燕岳〜常念岳(無雪期縦走)

メンバー CL増田、SL湯浅、藤田、日笠、吉田、榎本
期日 2004年8月12日〜8月15日
山域 北アルプス 常念岳
山行形態 無雪期縦走

記録

8月12日(木)
午後9時05分:京都駅発(自家用車)
8月13日(金)
午前3時:中房温泉駐車場着 仮眠
午前6時35分:起床
午前8時05分:中房温泉駐車場発 午前11時30分〜12時20分:合戦小屋着
午前12時30分:合戦小屋発 午後1時30分〜1時50分:燕山荘着
午後2時20分:燕山荘発 午後2時50分〜3時:燕岳着 午後3時30分:北燕岳着
午後4時:燕山荘着 夕食→テント泊
8月14日(土)
午前3時45分:起床 朝食 午前6時20分:燕山荘テン場発
午前9時〜9時30分:大天井ヒュッテ着 午前9時40分:大天井ヒュッテ発
午前12時〜12時30分:常念小屋着 水を確保 午後5時:夕食→テント泊
8月15日(日)
午前3時45分:起床 朝食 午前5時45分:常念小屋テン場発
午前6時30分:常念岳着  午前7時30分:常念小屋着
午前8時25分:常念小屋発 午前11時〜11時20分:一ノ沢駐車場着→タクシーにて午前12時20分:中房温泉着 午前12時45分:中房温泉発
有明荘にて入浴  午後2時:有明荘発 午後2時20分〜3時:昼食
午後9時30分:京都駅着

増田の所感

今回の北アルプス縦走合宿班のまとめとして、天候が日増しに悪化したことから縦走計画を変更したことは残念だったが仕方ないことと思う。それと、6人の編成で動いたが行動中は2つのグループに分かれたこともそれぞれの力量を考えると仕方がなかったと思う。そういったことを考慮しても今回は全体的によくまとまって動けたことは私としてはうれしかった。参加した皆さんがそれぞれに感想を持たれているが、私としては結構印象に残る山行でもあった。Yさんが「合宿とふつうの山行とどこが違うのか?」との問いに返事に窮したこともあった。私もよく分からないが、でもこれが合宿のような気がした。ところで、リーダーは結構気を使わなくてはいけないものだろうが、私は果たして気を使えたかは疑問だ。なにせへろへろ3人組の一人だったからこのへろへろ3人組は登るスピードは遅いが、その分よくしゃべるので結構楽しかった。スピードのある3人組はずっと前にいるのでどのような状況か全く分からない。初日の燕の登りでは約1時間30分以上の差が出来た。それぞれに理由があるが割愛する。ところで合宿も含めて山岳会に入ることは自動車運転学校で車の運転を習う様なものだと本田勝一が云っているが、私もそう思う。山になれない人が早く山になれるようにアドバイスして実践していく場所でもある。それが山での事故を少なくさせる力になると云われている。経験の少ないものが経験のあるものに話を聞いて実践していくことが合宿の良さのような気がする。テントを張る、食事を作る、シュラフを敷いて寝る、ザックの内容を確認しつつ入れていく、そしてテントをたたむ こういった一連の作業をこなしていくことによって連帯感も生まれるし、仲も良くなる、でも疲れてくるとそれが反対に出ることもある。些細なことで衝突する、それを解決しながら合宿を進めていくこれがまさに合宿なんだなあと思う。今回ハンカチ扮出事件というのがあった。単にハンカチを無くしただけのことではあるのだが、登る途中だったので、引っ返して取りに行くと云うが、体力はかなり消耗しているかなりしんどそうだった。もう後2,30分で小屋まで着くという時点で、引っ返して200m下まで取りに行くことはたとえ空身だとしてもかなりきついことは否めない、とりあえず小屋まで行ってから前後策をとることにして、小屋に着いたら、なんとポケットからハンカチが出てきた。このときの判断は結構考えさせられた。行動中の判断はミスが出やすい。特に疲れているとその可能性が高くなる。いかに的確に判断をして行動するかが山では決め手になる。しんどいときに判断しろと云うことはなかなか難しい、そうしてみるとリーダーは大変だと思う。
今回、リーダーをやらしてもらって果たしてその責務が務まったかは分からないが、いろいろと考えさせられた山行だった。

