前穂北尾根・冬季登攀に向けて(無雪期アルパインクライミング)

メンバー CL中川(一)、上田
期日 2004年9月25日〜9月26日
山域 北アルプス 穂高岳
山行形態 アルパインクライミング
文責 中川(一)

 夏くらいから、上田さんと北尾根に行こうと約束していたが、互いに忙しく日程調整が上手く合わなかった。今回の目的は、冬季登攀への向けての基礎トレーニングとして、土・日曜日で一気に北尾根を抜けようと言う計画だ。

9月25日
上高地―涸沢―北尾根5-6のコル(泊)
曇りのち晴れ、夜間はガス多し

 豪雨の中、上田さんに運転して頂き平湯「あかんだな」の駐車場に到着。仮眠後、朝を迎えると天気は良好。バスを乗り継いで上高地に到着。朝が早い為か、人は少ない。今回は、涸沢までは榎本さんと同行。河童橋から見る、穂高は毎回であるが美しい。ここから、横尾までは少し汗を流しながら、ゆっくと秋色に近づく木々を見ながら進んだ。横尾から見る屏風岩、ほんのりと上部が紅葉している。さて、登っているクライマーはいるのだろうか。横尾大橋を渡り、本谷橋までの間は屏風岩を一望できる区間でもある。時々、立ち止まって見上げるが、クライマーは見当たらない。また、右岩壁のスラブ状ルンゼ等は、昨日の雨の為に滝状に流水が走っていた。本谷橋から涸沢までから間は、紅葉が美しく陽射しとともに、秋を楽しむことが出来た。涸沢・奥穂を周遊する榎本さんとは、ここで御別れ。3人で、「生ビール」で乾杯。腰を据えて紅葉を楽しみながら呑みたいが、5・6のコルまで登らなければスタート地点に立つことが出来ないので、一杯で我慢辛抱である。水を汲んだ後、涸沢ボルダー群の巨岩を通ってガレガレの斜面を登って行くと、ガイドさんと御客さんが奥又白から、5・6のコル経由で下りてきた。ガイドさんが言うには、2人組が大きな荷持を背負ってコルを目指していったとのこと。コルは、ある程度の広さがあるのでテン場の心配ないが、普通は涸沢に泊って、翌日にコルに上がって北尾根を登るのであるが、よく似た考えをする人もいるものだと思った。ビールを呑んだためか、なかなかペースが上がらないままコルに到着。出発当初は、この登りでバテバテになるかと、私は心配していたが予想以上に快調だった。先に到着していた青テントの2人に挨拶をして、奥又白池を見下ろすと黄色いテントがひとつ張ってあり、静かな秋を楽しんでいる様子であった。しばらく静かな眼下に広がる秋を楽しみ、テントを張った後は楽しい夕食だ。夕食は、牛丼に生卵と御漬物。生卵は、上田さんがランチボックスに入れて大切に担ぎ上げて来てもらったものだ。涸沢から、上田さんはビール、私は日本酒とチュハイを持って上がり、小量であるが乾杯。美味しい夕食とアルコールの為か、夜は靴下を脱いで寝たが夜中に暑くて目が覚めた。私は、だいたい10月過ぎまで穂高でもシュラフを軽量化の為に持っていかないのであるが、夜中に暑くて目が覚めたが明け方は少し寒かったので、今回はシュラフを持参して良かったと少し感じた。人の少ない稜線は静かで、虫の鳴き声が時折聞こえ、風が吹くとテントの外に出した空き缶が、カラカラと鳴いて夜を楽しませてくれた。しかし、用足しに一度だけ出たが星空と月は期待できず、厚いガスが稜線と私達のテントを「明日への不安」を押し上げるように包み込んでいた。

