御在所岳 (無雪期アルパインクライミング)

メンバー 津久井いH
期日 2004年4月10日〜4月12日
山域 御在所岳・藤内壁
山行形態 無雪期アルパインクライミング

日程

4月10日(土)
自宅6:30→四日市10:00→登山口→藤内小屋→12:50一の壁16:30→藤内小屋泊
4月11日(日)
起床・藤内小屋8:00→8:30前尾根(午前中)(8:40〜13:00)→14:30藤内小屋泊
4月12日(月)
起床・藤内小屋7:00→中尾根(8:45〜11:20)→藤内小屋→下山→希望荘温泉→JR四日市4:00→帰宅6:20

津久井の所感

御在所は、毎年行っている山域だ。前尾根は回数を忘れてしまったほど登り、中尾根はこれで6回目となる。私はクライミングに対しても山に対しても、気持の上では遊びなので、気に入っているところは何回行っても嬉しい。御在所が何回行ってもいいと思えるのは、スケールの大きさとロケーションの良さという点で近場では類を見ない山域だからだろう。

今回の計画は、私のHPを見ていてくださっていた女性から昨年の11月に、御在所に行く約束していたパートナーからキャンセルされてしまい、どうしても行きたいのでパートナーを捜している、という内容のメールが来た。これから季節は御在所は雪なので、4月頃お付き合いしてもいいですよと返信した。

その後、メールのやりとりが始まった。クライミングに積極的に取り組み、女性で自発的に山に向かっている人だなぁー、というのがおいおいわかってきた。クライミングに対しても、しっかり自分の考えを持っていらっしゃる。初対面でもだいじょうだろうと思った。そして、4月の登攀が現実のものとなった。

そして、当日お会いして「私は何回も登ってるので、トップでもセカンドでも好きなようにしてください。」といったら、即座に「全部トップでも良いですか?」といわれた。さすが自分から行きたいと言ってこられただけのことはあるなぁーと感心した。Hさんの自発性と積極性をこれからは見習いたい。

というわけで、Hさんとは3日間クライミングづくしの毎日を一緒に過ごした。

そして何よりも3日とも晴天に恵まれたのと、Hさんのリードも安定していて安心してられたのとで、私は心底クライミングを楽しめた。

しかし3日目の中尾根へのとりつきを1ルンゼの高巻き薮こぎで行ってしまったのは、良い経験にはなったが、やっぱり「急がば回れ」で素直に行けば良かったと後悔した。

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Hさんの所感

出会い

「日本100岩場」の御在所のルート図を見ると、実際の岩の写真にラインが引かれてあり、ヨセミテチックな美しい花崗岩であることがよくわかる。2003年11月に御在所を登りたいと思って、東京の友人と計画した。

しかし彼女の属する会の先輩の方から、「御在所はアルパインというほどじゃないよ。」とのアドバイスがあったそうで、キャンセルされてしまった。

それからの私は、御在所に登りたい思いがつのるばかり。確かに新幹線代がかかるしな、東京から付き合って欲しいというのは無理というものだ。

そんな時、知人のホームページからリンクして「いくさんのお部屋」を見た。いくさんの会が東京雪稜会と名前が似ていることも親近感を覚える。感動したのは、「山岳会に入っても若い女性には男性から声がかかるけれど、(ある年齢になると)誰も連れて行ってくれないから、自力で行くしかない。」というくだりだった。こんな女性もいるんだな〜。そして御在所をホームゲレンデとしていらっしゃることから、思い切ってメールでパートナーをお願いした。こうして雪解けを待ってのクライミングが実現した。

4月10日

東京発7:36発ひかり〜快速みえ 名古屋〜四日市9:58着

いくさんが車で迎えてくださり、湯ノ山温泉のトンネル横アプローチ道へ。約1時間で藤内小屋へ着く。受付して、12:50一の壁着。

ここは広沢寺をよりワイルドにしたようなフェース・クライミングだ。すべて1ピッチのルートながら、40mのスケールがある。いくさんは私を東京からの客人として、これから3日間で16ピッチをすべてリードさせてくださった。

1ルート・級:初めての岩場で岩質も形状もつかめず、W級でもびびる。60mシングルロープなので、1本登るごとにロープをたたんで歩き下降する。

2ルート・級:前のW級より少し難しい。でも岩質に慣れてきた。

コンテスト5・10a:核心はちょっとのハング乗っ越し。例によって「落ちるかも〜。」を連発しながらなんとかオンサイトした。登れてしまえば10aはないような気がする。

左ルート・級:のはずだったが、核心のハングの上から、ペツルのボルトが近距離で交錯していて、左に行ったなら前の10aのルートといっしょになってしまう。ルート図を出して見てもよくわからない。ランナウトを覚悟して右のクラック通しのラインを行ってみた。結果的に10mくらいランナウトして、左ルート〜右ルート〜ダイレクトルートW級をつなげて右上してしまった。終了してみると、55mもロープを伸ばしていた。60mロープでよかった。