日笠の所感

1日目、天候を読んで中房温泉スタートになった。スタートは寝不足でしんどかったけど、富士見ベンチで寝れてから楽になった。かなり足をひっぱったので合戦小屋で先行パーティに1時間も待ってもらってすいません。合戦小屋のすいか800円は魅力的だったけど、財布がザックの下のほうにあったのでやめた。途中から景色もよくなって榎本さんと増田リーダーと森のくまさんを歌ったりして楽しかった。山に行く度になんかテーマソングがあったらいいなと思うけど、今回も行くまで忘れていた。合戦頭で榎本さんと槍を食べたりつまんだりする写真をリーダーが根気よく撮ってくださってありがとうございました。

燕山荘に付いたら結果的に地図の1.5がけくらいの時間がかかっていて少しへこんだ気分になった。。それから燕岳に空身で出かけた。燕岳は岩が絵画みたいで美しかった。途中はこまくさ女王様がたくさんおられた。燕岳から360度景色を楽しんで明日行く縦走路や槍ヶ岳を確認した。湯浅さんが北燕岳にも行ってくるというのにつられて行ってよかった。それからごはんを手伝ってもらって作って食べた。足りるかなと心配していたけど、みんなあんまり食べないもんだなと思った。榎本さんは「世にもまずそうなペミカン」のイメージを払拭できたらしい。それからわたしは早々に寝たけど、みんなは夕焼けを見たり、ビールを飲みに行ったりしたとのことで後でうらやましくなった。夜は真ん中に寝かせてもらったからあまり寒くなかった。途中でトイレに行きたくなったけど、トイレに「ツキノワグマやキツネが出没するので夜間のトイレはくれぐれもご注意ください」と書いてあったのでなかなかいけなかった。どうやって注意するんだろう??限界がきて結局行ったけど、星がすごかった。生涯3回目くらいの天の川を見た。

2日目朝、味噌汁をひっくり返したとき増田リーダーがすかさず自分の首にかけていたタオルを投げてくれたのに感動した。あれくらいやさしくなりたものだと思う。被害を受けた方、ごめんなさい。出かけて結構最初の方で2パーティになってしまった。大天井岳までは結構景色もよくて、何度も振り返って燕岳を見た。榎本さん、リーダー、ときおり待っててくれる藤田さんとダイジェスト版DVDのアナウンスのまねをしたり、お花談義をしながら楽しく歩いた。大天井前後から雨が降ったりやんだりし始めた。その道でイワツメクサ、イワウメ、トウヤクリンドウ、コゴメグサ、ミヤマシシウドを新たにマスターした。と思う。鳥もいて、ホシガラスをイワガラスと勝手に呼んだり、増田リーダーはイワヒバリをホシガラスと呼んでいたりして、途中ですれ違った子供に教えられた。花も名前がわからないのは適当に名前を考えてそれも楽しかった。今回は雑誌のお花の付録が大いに役に立った。常念小屋についたら12:30だった。それから水汲みに出かけた。東の斜面は樹林帯でお花が多く楽しめた。湯浅さん、ペースにつきあってくれてありがとう。小屋の方で体調の悪い人が出たようで、ヘリがくることになってテントを押さえるためみんなで外に出た。ヘリは稜線の下から突然現れた。病人の手前不謹慎だけど間近でみたのは初めてでかっこよくて感動した。それからごはんになった。ご飯はやっぱり量が多かったので押し付け合いみたいになった。行くメンバーによってほんとうに違うもんだなと思った。長い山行では疲れてきていらいらしてけんかになったりするという話を聞いた。いらいらしがちなわたしは気をつけようと思った。湯浅さんが「仲良く行きましょう」とまとめてくれた。それから血液型の話しにもなった。山やにはB型が多いらしい。今回は緩衝役のO型がいないけど特に問題ないようだ。晩寝てからは風と雨がすごかった。あと、足の方が低くてずっていくから何度も目が覚めた。

