドーム中央稜の取り付きにたくさん人がいるのが見えた。また、だいぶC沢を下ると、今度はちょうど正面に、スノーコルに向かって登っている人たちが小さく見えてくる。空を見上げると何の鳥か分からないが、悠々と飛んでいるのが見えた。「飛ぶ鳥もかよわぬ」というのは嘘だなと、また変なところで安心した。

 このC沢を抜けるのに2時間もかかってしまった。C沢を抜け、バンドを渡りハイ松のある第4尾根のふもとへ。ハイ松のある赤茶けたガレガレしたところを登り、やっと小コルへ到着。第四尾根の1ピッチ目を登っている先行の2人3人パーティが見えた。スノーコルまではロープなしですぐ行けるところなので休憩がてらしばらく待ってから登攀開始。

*ピッチ・グレード:『改訂日本の岩場』(下)参照

 1ピッチ ? 松田さんリード。途中で2ピッチに切る。中間にきちんとした支点がある。全体にどこでも登れそうだが、ピンが少なく特に後半は浮石が多い。左上気味に稜線を目指して行く。前半終了後、松田さんに次ぎをリードするか聞かれたが、まだ岩になじめず、後半も松田さんにリードをお願いした。

 2ピッチ ? わたしがリード。Aカンテ。比較的岩が硬いカンテ。ビレイの支点はなく、岩にスリングで確保してもらい、思い切ってリードに挑戦。両側が切り立ったカンテに乗るようにしていくので、高度感抜群。しかし、思ったよりもフリクションが効く。リードは怖いけれど、やっぱり気持ちいい!

 3ピッチ ? 松田さんリード。Bカンテ。Aカンテよりは登りにくい感じがした。高度感もあり、出だしがちょっといやらしかった。

 4ピッチ ? 3ピッチの続きで松田さんが4ピッチの途中にある木まで行きそこでビレイ。ここで休憩をし、腹ごしらえをする。この頃からガスがかなり出始めた。先を見ると、Cカンテとその上のルンゼ状のガリーを登っている先行パーティの姿がガスの合間に見え隠れする。ガリーでは頻繁に「らくー」と声がし、かなり大きな落石がされていた。その度に谷底に石が落ちるスゴイ音が響き渡り、イヤな感じである。心臓がキューとなる。後ろからは、姿は見えないけれど高橋さんと川島さんの声が聞こえてくる。

 そして、4ピッチの後半の水平のリッジ、5ピッチの取り付きまでは、松田さんに一応確保してもらってわたしが先に行く。最後のリッジの幅は1mもあっただろうかという印象。ガスっていて、つくづくよかったと思う。

 5ピッチ ? わたしがリード。Cカンテ。このピッチの出だしはカンテ上にピンが見えず、その側面にカンテに向かっていくつかピンが連打してあったので、そっちかなぁと思って見てみるが、どうも行きにくく、結局カンテに戻って登る。登っていくとちゃんとピンがあった。ここは岩も硬く短いけれど一番楽しくて気持ちよかった!

 6ピッチ ? 松田さんがリード。先行パーティがかなりの落石をしていたところ。ロープが流れるだけで落石が起こる。松田さんも一度大きな石を落とす。ロープの上に落ちて一瞬ひやっとする。セカンドのわたしも落石をしてしまった。登ってみると本当に本当にイヤなところだった。リードじゃなくてまだよかったと心底思う。最後は左側を通ってピナクルの基部を越える。

 7ピッチ ? わたしがリード。出だしのフェースを見ると苔がいっぱいで登りにくそう。ピンも見えないので、右側面から取り付いてフェースに移る。フェースが終わると凹角のクラックからツルムの肩を目指す。このクラックは少し力がいった。ツルムの肩に着いても終了点が見あたらない。仕方なく、ロープがこすれるが、少し左の方にあったきれいな支点を使う。(本当はそのままもうツルムの頭に向かってもう少し上に行くのがどうも正解だったようだ。)最後に左に来たことでロープの流れが悪くなってしまい、セカンドのロープを引き上げるのにものすご??く力が必要だった。ロープを上げるのだけで腕がヘロヘロ・・・。この作業が一番つらかった。松田さんが下から「ロープアップ?」とコールするものの、なかなか上げられなかった。松田さんごめんなさいー。