4月11日 前尾根 P7〜P2の7ピッチ

藤内小屋8:00発 取り付き8:30 登攀開始8:40 終了13:00 兎の耳というフリーの岩場を見物して藤内小屋着14:30

計画段階では、「100岩場」の写真ルート図を見ると各ピークに5.9のクラックのルートがあるように見えて、それらをつなげてクラックのマルチ・ピッチになるように思えた。しかし詳細を検討していくと、クラックは側壁にあり、わざわざ回り込んで行かなければならなかったり、ノーマル・ルートが自然なラインであることがわかった。余裕あるならクラックのラインを選択できるかもというところに落ち着いた。

1ピッチ:P7ノーマルルート・級 1mの距離でフィンガー・クラックがあり、上部で5.9のクラックと別れる。今回サブザックを持参せず、アプローチでロープ等を担ぐザックが必要とのことで、私は東京から全荷を入れて来た50Lザック(中身はほんのわずか)、いくさんは40Lザックを担いでの登攀となった。50Lザックを背負ってのリードなど初めてで、とても5.9のクラックから行く気になれない。上に抜けてからペツルのボルトが側壁に2本打ってあり、バルジ状(少しハング)になっており、このザックを背負ってこれを越えて行く気になれない。それが正しいかもわからず、巻いてただの歩きになってしまった。

2ピッチ:P6リッジルート・級 これもクラシックなライン。クラックはワイドなので持参したギア(キャメロット#0.3〜3)では無理。終了後、しばらくコンテで歩く。

3ピッチ:P5ノーマルルート・級 易しかったが、壁を抜けた後、岩は茫洋としてどこを行ったらいいのかわからなかった。右に歩くくらいの易しいクライミングをしていくとペツル2点の終了点があり、とりあえずそこまでフォローを迎える。

4ピッチ:P4すべり台・級〜上部ルート・級 私はビレイ点から素直に直上すればよいかと思ったが、いくさんが私をわざわざ・級に登らせようとして、偵察に行ってくださりこのラインをつなげる。上部のクラックのラインでは結構必死のものがあった。

5ピッチ:P3 Aスラブ 易しいスラブ。V級ながらランナウト。

6ピッチ:P3 B〜Cスラブ 55m 易しいスラブ。無理やり通常の2ピッチをつなげた。ライン取りやランナーの長さに迷って、リードするのが遅いこと。

前尾根全体に言えることだが、フォローの上がって来るスピードが速くてルベルソの操作が追いつかず、一部肩がらみビレイになった。ここでも昨年夏、ヨセミテで自分がその形でビレイされ、終了してからびっくりしたことがそのまま実践されてしまった。

7ピッチ:P2「やぐら」・級 快適なクラック。「楽しい〜。快適〜。」終了後、クライムダウンでやぐら取り付きに降り、東面の前壁ルンゼを降り登山道に出た。

裏道登山道を下る途中に、「天狗の踊り場」というどこにでもある名前の場所がある。ここは御在所をホーム・ゲレンデとして世界に旅立ち、ヒマラヤやその他の地で遭難死した多くの岳人の墓碑がある。御在所がいかに多くの岳人を輩出してきたかがわかる。

この晩は日曜日とあって、藤内小屋の泊まり客は私達ふたりだけだ。小屋番の佐々木さんは69歳になるのに、1回に50kgの歩荷をして材料を担ぎ上げ、小屋を新築中である。奥さんの美味しい手料理とお風呂までいただいた。普通1泊2食4000円のところ、労山の会員だと、1割引で3600円!!

また、若い頃御在所をホームゲレンデとされていた森正弘さんが自らギターを弾き歌っている自作自演の歌もテープで聴かせていただいた。同世代のフォークソング(ちょっとだけ上)が懐かしい。

4月12日 中尾根 5ピッチ

 小屋発7:00 取り付き8:30 登攀開始8:45

東京出発前は、森正弘さんの名ルート、カリフォルニア・ドリームの最初の3ピッチを登ってみたかった。しかし現地で情報を聞くと、5.10aとしてはだいぶ辛い、フリクションがない等であきらめた。中尾根は、前の日に小屋の前で会った某ガイドさんによると、「名ルートや。女性では一の壁をトップでやらはる人はおるけど、中尾根でトップをやらはる人はあまりおらへん。」(大阪弁になってる???) 少しびびる。いくさんによれば、中尾根をオール・リードできれば日本のクラシック・ルートはどこへ行っても大丈夫と言われたとのこと。私は全然そうは思わない。クラシック・ルートの多くには草付きという嫌らしさがあると思うから。

そのガイドさんのアドバイスを参考に、アプローチは通常の2ルンゼを行かず、荷物を取り付き近くにデポーして空身で登るために、1ルンゼ右股の入り口に踏み後を求めてみたが、激しいやぶこぎになった。沢の高巻きとしても、落ちたら一発アウトになる危険さもあった。