9月26日
5-6のコル―北尾根経由―前穂高岳―岳沢―上高地―帰京
曇りのち小雨―ガス多く視界悪し、高度を下げると晴れ

 十分な睡眠で、日頃の睡眠不足を解消。しかし、ガスが濃く「霧の山稜」と言う言葉がピッタリなくらい視界が悪い。涸沢からは、もう何人かがコルに上がってきている。何時に発ったのであろうか。視界は悪いが出発する、過去に3月に1回・8月に2回来ているが、今回はなかなか条件が悪く感じた。4峰までは軽く行ったが、4峰を奥又白側を巻く箇所は、いつ来ても嫌な所である。今回は、視界が悪く4峰を巻き過ぎて支尾根に入り過ぎてしまった。地図と磁石で現在地を確認するが、私には今の位置が判らず支尾根の先が3・4のコルと思い込んでいて下ってしまった。しかし、クライマーのコールが聞こえてくる方向は少しずれている。もう一度、確認仕合い4峰のピークまで戻って、踏み跡に戻ることが出来た。またまた、過去の記憶なんか当てにならないと、つくづく感じてしまった。今回は、時間の余裕もあり気象条件的にも、まだ行動出来る余裕があったから良かっただけであって、最低最悪の条件の場合を考えると「夏の北尾根をナメていた」と言うことを反省しなければならない。4峰のピークからは、傾斜の緩いガレの斜面を下り3・4のコルに到着。この頃から、風は強くなり小雨が当ってきたが、5・6のコルで一緒だった2人が先行しているので、ビレー点の空くのを小雨に濡れながら待つことになった。先行は幾度なく落石を落し、それが大音響とともに奥又白側に落ちていく。先行のセカンドが登り始めたので、3峰を上田さんリードでスタートするが、途中でザイルの動きが止まり「先が動かないので、待っている」とのコールがあった。ビレー点から、3・4のコルを見ると10人位が順番を待っている。ザイルが、なかなか動かない。この1P目は、濡れているので先行者を待っている上田さんは、かなり辛い状態で待っていたと感じた。やっと「行きますー」とコール有り。2P目、上田さんリードで、緩い斜面を登ってチムニーの下のビレー点へ。3P目のチムニーも、以前より沢山岩が堆積していて不安定であったが、上田さんリード。チムニーからハーケンのベタ打ちのクラックを登って核心終了。ザイルで確保しながら、2峰のピークへ。ここでまた、先行が手間取っているので休息。またまた、大音響の落石の嵐が発生、懸垂下降時に落したらしい。ここは、懸垂支点があるが、変に安易に下降するとライン的に涸沢側に下りてしまうので、一枚岩の安定した方向に少し振って下降しなければ、頂上とのコルに下降出来ないのである。しかし、晴れて乾いていたら、ザイルなしで下降可能である。まず、私が下降して上田さんが下りてきてから、ザイルを上田さんに担いで頂いて、大勢の人のいる前穂の頂上へ到着した。
 頂上では、風が心地良く雲っているが、陽射しを感じる。ここで、またスペシャル行動食のリンゴを上田さんから、剥いてもらって渇いた喉を潤した。5・6のコルから4時間弱、
 悪天候、ルートミスと先行組があったが、良いコースタイムである。しかし、ここから岳沢までが、私の核心である。膝の悪い私は、岳沢まで幾度となく上田さんに待ってもらい下った。この頃より、青空が広がり上高地まで眼下に広がるくらいに天候が良くなってきた。紅葉と緑の合間に光る、岳沢の小屋の屋根が眩しく光っている。下るにつれて樹林帯に入っていくと、木々の葉が美しく色付いて下降の辛さを軽減してくれる。、岳沢の小屋は、静かな雰囲気で登山者が休んでいた。小屋のラーメンとうどんは、美味しそうだったので次回は食べてみたいものだ。ここからは、陽射しを浴びて光る上高地へ、綺麗に整備された登山道を下った。14時過ぎに上高地到着。14時30分の平湯行きのバスに乗り込んで、「あかんだな」の駐車場へ帰った。

おわりに

 久し振りの「前穂北尾根」であった。しかし、涸沢から5・6のコルを経由しての登攀は初めてであった。「どこから、行くの、、」と言う人もいるが、末端の最低コルからしか行ったことがなかった。今回は、紅葉を楽しめてのが一番良かった。言葉や文字では、表現出ない美しさである。山行回数が減り体力低下が著しいので、少し前からトレーニングを再開した。その結果、少しづつ戻って来たことを実感できた。不摂生がたたり体調を崩してから始めた減量だが、72キロあった体重が北尾根からの下山後に計ると、58キロになっていた。トレーニングの結果である。少しづつ体力は戻っている。気力・体力も回復傾向である。しかし、登攀回数が少ないので、全般的に本来のものでは無い。
 今回も、テント・登攀具等の装備を背負っての山行であった。私の好きな山行は、全装備を持って山で寝て・食べて・登攀すること。なんか不思議だが、このスタイルは止められない。
 今回も下りでは、膝の疼痛から幾度となく上田さんに待って頂くことが多かった。幾度となく待って頂いて、ありがとうございます。また、アルパインを楽しみましょう。

時雨山房

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