 このピッチが終わると懸垂。わたしが確保して、まず松田さんが懸垂支点のあるテラスに行く。懸垂支点のスリングはかなり劣化していたため、松田さんがスリングをひとつ犠牲にしてくれる。このツルムの肩付近は全体的に浮き石が多く、懸垂支点のあるテラスに行くまでも落石を起こさないかひやひやした。ロープ一本で懸垂は十分たりた。もう一本のロープは担いで懸垂。ちょうど次のピッチの取り付きに降りられる。ここで前のパーティをしばらく(30?40分くらい?)待つことになった。ガスはますます濃くなり、時折、霧雨が降っている。風も少しあり寒くなってきたので、ここでレインウェアーを着る。あと2ピッチだが、時間も遅くなってきたこともあり少し不安になるが、松田さんは焦る様子もなくどっしり構えておられる。そんな松田さんの姿を見て、「まぁ、明るいうちに登攀が終わればなんとかなるかぁ」と思い直す。

 8ピッチ ? 松田さんリード。霧雨で岩が全体的に濡れてきている。フェースは問題ないが、チムニーの最後を乗っ越すのにスタンスがすべってすべって苦労した。

 9ピッチ ?A0(?)わたしがリード。ルートの核心、Dカンテ。松田さんにリードをお願いしよう?と密かに思っていたのに、松田さんは「どうしても行けへんかったら、右側からまけるみたいやから行ってみ?」とおっしゃる。逃げ道があるんなら行ってみよう?と思う軟弱なわたし・・・。トポには小カンテが二つあり、二つ目が核心とある。登っていくとまず一つ目のカンテが登場。でもピンが一つもない・・・。全くない・・・。合ってるんかな?と不安になりあたりを見回す。右側面に懸垂の支点らしきものはあるもののルートっぽくない。やっぱりこのカンテを行くしかないか・・・。ピンがないから緊張するが、一つ目のカンテは問題なかった。そして二つ目のカンテ登場。これが核心か?と思う。確かにちょっぴりハングっている。思わず下にいる松田さんに「ここが核心みたいなのでビレイよろしくお願いしま?す」と声をかける。トポに「人工を使う場合はスリングにワンステップ」とあったのを思い出す。右手でホールドを持ちながら左手でスリング二本を使ってわざわざ即席アブミを作ってみたが、結局アブミは使わずA0で突破。・・・・・。時間の無駄だった。反省。この核心は、思い切って行ってみると、ホールドはしっかりしていて想像していたほど大変ではなかった。それより前のピッチのチムニーの乗っ越しの方がわたしは苦労した。核心を乗っ越すとすぐに終了。ボロボロの懸垂支点で確保する。

 とうとう登攀終了。松田さんとガスのなかパシャパシャとお互いの写真を取り合う。充実感、満足感でいっぱい!けれど登山道に出るまでまだまだ安心はできない。最終ピッチからはまだ少しガレガレの尾根のため、もう1ピッチ分くらいの距離をお互いを交代で確保して行った。そしてロープを片付け、登山道に向かって最後の登り。終了から登山道までは割と近かったように思う。しかし、登山道に着いた時は18時になっていた。当然、登山者は誰もいない。ここで、松田さんと無事終了の握手。フラットソールを脱ぎ、ギアを片付けて、高橋・川島パーティを待つ。待っている間メールを確認すると、朝、北穂で別れた縦走三人組からのメールが届いていた。わたしたち登攀組は今日白出に行って合流する予定だったからきっと心配してるだろうなぁとふと思う。とりあえず北穂に着いてから連絡をすることにする。

 高橋さんが登山道に登ってきたころにはかなりガスが濃くなってきていたため、ヘッドランプで照らさないと位置が分かりにくくなっていた。登攀開始以来、初めて4人が顔を合わせる。みんなで握手。

 そして、北穂に向かって出発。かなり疲れていたので、松濤岩まではすごーーーく長く感じた。途中、足下がだんだん暗くなり、ヘッドランプを付ける。松濤岩に着き、デポしていたものを持ってとりあえず北穂高小屋に向かう。みんな疲れていたこと、天気予報では明日雨だということ、ツエルトしかない(シュラフなどはデポしていたのであったのだが)こと、などの理由から、もし泊めてもらえるのなら小屋に泊まろうということになった。

 フラフラになって見覚えのある小屋に到着。松田さんが小屋の人に交渉してくれる。その間、わたしたちは小屋の前のテーブルで待つ。小屋の中では暖かい光に囲まれてちょうどお食事中。みんな窓に顔を近づけてジロジロこちらを眺める。恥ずかしい・・・。交渉の結果、部屋は満室だったため、机をすみに寄せて食堂に泊まれることになった。21時消灯なので、急いで外のテーブルでご飯を食べることに。わたしと松田さんは食料が明日の朝の分しかなかったため、高橋さんたちの予備食として多めに持って来られていたスープスパゲティを分けてもらう。お漬け物、ビーフジャーキー、紅茶までいただく。(高嶋さん、川島さんありがとうございました。)おまけに小屋の人たちは水とお湯を持ってきてくれる。こんなに良くしてもらえるなんて思っていなかったのでとても嬉しかった。感謝の気持ちでいっぱい。