3日目、雨風で蝶が岳まで縦走はやめようという話しになった。雨風のなか、空身で常念岳に登ってすぐ降りた。降りる途中で槍ヶ岳や穂高の稜線が見えて感動した。次はあっちへ行ってみたいと思った。昨日くんできた水の中にぼうふらみたいなのがいると榎本さんが言うので見るとえびの子供みたいなのがピョンピョンはねていた。ザリガニにもみえる。吉田くんに「日頃の行いの問題だ」みたいな理不尽なことを言われたけど、もうひとつのプラティパスの中にもいたからきっと彼は知らない間に飲んでるだけだと思う。テントをたたんで小屋でタクシーの予約をして下り始めた。テントは濡れててえらい重くなっていたようでほんとにお疲れ様です。雨はやんで結構快適な気候で花を楽しみながら下った。またもやばらばらになったから一人のとき、ゆっくり下ったり、早く下ったり試してみた。ゆっくり降りると膝にくるような気がするし、早く降りると最後まで持たないような気がして結局自分のペースがまだよくわからないまま終わった。温泉に入ってそばをおなかいっぱい食べた。かなり痩せた人がいるのに自分は全然変わっていなかった。明日からかなりセーブしないと行動食のペースで食べると太ると思う。

 2回目の縦走だったので、割とリラックスしてほんとうに楽しかったです。登りのペースがどうしてもついていかないのが今後の課題です。みなさん、ありがとうございました。

吉田の所感

一日目:駐車場からトイレがかなり遠くて登りがあるので、行き来で準備運動ができた。登山口で写真をとって登りだした。先頭はSLの湯浅さん。僕が続いて、藤田さん、第二グループの榎本さん日笠さん増田さんで登っていった。

 合戦尾根は北アルプス3大急登の一つらしいが、ジグザクな道なのでそれほど疲れない。木が高く日差しがさえぎられているため暑さが和らいで楽だった。稜線上だったらさぞ暑かっただろう。第一ベンチ、第二ベンチと徐々に高度を稼いでいく。第一ベンチで水を汲んだが、少し足りなかった。雲ひとつない青空の中で山を登るのはやはり気持ちいい。富士山が見えない富士見ベンチを過ぎ、合戦小屋に到着。ここではスイカが一切れ800円で売っていた。結構買っている人がいてびっくりした。第二パーティーを待っている間、テーブルでボーっとしていた。 しばらくして合流した後、出発。合戦沢の頭あたりで視界が開けてきた。ここで槍の穂先が見えた。三人で喜ぶ。ここから燕山荘までは急登が続く。今日はお盆休みだから登山客も多いだろうし、テント場の確保のために先を急ぐ。燕山荘には早めに着いたが、もうテントを張っている人が多く、急いで正解だった。

 第二グループを待っている間、西の方角の贅沢な眺めを堪能する。ここからは北鎌尾根・槍ヶ岳・穂高連峰・双六岳・野口五郎岳・・などがみえて、快晴の青空だ。 全員が集まってから燕岳へと向かう。周りの壮大な景色を見ながらゆっくり歩いてピークへ。ここからも眺めを満喫したあと、集合写真をとった。増田さんたち4人はすこし北にある北燕岳に向かった。

 早めに夕食の準備に取り掛かる。今日の夕食は日笠さん得意のエスニック料理だ。どういう料理かよくわからなかったが、かなりおいしくて満足&感謝。東南アジア系料理がすきなのもあるが山でこんなにうまい料理を食べることもあまりないだろう。

 満足した後は夕日を見ようと山荘近くに陣取る。増田さんはビールをのんで気持ちよさそうだ。寒さを感じる中、美しい夕焼けをみた。明日からは天気が崩れるらしいが、これで満足できて明日からがんばることができそうだ。

 夜は星空がきれいで8時ごろにテントから夜空を見てみた。かなりの数の星が見え、流れ星もみえた。山荘付近では宿泊客がかなり大きな声で歓声をあげていてかなりうるさかったが、それが静まったころ、シュラフの中で眠りについた。

二日目:朝は比較的ゆっくり起きて、ご飯はおいしい鮭雑炊をいただいた。日の出を眺める余裕もあった。写真を撮ろうとしたがデジカメの動作が不調で肝心なときにとることができなかった。

 昨日と同じく湯浅さん先頭でまずは大天井岳を目指す。大下りの手前あたりで灰色の雲が槍ヶ岳にかかってきた。東鎌尾根への分岐で一度休んだ後、再び登りだす。大天荘につくころには視界はまったくきかなくなって、霧のような雨のようなものが降ってきた。レインスーツをきて待つ。日笠さんはビニール袋のザックカバーをしていて面白かった。

