早川尾根から鳳凰三山(無雪期縦走)

メンバー CL iku、K
期日 2004年7月16日(金)夜〜19日(月)
山域 南アルプス
山行形態 縦走
山名 栗沢山/2714m・アサヨ峰2799.1m・鳳凰三山(地蔵岳2764m・観音岳2840.4m・薬師岳2780m)
文責 iku

食料

17日 朝食(各自)昼食(行動食)夕食:かやくご飯・チンジャオロース・豚汁(IKU)
18日 朝食:蕎麦(IKU)昼食(行動食)夕食:カレーと春雨スープ・ふくしん漬け(K)
19日 朝食:お茶漬け(K):昼食:予備食ラーメン(IKU)

コースタイム

7月16日(金)
京都発21:20(樟葉駅集合・I、K、IKU)
7月17日(土) 晴れ・夜雨
温泉ロッジの市営駐車場3:10着仮眠温泉ロッジ市営駐車場発のバス6:34発→6:50着広河原(乗り換え)→7:20着北沢峠7:33発→北沢長衛小屋7:45→8:20着仙水小屋8:30発→8:55着仙水峠9;05発→10:30着栗沢山11:20発→0:45着アサヨ峰13:00→15:30着 早川小屋テン場泊
7月18日(日) 朝雨・曇・晴れ
早川小屋テン場7:45→8:15広河原峠8:40→8:35白鳳峠9:30→高嶺→0:40地蔵岳13:20→15:00観音岳15:15→薬師岳15:45→16:41南御室小屋テン場泊
7月19日(月) 早朝少し雨・晴れ
南御室小屋テン場6:20→6:55苺平→9:05夜叉神小屋11:00→11:20夜叉神の森バス12:00→温泉ロッジ駐車場/温泉→帰路22:30帰宅

記録・感想

明けても暮れても、フリークライミング中心の生活である。そんな生活もこの暑さでは成果も期待できず、嫌になっていた。

そんなとき、北岳の企画が会の方で出た。バットレスの4尾根はもう2回登っているし、山でも歩きたいなぁーとふと思った。参加する人数も少ないようなので、車に便乗させてもらえる。そしてこの三連休は夫も出張でいない…。

広河原までの入山が、夜叉神から通行止めになっていて2年目になっている。戸台から北沢峠に入るのだろうか、と思って地図を眺めていたら仙丈ヶ岳から北岳に入ることを思いついた。帰りに北岳の組みと合流して帰ればよいなぁー、とか久しぶりにテントで縦走もしてみたいなぁーと思い出した。昨年の骨折以来、重いザックでの山歩きはしていない。小屋での泊まりばかりで少し自信も喪失している。

これは、いい機会かもしれないと思い積極的にプランを練り始めた。そこでネットで肩の小屋のHPを見てみると、17日から広河原まで開通という文字が目に入った。南アルプス市の観光課に問い合わせしてみると、車は規制されるがバスとタクシーは17日始発から広河原に入ることがわかった。

これで予定は急遽夜叉神からまだ登っていない鳳凰三山に登り、広河原に降りようと決めた。しかし、北岳組の日程は前夜発の山中2泊である。これに合わすと、時間をもてあますことになる。もう少し先にある早川小屋あたりまで足を伸ばそうかな、と考えているうちに逆からの縦走を思い立った。

この方が標高差約600メートルほど稼げる。そして、早川尾根も縦走できる。それなら、甲斐駒経由では行けないだろうかと欲張った考えもしたが、今回は無理をしないでおくことにした。

会のMLで流したところ、Kさんからの参加の申し出があり、二人で行くことになった。

鳳凰三山は花の百名山に入っている、お花でも楽しみな山だという。下調べもバッチリ。楽しみにしていた。

当日、京都駅の待ち合わせに行くつもりで準備をしていると、もう一人参加者が増えたというリーダーからの電話があった。そのために予定が変わり、京阪沿線のもう一人と私たち二人は樟葉駅で待ち合わせ、女三人で9時20分ごろ私の車で先に出発した。

温泉ロッジには午前3時過ぎに着いた。案内の人が沢山出ていて吃驚した。下の市営駐車場に案内され、そのまま仮眠に入った。5時半頃に、京都駅から出発した後続組みの電話で目が覚めた。バス停に人が並びだしていた。私は眠れなかったのともう始発に乗らなくてはならないのとで、起きて用意を始めた。凄い人出で、こんなにも沢山の人がバス停に並んでいて乗りきれるのかと心配していたが、5:34発の始発バスが3台出ていて全員乗れた。

発車前に、場違いなスーツ姿で正装した人が並び、セレモニーが行われた。テレビの取材も来ていた。この光景は、登山者の雑踏の中では異様に思えた。私の乗ったバスの車掌さんの声も、心なしか興奮してはずんでいるようであった。

始発は、次の北沢峠へのバスに乗り継ぎもいいので、私は何がなんでも始発に乗ることにしていた。広河原での乗り換えにもずらりと並ばなくてはならず、少しうんざりしてしまう。北沢峠にバスが着いたら、バスの横をよくフリーでお会いする大阪のクライマーの顔が見えた。その時はまだバスの中なので、声が掛けられずやり過ごした。