 そして雨の心配がない小屋でお布団に入って就寝。わたしにとって小屋泊まりは二年前の白山以来2回目。

* 8月17日(日)

 起きると予報通りの雨。昨日クタクタになっていたので疲れがまだ残っている感じがする。おまけに雨の中、荷物を持っての岩稜歩きを考えると憂鬱になる。でも、今日下山なので何が何でも行かなければならない。

 北穂岳小屋には炊事場がないため、外のテーブルと売店の軒先を借りて、雨のなか食事を作る。昨日の夜と同じスープスパゲティ。今回の山行では、自分でもビックリする程よく食べたけれど、さすがにこの日の朝だけは、なかなか喉を通らない。ザックに座ってゆっくり食べる。

 6時すぎに小屋を出発。この雨と風のため、わたしたちと同じく奥穂に向かう中高年のご夫婦と奥穂から来た男性2人に会った以外は誰とも会わない。レインウェアーの帽子をしっかり絞り、雨の中黙々と歩く。途中までは昨日ヘッドランプで通った道。「あぁ、ここ通った通った」と思い出される。しかし、さすがに足を上げるのがしんどい。特に涸沢槍の登りは本当につらかった。キレットを越える時、コースタイム以上にかなり時間がかかったので、白出までは一体どれくらいかかるのだろうと思っていたけれど、意外とはやく着いたのが救いだった。

 緑のエスパースが見えた時は本当にうれしかった!たざりんが顔を出して迎えてくれる。わたしたちはすぐに奥穂岳山荘に入った。山荘の中は登山者でいっぱいだった。ポカリを暖めて飲み、ホッと一息。一息つくと、だいぶ体が冷えていたことに気付いた。いくらストーブの前にいても、なかなか暖まらなかった。

 1時間ほど休憩して下山開始。白出沢の下りも想像以上に長かった。ガレ場の下りが終わったとおもったら、今度は木の根っこだらけの下り、沢横断。そして再び林道歩き。一気に2000mくらい下るので景色の変化は面白かったけれど、だいぶ足に疲れがきていて、途中何度かこけてしまいヒヤッとした。最後まで気を抜いてはいけないと痛感。

 14時すぎ新穂高に到着。ここで沢班2のメンバーと合流。今回の山行はけっこう「合流」が多かったのだけど、どれも上手く合流できてよかった。村営の無料温泉に入って5日ぶりにすっきりする。湯船はちょっとカビ臭かったけど、気持ちよかった。足がアザだらけになっていた。悲!いつになったら岩と仲良くなれるのやら・・・。

 帰りはひろりん紹介の「よし本」で腹ごしらえ。山行中みんなで噂していた念願の飛騨牛を食べた。ちょっと贅沢だけど、がんばった自分にご褒美。すごっく美味しくてこれまたペロリと完食!

 帰りは特に大渋滞することもなく、また、みんな話も尽きることなく賑やかな車中となった。

総括

 山のことを十分に知る前に、山でいろいろ怖い思いを経験したわたしは、山に対してすごく恐がりになっていました。少しでも雨が降ったり、風が強かったり、ガスってきたり、行動時間が遅くなってきたりすると、すぐに「ビバーク」「遭難」という言葉が脳裏によぎり、無事下山できるだろ?かといつも一人不安になっていました。

 しかし、今回の山行で、雨のなかの槍登頂、雨こそ止んでいたけれど天気が不安定のなか時間を押してのキレット越え、落石・ガス・霧雨・帰りはヘッドランプとなった滝谷クライミング、雨風の中の北穂から奥穂岳山荘への岩稜歩き、などなど貴重な経験をしたことで、少しだけ自信がついたような気がします。むちゃな行動をせず、慎重に行動・判断し、備え・準備を十分にしていれば、必要以上に怖がることはないということを実感できました。

 どしっと構えてみんなを見守ってくれていたリーダーの松田さんを初め、楽しいメンバーに恵まれたお陰だと思います。今まで以上に山を好きになりました。これからもっともっといろんな山に行きたくなってきました。とにかく充実した満腹感でいっぱいの合宿でした!!行く前は案の定、不安だらけでしたが、参加できて本当によかったです。

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