 全員が集まったあと、しばらく休憩を取る。大天井岳までは10分足らずと近いが視界も全くないのでカットすることに。そのあと常念小屋までは下りベースで進んでいく。意外と遠くて中々つかない。小屋についたときは視界も少し開けてきた。早めにテントを張ってしばらく休んだ。 ここで今日常念を登ってしまうか、明日縦走の可能性を考えてやめておくか、みんなで相談した。結局今日は300m下って水を取りにいくだけにした。空身で一の沢の水場までくだった。ここで縦走することを考えて4人で計20L近くを汲んでテン場に戻った。そのあと増田さんと榎本さんはビールでできあがっていた。大量の水を得て食事を作り、早めに食べ終わった。夜は風がかなり強く雨も降っていたがいつの間にか浅い眠りについていた。

三日目:朝3時過ぎに起きたが外は雨と風のまま。今日は常念をピストンして下ることになった。4時前にラーメンなどを作り、朝ごはんを食べる。雨や風が吹く中、常念岳へ向かう。400mあまりの登りだ。天気が悪いせいかあまり登っている人はいなかった。黙々と歩いて頂上にたったが、寒すぎて震えてきた。10分ほど待っているだけでだいぶ冷えてしまった。全員が集まったあと下山を開始する。風がますますきつくなって水平に雨が飛んできて顔にあたりかなり痛い。途中からましになってきて霧も少し晴れてきた。槍や穂高への縦走路も見えてきた。

 テン場についてから水に膨れたテントを畳み、パッキングをする。今日で下山だ。一の沢沿いに延々と下っていく。湯浅さんは休憩せずにハイスピードで歩いていた。ついたのは結構早かったがもうすでにタクシーが待っていた。ザックの中身を整理したり、洗ったりしながら後続をまって、タクシーに乗った。1時間以上かけて中房温泉に到着。有明荘のいい露天風呂につかりながら疲れを癒し、帰路に着いた。

湯浅の所感

計画の変更

当初の計画では、蝶ヶ岳から燕岳へ縦走することになっていたが、天候悪化の予報を聞いて、エスケープルートをとりやすい逆方向の縦走をすることになった。当日の夜に、増田さんから、その話を聞いた時は、正直、「大丈夫だろうか。」と少し不安な気持ちになった。というのは、頼りないサブリーダーながら、先頭を歩く緊張感から、3日間の行程や地形を頭に叩き込んでいたので、逆方向の縦走に頭の回路を切り替えられるか、心配であったからだ。しかし、結果として、増田さんの選択は正しかったと思う。天気予報どおり、最終日は、荒れた空模様となったのだが、行程を調整したおかげで、危険を感じることもなく、皆が無事に下山できた。計画に基づいて、必要な情報を仕入れることは大切だが、状況の変化に応じて、思い切って、計画を変更する勇気も必要なのだなあと思った。

合戦尾根

予想外の計画変更のおかげで、念願であった合戦尾根を「上る」ことができた。合宿の計画段階から、執拗に、合戦尾根を経て燕岳に登りたいと言っていた私にとっては、喜ばしいことであった。我ながら、妙な性向であるが、急登であると聞くと、登りたくなってくるのである。それは、私の期待を裏切ることのない噂どおりの急登であった。初日は、雲ひとつない晴天であったため、暑くて体力の消耗も激しかったが、歩いていて楽しいルートであった。合戦沢の頭からは、鋭い槍ヶ岳の穂先を見ることができた。ゴールデンウィークに登ってから3ヶ月ほどしか経っていないが、無性に懐かしかった。燕山荘に近づくにつれて、トリカブトやオヤマリンドウなどの花々が、多く見られるようになった。高山植物は、何度見ても、美しいものである。

燕岳

雲ひとつない青空の下で見た、白い花崗岩と緑のハイマツに覆われた燕岳の山容は、何とも言えないものがあった。ハッと息を呑むほどの造形美で、燕山荘にテント設営料金を支払いに行く用事も忘れて、しばし、言葉もなく見入っていた。これほどまで美しく、これほどまで不思議な風景を造りだす自然の力に、深く頭を垂れていた。私は、きっと、この景色を見るために、何度もこの山に来るだろうなあと思った。テントを設営した後、6人全員で、楽しく、頂上を往復した。頂上からは、360度の景色が見渡せた。最近、雨に降られてばかりだったので、穂高連峰から槍ヶ岳を経て後立山連峰に続く、雄大な山脈を間近に眺めることができて、とても幸せな気分であった。