北沢峠では今度は広河原に向かうバスに乗る人が列をなしていた。これだと北岳方面は凄い状態だろうなぁーと想像が出来た。

綺麗なトイレで用を済ませ、仙水峠に向かう。すぐに北沢長衛小屋だ。早速、タカネナデシコとオトギリソウ、クルマユリが出迎えてくれる。テン場にはテントが結構沢山張られていた。緩やかな谷筋の登山道を登っていくと、仙水小屋に着いた。ここで休憩をしていると、バスのなかで見えた大阪のクライマーの男性が水を汲みに来た。どこへ行くのかと聞かれ「鳳凰三山の縦走」だと応えると、「山にも行くんですか?」と聞かれる。私は、本当は山に行くためにクライミングをしているのに、変な質問だと思ってしまった。「本当は山が好きなんですよ!」と何だかちぐはぐな応え。

このパーティーは4名で仙水小屋のテン場をベースにクライミングをするらしいとわかったが、私は赤石沢ダイヤモンドBフランケ赤蜘蛛ルートとか、冬の黄連谷ぐらいの名前だけしか知らないので、ルート名を聞いてもピンとこなかった。仙水峠で休憩をしながら、目の前の摩利支天のクラックを示し、親切にルートの説明をしていただいた。帰ってから調べたが、家にあるクライミングのルート集には載っていなくて、ネットで「摩利支天中央壁独標ルート〜上部ジェードルルート」だということがわかった。このメンバーの中に、私より少し年上の女性がまじっている。フリーでもよく顔を合わしていて、年齢も近いこともあって親しみを勝手に感じていたが、こうしていろんなルートに行けるのは羨ましく思った。

そのパーティは、そこから谷筋を取り付きに向かった。風が強いので、大丈夫かなとは思いながらも、そこでお別れして私たちは反対の登山道を栗沢山に向かった。

樹林帯の登りが続き途中からはハイ松になる。登り切ると栗沢山である。ここには、すでに北沢長衛小屋から尾根ルートを登ってきた人が数組いて、そのうちのご夫婦にグレープフルーツをいただいた。

甲斐駒ヶ岳が目の前に見える。記念写真を撮ってもらうべく頂上に立つと、風が強い。かなり長い間過ごした後、強風の中アサヨ峰に向かう。アサヨ峰への登りはちょっとした岩稜である。頂上には2組すでにいた。ここからは大パノラマだった。遠くには目指す、地蔵岳の尖りが目を凝らすと豆粒のように見える。ずいぶん遠い。その右の方には、紛れもなく富士山のシルエットが浮かぶ。気持ちの良い眺めで、いつまで見ていても飽きない。

ここからはこの日最後の行程で、早川小屋までの快適な稜線歩きだと思っていたが、何回ものアップダウンを繰り返していて、これがなかなかたどりつかない。もうこれが最後の登りだろうと思ったら、また下って登る。いい加減にいやになってきたころ、下の方に小屋の屋根がチラリと見えたが、そこからもけっこう長い。うんざりした頃にやっと人の声が聞こえてきた。相棒のKさんはかなり疲労していたようすだ。

小屋のベンチで奈良から来たという人が、ビールを飲んでいた。その人の話だと、仙水小屋に泊まる予定だったが、予約していなかったので断られたとぼやいていた。山小屋で予約がいるというのは、少ないと思っていたが…。テントはすでに5張りほど張られていた。その後にも、増えて10張り程になり、狭いテン場はいっぱいになった。栗沢山で先に行った単独の男性と、アサヨ峰で出会った単独男性は、もうテントを張りビールを飲んでくつろいでいた。

テント設営をしてすぐに食事の用意をしたが、kさんは全く食べられなかった。そのままかたづけて、早いが寝ることにした。夕方から雨が降りだしていた。

降り続いていた雨は朝になってもやまず、気分的には滅入ってしまう。取り敢えずは、まだ広河原峠と白鳳峠のエスケープがあるので、小降りになったすきにテントを撤収して出発することにした。天気が悪いと、出発もぐずぐずしてしまう。

下りだして15分ほどで広河原峠にはついた。雨に濡れた樹林帯は朝の冷気とともに気持が良い。次の白鳳峠ではまだ広河原にエスケープ出来るので、駒を進めることにした。ペースはゆっくりではあるが樹林帯の登りに入る。Kさんは回復したようだ。そして下ると白鳳峠に下る。ここでしばらく休憩して、広河原に降りるかどうするか相談する。

鳳凰方面から降りてきたカップルに様子を聞くと、視界は殆ど無いと言うことだった。しかし、タカネビランジの花が美しかったという話をされた。私は、この花が見たくてもう行こうと心で決めながら、Kさんに「ボッカのつもりで、もう少し頑張らへん!   ここからだけが急登で、後は大したこと無いから…」とかいいながら誘導していた。

