京都雪稜クラブ - 若さ溢れるオールラウンドな活動 −京都岳連加入−
メンバー | F(奈良山岳会)・iku(京都雪稜クラブ) |
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期日 | 2004年9月15日 |
山域 | 大台ケ原 千石ぐら |
山行形態 | フリークライミング/マルチ |
文責 | iku |
自宅3:45 /道の駅杉の湯4:30-5:00/大台ヶ原駐車場6:00-6:15/取り付き7:30-8:00 /5ピッチ目終了11:00- 12:00/終了14:00-14:30/大台ヶ原駐車場15:10-15:30/杉の湯16:10-16:30/自宅20:00
かすかに残る手足の筋肉痛とともに、今も余韻に浸っている。
サマーコレクションは、フリーを始めてからいつかは行きたいと憧れていた。しかしテン台のマルチなど自分では不可能な世界だと思っていた。私の乏しい力では、たとえ5.9というグレードでも、アルパインではその高度感とザックを背負ってでは至難の業である。
まして5.10台は最高5.10+まで3ピッチもあり、残りも5.9や5.8など全部で9ピッチもある。核心はフリーでの私の最高グレードに近い。それにマルチで落ちないように登るということは、オンサイトをしなくてはならない。まして私のオンサイトグレードはかなり低い。そして普段フリーを登りにいっても、一日に立て続けに9本も登るなんてまずあり得ない。それにマルチのルートは1ピッチも長い。
というような理由で不可能だと自分では思っていた。しかし、最近ではフリーも僅かながらレベルアップし、もしかしたら全くのフリーでは難しいかもしれないが、何とか行けそうだという気持もしてきていた。
そんなおり、Fさんから機会があったら行こうと少し前から誘われていた。行くからには、出来るだけ自分でもリードをして登りたいと思っていたので、誘われたときにはとても嬉しかった。
自分もしっかりしなくてはという前向きの気持にさせてくれるから、私はおんな同士でザイルを組むのが好きだ。私は恐がりなので甘えられると、とことん甘えてお気楽になってしまう。それはそれでまた楽しくていい部分もあるのだが、やっぱり達成感が違う。ザイルが前にあるのと後にあるのでは大違いなのだ。出来たらぶら下がれる状態で登りたい。落ちたくない。落ちて怪我をしたくない。特に本ちゃんでは「絶対! 絶対!」に落ちたくない。
この落ちたくないという葛藤で、いつも上手い人や男性といくとトップを行こうという気持が萎えてしまう。しかし、女性と行くと半分はしっかり自分の足で登らなくてはという自覚が生まれる。本来は、誰と行ってもそうあるべきなのだが、恐さに負けるのである。意気地なしである。
クライミングに限らず何をやっても自分の力で達成できたことには満足感が大きい。今回はそういった意味でも、達成感と充実感が味わえた。これからも、この気持は忘れず前向きだぁ〜。
さて、本題にはいるが、Fさんはこのサマコレを前に登ったことがあるらしい。私は初めてのルートでマルチピッチとしては自己最高グレードだ。本来はフリールートなので、気持的には完全フリーを目指したい。しかし私は、オンサイトは5.10cを一本あるのみ。多分核心のピッチは、無理だろう。それで私は前もってトポを眺めながら、この核心のリードを避けたいと密かに思っていた。それで「つるべ」ということになると、1ピッチ目は私になる。「よしこれで、出来るだけフリーを目指すぞ」と意気込んでいた。
奈良県川上村の道の駅「杉の湯川上」で朝5時に合流。一台の車で大台ヶ原の駐車場に向かう。大台ヶ原のドライブウェーは快適で、雲海に浮かぶ山並みが墨絵のように美しい。雲海の上は青空だった。
さっそく準備をして、シオカラ谷への登山道を下る。石畳の終わったところの右側に2個目の看板があったので、私はそこで下調べしておいたアプローチへの道に入るのではと思い立ち止まったが、Fさんはどんどんいってしまう。行き過ぎではないのかという声で、彼女も引き返した。看板が道を塞ぐように立っているのでここではないような気がするという。しかしFさんもとりあえずここを右に水平道をはいる。台風などの影響か細かい枝などが散乱していて荒れて見える。本来なら、赤テープがあるはずだが見あたらず、水のない谷筋の横を下降する。するとFさんの前を鹿が…。「ケーン、ケーン、…」と鳴き声が響き渡る。さすがに奈良の山だなぁー、と思う。右にトラバースながら下りていくと苔で一面覆われた岩がごろごろするガレに入り、右に壁が見える。このまま下降したら、取り付きに行けることは分かっていたので先に進んだ。壁の下に近づくとしっかりした踏み後が見つかり、そのまま取り付きに着いた。もう少し水平道を進めば、ルンゼへの赤テープがあったのかも知れないと、帰ってから思った。とにかく、無事に取り付きに着けてやれやれである。
さっそく、1ピッチ目(5.5)のリードを私からつるべでと申し出たところ、Fさんは快く承諾してくださった。8時ちょうどのスタート。開拓者の名刺大より少し大きめのプレートが、登り切ったところの右の壁の2ピッチ目のビレー支点のボルトに挟んである。
2ピッチ目(5.10)はFさんがリード。ビレー支点の左からボルトダラーである。見ていると出だしが少しいやらしそうである。私はフォローなので、細かいホールドを駆使して何とか行ったが最後の乗越で苦戦してしまう。Fさんの「落ちんといてや〜」の声に、さっそくここでくじけてA0で乗越してしまう。やっぱり恐がりな自分を改めて嫌になるが、落ちるのはもっといやなのでこれをきっかけに、その後もA0を使ってしまった。