日の入りと日の出

自然の中で見る夕日と朝日は、どうして、これほどまでに荘厳なのであろうか。刻一刻と移り変わる山際の空の色と橙色に縁どられた雲の形を眺めていると、全ての雑念が消え去って、静かなエネルギーが心一杯に充溢してくるようであった。夕日を見て、一日を無事に過ごせたことに感謝し、朝日を見て、その日の幸せを願う。人間は、かつて、そのような心情を抱いて暮らしていたのだろうということを思い出させてくれた時間と空間であった。

縦走

 朝、出発した時には、曇りであったが、大天井岳に近づくころには、雨がパラパラと降り出していた。風も冷たく、寒いほどであった。縦走路の脇に咲く小さな花々や霧の晴れ間に沈む緑の斜面を眺めながら、楽しく歩くことができた。上り下りを繰り返す縦走にもあまり苦痛を感じることはなかった。多少は体力もついてきたのかなあと実感でき、とても嬉しかった。途中、地図に記されている「蛙岩」を見つけようとしたが、さっぱりわからなかった。吉田君や藤田さんと話し合った結果、その命名はこじつけであって、発見できる人はほとんどいないだろうという結論に落ち着いた。奇岩の連なる大天井岳までの表銀座縦走コースは、変化に富んでいて楽しかった。

水の有難さ

今回のコースで、最も頭を悩ませたのが、水の確保についてである。特に、私は、一定以上の水を持っていないと不安になるので、このことは、重大な問題であった。1日目は、合戦尾根で汲んだ水が足りず、燕山荘で、1人1リットル(私は2リットル)の水を購入することになった。2日目は、常念小屋に、早めに到着したこともあり、社会人がほとんどであるにもかかわらず、1リットル100円の水の購入を渋って、沢まで汲みに行った。1時間30分強の時間をかけて、4人で25リットル程度の水を運び上げた。帰りは、荷物が重たい上に、急な上りだったので、日笠さんと2人、苦役を耐え忍ぶ羽目になったが、ひしひしと、水が蛇口から勢いよく出ることの有難さを感じた。冷たい沢の水で、心ゆくまで顔を洗えたことも良かった。山の上では、普段、何とも思わない些細なことさえ有難く感じられるものである。

ヘリコプター到来

水汲みの後、屋外での「集団ストレッチ体操」と「ほろ酔い対話」をつつがなく終え、テントの中でゆっくりとくつろいでいたところ、外から、「テントの中にいる人は、外に出て、テントが風に飛ばされないように押さえていて下さい。もうすぐ、ヘリコプターが来ます。」という呼びかけが聞こえてきた。こんな時間に、荷物の輸送は考えられない。おそらく、救助要請が出たのだろうということで、これから何が起こるのか、皆、そわそわとしていた。すぐに、爆音を響かせて、ヘリコプターが到来。旋回するプロペラが辺りの砂を吹き飛ばし、目を開けていられなかった。しばらくすると、小屋の横の診療所から、中年男性が両脇を抱えられて、ヘリコプターに近づいていくのが見えた。自分の足でなんとか歩かれていたので、ひとまず安心した。何が原因で、このような事態になったのか、私には全くわからなかったが、山行を途中で断念せざるをえなかったことは、さぞ無念であろうと思った。また、1つ気になったのは、非日常的な事態を目の当たりにして、ただただ無邪気に興奮している人もいたがが、搬送される本人とそれを見守るしかない家族らしき人々の心情を思うと、もう少し思いやりがあっても良いのではないかと思った。何はともあれ、その方の無事を願うばかりである。