1ピッチ:P4 ・級+ 15m 瑞垣山の十一面岩末端壁を思わせるワイルドできれいな岩だ。チムニーのリードは今回初めてだ。ある程度外にホールドもあり、ハーケンも打ってあるので、なんとか突破できた。雪稜会に入る前、小川山の屋根岩3峰南稜神奈川ルートでチムニーが登れず、ゴボウになって引っ張り上げてもらったことを思い出す。チムニーへの恐怖感がこれで10%くらい払拭できたような気がする。距離的にこの上までロープを伸ばせるが、クラックにロープがスタックしそうなので、ピッチをきった。

2ピッチ:P4 ・級− 10m チムニー さっきより易しい。終了して、3mコンテで上がる。

3ピッチ:P3 ・級− 20m またもチムニー。入り込んでしまうのは簡単だが、出るには身体各部を駆使して、いろいろ工夫が要る。ハーケンが適度にあるけれど、錆びているし信用できないので、キャメロットをセットする。少しはランナウトするし、落ちたら絶対無傷では済まない。去年の夏に平澤さんがヨセミテ国立公園のトウラミ・メドウズで「僕は怖い時こそ楽しもうと思っているんです。」と鼻歌を歌ってリードしていたのを思い出す。別にそれを意識したわけではないが、怖さを紛らわすためにいつの間にか「ふん、ふん、ふん。」と鼻歌が出ていた。終了後、ツルムのコルへ20m懸垂下降する。コルは風が吹き抜けて、寒かった。

4ピッチ:P2 ・級 25m ガバなホールドを使ってちょっとしたハングを乗っこし、左トラバースし、かなり寝ているスラブにしっかり走ったハンド・クラックを行く。易しいからカムなどは要らないよと言われて持たずに行ったが、キャメロットがしっかり効くライン取りであり、結果的に15mはランナウトした。非常に美しいフェース。

5ピッチ:P2 ・級+? 25m 易しいクラック交じりのフェースを行き、ペツルのボルト2点にクリップした後、最初の核心となる。とてもV級とは思えない。直上に詰まって右のクラックを探るが、そこも安定して行けるとは思えない。いくさんにルートを聞いたりしながら、再び直上ラインを試みなんとか突破した。しばらく行くと、ルート図では5m×5mくらいの場所に、左右V級、直上X級となっている。右寄りにペツル2本あったので、とりあえずそれにクリップし、さらに右にハンド・クラックがあり、ジャミングがバッチリ効いた。でも左上しているので、足はジャミングで行くのはいささか怖い。ランナーも各60cm伸ばしているので、いくらぺツルでもこれで落ちたくない。ついにあきらめてハーケンに足で乗り、A0になった。どうやらトポのX級ラインをはずして、もう少し難しくしてしまったらしい。フォローもかなり苦労されている。

この上にはP1があるが、脆くてあまり登られていないとのことで、省略した。

ツルムのコルへ同ルートを2ピッチ懸垂下降。さらに雪が少し残ったガリーを30m懸垂し、かなりやばい岩場をクライムダウンして、少し登り返し取り付きへ戻った。雪解け直後とあって、谷川なみに悪い下降だった。中尾根は関西における内面登攀の秀逸ルートだ。100岩場の写真のトポを見ただけでは、こんな名ルートがあることさえわからず、やはり現地の方の御案内で行けて幸せだったと思う。

感想

私は、年末の伊豆海金剛スーパーレインとこの御在所中尾根を通して、マルチピッチ で自分の限界あるいは経験したことがない形状などに対する精神的な対処法が少し培われたような気がする。スーパーレインの3ピッチ目が自分の精神的、技術的力量の95%とすれば、中尾根は形状も含めて70%というところだろうか?

御在所を関西の人は「アルパイン・クライミング」ととらえている。でも関東の人はあまりそうでないようだ。私はそのあたりの区別がさっぱりわからないので、いつも山行計画書はアルパインでもフリーでもなく、「クライミング」としている。

ある人は二子の中央稜は山岳地にないからアルパインに入らないと言う。二子山というのは山岳ではない?アプローチが長くなければアルパインじゃないとも言う。では明星は?アプローチ何時間からアルパイン?標高何mから?お手上げでカテゴリー分けできない。

とにかく私は、この乾いて崩れない快適なクライミングが楽しかったし、この手のクライミングをこれからもやりたい。20歳台の人が1年でやることを実際に5年かかっているけれど、できるだけ自分の技術を高めて、得た技術で行ける所に行きたい。

そして、今回良きパートナーと出会えたこと。:最近あることからある方にアドバイスを受けた。「クライミングは最初にパートナーがあるのではなく、岩があるべきです。本当に登りたいルートがあるなら、誰とでも行けるはずです。」と。計画挫折の11月から約5ヶ月、どうしても御在所に登りたいというモチベーションを蓄えて、最良のパートナーを得ることができた。今までは、付き合っている仲間の関係から登る場所が決まってくるということも多かったが。

初対面、見ず知らずの者に「アルパイン」に付き合ってくださったいくさんには本当に感謝でいっぱいです。

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