ガスの中、高嶺に向かって樹林帯の登りである。シャクナゲやゴゼンタチバナなどお花の写真を撮りながらゆっくり登り出す。高度を上げると、下の方からガスが晴れて視界が出てきた。下界は晴れている。しかし、その上にはまだ厚い雲がおおい、行くての山々はガスに覆われている。ガスの流れの中、樹林帯の中から地蔵岳のオベリスクが見えた。しかし、まだまだ遠くて小さい。高嶺のピークは気がつかないうちに通り過ぎたようで、白砂の稜線に出た。早速タカネビランジが出迎えてくれた。写真で見たのは濃いピンクだったが、とても淡いピンクで可憐である。本来は8月の開花と高山植物の本では紹介されているが、猛暑で開花が早まったようだ。ラッキーだった。このあたりから薬師岳の下りまでの間、所々で見られた。特に多いのは、地蔵岳のあたりと薬師岳の下りあたりだったようだ。

白砂の稜線は、奇岩がいろいろあって面白い造形を為している。タイツリオウギも咲いていた。ガスの中の奇岩も幻想的なムードを醸しだし、この稜線は退屈しない歩きとなった。

小一時間ほど、稜線を登ると左に地蔵岳が見える。ここまで来ればやれやれだ。しかし時間はもう1時前である。稜線上にザックをデポし、いったん賽の河原まで下る。賽の河原には、お賽銭を積まれたお地蔵様がたくさん並んでいる。この「お賽銭、もったいないなぁー」とつい心の中で思う。しかし、記憶が確かではないが剣岳でも古銭が発見されたらしいから、いつの時代も変わらないんだなぁーとまた思う。

大きな岩を積み木のように積み上げたオベルスクは魅力的だ。頂上の大きな岩にザイルが巻かれ、3メートルほどフィックスされている。登れそうに思ったが、ここから見える観音岳への登りを思うと、時間も迫っているのでやめておいた。帰ってから、ホシダで前に登ったというN島さんにその話をしていたらクラックの左右に足場が彫られていて楽に登れると言うことだった。

稜線を上り詰めたところで観音岳の頂上に出る。ここもお賽銭が積まれた観音様が2体祭られていた。岩の上に登ったが、北岳方面には黒い雲が覆っている。しかし薬師岳の向こうの方角の遠くに、富士山のシルエットが浮かぶ。若い男性2名がいただけで静かな頂上だった。写真を撮ってもらい、薬師岳に向かう。

薬師岳の頂上は、だだっ広い。やはり北岳方面の頂上は雲に隠れている。下るとすぐに薬師小屋である。ここには人が大勢いた。そのまま、樹林帯をこの日の泊地である南御室小屋に向かった。

小屋では、かなりのテントが張られ、すでに宴会モードにはいっているパーティーが何組かいて賑やかだ。私は5時までには着けてホッとした。すぐに簡単に夕食を済ませ、お喋りしながら眠りにつく。この日早川小屋を出発して、朝のうちは天気のことやKさんの体調など心配していたが、鳳凰三山では晴れ、Kさんも元気が出て来て、メインのここまでの行程を終えてホッとした。次の日は、夜叉神峠を経て夜叉神の森に下山するのみだ。

6時20分予定より早めに出発。30分強の登りで苺平に着く。苺平は何もない樹林帯のただの峠だった。次の杖立峠も同様である。そこからは下るのみ。途中で富士山が目の前に大きく現れる。嬉しくなり、30分ほど休憩する。富士山が現れると嬉しくなる。そして「富士山や! 富士山や!」と言って指さす。本当に不思議な山だとつくづく思う。この下りの樹林帯は何組か登ってくる人がいて本来は登りに使うのが一般的だが、やはり下りに使って正解だったと思う。下りは余裕があるから、展望はゆっくりと楽しめる。

風景を眺めながら樹林帯を下ると、オオバギボウシ・ヤナギラン・クガイケイソウなどのお花畑が現れる。嬉しくなって写真を撮りながら歩いていると、夜叉神峠だ。沢山の人がいる。三脚を立てて写真を撮っている人もいる。やっぱり中高年が多い。どうも北岳に被さっている雲が取れるのを待っているようだ。ここからは北岳・間ノ岳・農鳥岳への稜線が素晴らしい眺めだ。ここで予備食のラーメンを作って食べ、のんびりと過ごす。しかし残念ながら、北岳の頂上だけは、この3日間姿を出さずじまいだった。

一気に掛け降りると、夜叉神の森だ。ここまで来ると暑い。私はたまらず、人の迷惑も顧みずタイツを脱いでショートパンツのみとなる。11時前の広河原からの始発のバスに乗る。偶然、北岳組も一緒だった。山中、携帯が繋がらずちゃんと会えるか心配していたが、やれやれである。

少し下ったところの市営の温泉に入り、帰路に就く。ここの温泉には立派なクライミングウォールがある。一度登ってみたいものだ。

前から鳳凰三山には登りたいと思っていた。今回の山行は、北沢峠から早川尾根も歩き鳳凰三山へと欲張った分、けっこう長い縦走となったが、収穫も満足度もおおきかった。何よりも富士山を含めた展望が素晴らしかったのは、良い思い出として残るだろう。そしてテント泊縦走がいつまで出来るだろうかと、誕生日を前にして自信を無くしていたが、もう少し頑張れそうに思えた。

また、山に登りたくなっている。

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