常念岳

2日目の夜は、雨風ともに強く、朝起きると、テントが浸水していた。この時点で、蝶ヶ岳への縦走は断念することになった。問題は、常念岳の山頂を踏むかどうかである。どっしりとした山容を見せる常念岳を目の前にして、登らずに下山するというのも、至極残念である。幸運なことに、朝食を食べている間に、雨も少しは弱まってきたので、空身で、すばやく頂上を往復することに決まった。雨具と手袋をつけて、いざ出発。見た通りの急登であったが、自分の身体だけを上げていけばよかったので、体力的には、それほど辛くはなかった。ただ、登るにつれて風が強くなり、またもや、吹き飛ばされそうになった。風が吹きさらす頂上で、皆が到着するまで待っていた15分間は、とにかく寒かった。また、困ったことに、片方のコンタクトが強風に飛ばされてしまったために、道標の赤いペンキがどちらに続いているのかわからず、後ろを歩いてくれていた吉田君に道案内をお願いする羽目になった。上りはまだ良かったが、岩場を下っていく際、左眼1、5/右眼0、1以下という視力では、遠近感がさっぱりなくなるために、余計な恐怖心を抱かねばならなかった。「それにしても、私は、よく強風と雨に遭遇する人間だなあ。」と、半ば落ち込みながら下っていたのだが、増田さんの声に顔を上げ、目の前に、厚い雲の取れた槍ヶ岳から穂高連峰へと続く山並みを発見した時は、とても嬉しかった。最後に、思いがけなく、この景色を眺めることができ、悪天候の中で萎えていた心が、温かく満たされるようであった。

以上、項目に分けて、思いつくままに記してきた。今回の合宿では、実力も経験もないにもかかわらず、サブリーダーをさせてもらったので、今までとは異なる緊張感があった。足りないところや気付かないことも多くて、「あれでよかったのだろうか。」と反省する部分もあるが、愉快で個性的なメンバーと3日間をともに過ごすことができ、とても楽しかった。今度は、秋に、餓鬼岳から燕岳に向けて縦走したいと思う。

藤田の所感

雪稜の山行にいろいろと参加し始めてからほぼ1年、やっと合宿に参加することが出来ました。昨年は端にちょんと座って聞いているだけの状態でしたが、プランを練る最初から参加できて、よかったです。私は「縦走を体験してみたい・景色のいい場所を歩いてみたい」という位の考えしか持ち合わせていませんでしたが、皆さん、いろいろと行きたい場所があり、最初はどうしたら話がまとまるのかな?と交わされている会話を聞いていただけですが、「槍ヶ岳」等の名前が出た時、「まだ私には無理では?」という気持ちがあり、もしかしたらプランによっては参加は難しくなりそうだな〜、と相変わらずのんきに考えていました。今回の縦走予定の「蝶ヶ岳、常念、大天丈、燕岳」も最初はどこどこどこ???状態で、地図を見せてもらっても、いまいち「??」という感じで、ますます大丈夫だろうか?という感じでした。

 8月に入ってやっと地図を買って、気持ちを合宿に向けようと考えて眺めていたのですが、初めての縦走、荷物をずっと持って歩き続けるなんて、途中でばててしまったらどういうことになるんだろう、けがをしたらどうしようといろいろ不安要素が頭をよぎり、考えば考えるほど不安になってきて、なかなか気分が高揚しません。しかも、料理が苦手な私ですが、今回、食料担当になってしまいました。あまりどういう食事にしたらいいか思い浮かばず、また、料理の評判のいい日笠さんと分担ということで「どうしようどうしよう」とかなり焦っていましたが、まあ朝食なので「軽く手軽に短時間でできる」ということを基本にしようと思い買い物に行ってみましたが、なかなか思っていた素材がなく、食料担当も大変だということがわかりました。

 出発日のお昼、夜発で3日間山を歩くのでゆっくり休養して明日に備えておこうとちょっとお昼寝をしたら自動車の中であまり眠れず、1日目からこの調子ではまずいなと考えていましたが、駐車場に着きテントの中に入るとすぐに寝入り、朝も快適に起きることができました。しかも天気は快晴!わくわくの始まりです。