3ピッチ目(5.10-)は私の番。ここは2ピッチ目と比べるとだいぶ楽な気がした。トポでは50メートルとなっていたが、ほんとうに長いルートだった。疲れ切ってしまった。目の前に少し立ち気味の壁が続いていてそのまま行くのかとも思ったが、とにかくしんどいのでピッチを切ったが正解だった。
目の前の壁は核心の4ピッチ目(5.10+)だった。ここは15mと短いが上部は難しい。Fさんがリードで行ったが最後の核心の小ハングでかなり苦労しているように見えた。私は、フォローだったので気分的には楽だった。最後の乗越しもよく見ると左気味にホールドが見つかった。しかし、ここでもとっさにヌンチャクを掴んでしまった。後悔! 自分に甘い。小さなテラスで、水を飲んでいると急に雲行きが怪しくなってきた。下の方から、ガスが速い勢いで上がってくる。これは雨になるかも知れないない。取り敢えず、次のピッチのテラスまで行って雨だったら懸垂で下りようかと話す。
私は次の5ピッチ目(5.8)を急いで登る。登ったところに1本目の立木があるが、これをやり過ごすとボルトがまだ一個ある。奥の太い目の立木が目に付き、そこまでいき終了点を取る。Fさんが登ってきた頃は、全く視界がないほどのガスだった。上からポツリポツリとビレーをしている私のところに落ちてくる。てっきり雨だと思っていた。しかしそれは岩からの染みだしが落ちていたのだった。勘違いをしていた私が「雨が来てるよ」といったものだから、そのまま、Fさんは下の立木まで下りて懸垂での下降の用意をし出した。私も懸垂で下りてみる。しかしどうも雨は降っていないようで、また上の木まで登る。次がトラバースするので懸垂で下りるとなると、ここからが下りやすいとFさんがいう。「行こうか、行くまいか」ふたりで恨めしげに空を仰ぎながら、あれやこれやとハムレット並みに悩む。そんなことを、しているうちにも時間は刻々と過ぎてゆく。こうなれば、少し待って腹ごしらえでもして、様子を見ようということになった。小一時間が経過したところで、少し明るくなったので行くことにした。
6ピッチ目(5.6)は、踏み後を少し下っていくトラバースだ。そして木の間のルンゼ状をよじ登る。Fさんは、ザイルをどんどん延ばしていく。おかしいなぁー35メートルとトポには書いてあるのに、ザイルが5メートルも残っていないので声を掛ける。「ここでピッチを切るわ」という声。私が続く。おかしいなぁー、と思いながら右上の壁を見るとボルトが見える。そしてレッジの上にもう一本。「ここみたいやでぇ〜」といいながら下を見たら、ボルトが2個並んで支点になっていた。やっぱり、行き過ぎていたようだった。私も少し下りる。
7ピッチ目(5.8)は私の番。レッジによっこらしょっと乗越し右に進むとザイルが延びない。「えぇ〜、どないなったんや???」と私。「おりんとあかん!」というFさんの声。下を見たらヌンチャクのカラビナにキンクしたザイルが巻き付いていて、動きがとれなくなってしまっている。しかたなく、次のボルトにテンションを掛け下りて解除して登りなおす。そこからが、フレークのトラバースが待っている。気を取り直し眺めてみると、フレークはガバで、足も細かいスタンスがちゃんとある。一呼吸をおいて取り付くが、ピンを掛けたとたん、セルフを取り休憩してしまう。あかんなぁ〜、情けないなぁ〜、と思いながら最後は木をつかんでのっこす。やれやれ。さっそく、Fさんに来てもらう。トラバースの写真を取る。今回このルートが、一番スリルがあって楽しかったし、印象に残っている。
8ピッチ目(5.9)はFさん。高度感のある快適カンテとあるが、フォローの私はあまり印象には残らなかった。
9ピッチ目5.9最終ピッチで、私が行けるのでとても嬉しい。最後の乗越しが難しいということだったが、すぐにガバが右手に見つかり、右足を上げると一気に乗っ越せた。一足先にヤッター、という気分だった。木で支点を作りビレーの体制にしているときにも、横の壁から反響したFさんの「登ります!登ります!」とはっきり聞こえてくる。「ちょっと待ってくださ〜い」という私の声は、どうも聞こえないようだ。はやる気持が伝わってくる。私は、出来るだけ力を使わない体制で、カメラとともにハングを越える、Fさんを待つ。笑顔が覗く。もう嬉しくて嬉しくて仕方がない。
何とも言えない、気分だ。「チョー、気持ちいい!」(アテネオリンピック水泳金メダリスト北島選手の言葉を借りた)という、言葉がピッタリ来るなぁーとふと思った。このときには視界はまたなくなってしまっていた。
人っ子一人もいない平日、おばさんクライマー二人でサマコレを独占して登れたことに二人とも酔いしれていた。このルートの登り方としては、本来はフリールートなのでまだまだ未熟な登り方しか出来ていないという反省点はあるが、それはこれからもよりフリークライミングに精進して、再度オールフリーで挑戦するということにして、今回は私たちの実力では大満足な結果だったと思えた。お互いにパートナーとしても、自立した関係でいられたことも達成感が大きかった要因になったのだろう。私の最高グレードのマルチだった。
足取りは疲れて重いが、心は爽快でガスで見通しの悪い千石尾根を駐車場へと向かった。 よき相棒、Fさんに感謝!