 今回は途中から天候が不安定になるということで、計画と反対のコースになり、地図を確認。確か本にはかなりの急な上りと書いてあったはず。イメージしながら昨日買ったパンで朝食をすませ、テントをたたみ、登山口まで歩き、記念撮影を撮って、出発!ほぼ同時に中学生ぐらいの女の子と引率者の合計20人くらいの集団も登り始めていました。自分のゆっくりペースで歩いて、あまり疲れが出ないようにしたいな〜と軟弱なことを考えていたのですが、いえいえ6人で登るのでそんなわがままは言っていられない、と思い何とか前の2人に付いて歩き始めました。第一ベンチが最後の水場ということで、3L程ここで水を補給。歩き始めは行けると思いきや、ずっしりザックの重さがこたえて急にペースダウン。前の2人に追いつくため次のベンチまでがんばろうとは思うのですが、間が開いて一人になると、もうなよなよですぐに休憩。声が聞こえてきたのできっとベンチだろうと思ったら、ただ休んでいる人がいただけでがっかり。富士見ベンチ辺りになってやっと景色が見れるようになり、ちょっと気が晴れてきました。合戦小屋のベンチで長めの休憩をとり、出発。ここからは所々景色が開けたところがあり、今回の望み、槍ヶ岳を見ることが出来ました!ここからは山々を眺め、道の花を見、蝶について行ったりとしんどいながら少々余裕ができてきたように思います。そしてやっと小屋が見えてきました。でも小屋までまだまだあるなと思っていたら、その手前にテント場があり、もうバテバテ状態だったので助かりました。場所を決め、テントを張り、荷物を置いて、いざ燕岳へ。やさしい色あいで、まるで絵の具で色をつけた様だなと考えながら頂上を目指しました。思ったとおり、晴天のため、眺めは最高!こんなに近くに連なった山々を見ることが出来るなんて!1日目は、晩御飯も最高、夕焼けもきれい、星空も降ってきそうな満天の星を見られて、大満足でした。

 2日目は大天井を超え常念岳までの縦走。前日とうって変わって、あやしい雲行きになっていました。昨日のような上りはなくても疲れが残っているので、気がゆるみません。

右手に槍ヶ岳を見ながら歩く予定でしたが、残念ながら雲がじゃまをしています。でもきっと1度くらい顔を見せてくれるんじゃないかと期待しながら、ゆっくり足を進めます。途中で雨が降り出し、レインウェアの上を着て、まだまだ常念は先にあります。途中で道が目指す方向と違に進んでいて不安になりもしましたが、地図で確認して進行。最後は前日と反対にかなりの下りののち、テント場を見ることが出来、そして目の前に急な上りの常念岳が待っていました。「明日はここを越えるんだ!」と思うとまだまだ気がゆるみません。水がなくなっていたので、4人の方に水運びをお願いして、テントでお留守番。

夕食の時間を待っていると、救急人がでたのかヘリコプターがやってきて、テントを飛ばされないように押さえていました。さすがに慣れていらっしゃる、あっという間に去っていきました。ちょっとした事件気分を残して、明日に備えて早めに就寝。

 3日目、残念ながら雨の中の目覚めでした。目の前に常念岳を残して帰る訳にはいきません。風がきつくなる中、ストックを右手に持ち、登りはじめます。石ごろごろの道なので、ストックが役に立ちません。きつい追い風・向かい風に翻弄されながら、小さな祠のある頂上に到着。ちょっと止まっただけでも強風のため体温が奪われます。写真を撮ってそそくさとテントまで一目散。うれしいことに、途中からお隣の槍ヶ岳が頭を出してくれました!雨の中、行ってよかった。あとは苦手な下りが残るのみ。いつもは足首がぐらぐらで何度もこけてしまうのですが、案の定2度尻餅をついてしまいました。最初はお花を見ながら楽しくのんびり歩いていましたが、高度が下がるにつれ笹林のゆるやかな道で足を速めて、予定時間より早くつけたのは私にとって意外な事でした。すぐにタクシーにのって、うとうとしているうちに起点の駐車場に戻っていました。3日間の縦走が終わりました。ささっと片付けをして温泉へ。明日に疲れを残さないようぬるめのお湯にゆっくりつかり、最後に遅めのおそばを食べ、最後に山々を眺めながら帰ってきました。

 初めての縦走、私の中では満足度:高です。残念ながら雨に降られて、2日目・3日目が景色が見られなかったのが残念ですが、考えていた以上に楽しいものでした。ただ、もう少し歩きこんでから参加すれば、ちょっと荷物が増えてぐらいであんなにばてなかったのではと思います。一緒に行っていただいた皆さん、ありがとうございました。

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