北アルプス 鹿島槍ヶ岳東尾根(積雪期アルパインクライミング)

メンバー タカハシ, オカガワ, カタヤマ, ニシムラ
期日 2005年3月19日夜〜3月21日
山域 北アルプス 鹿島槍ヶ岳
ルート 大谷原〜鹿島槍ヶ岳東尾根〜鹿島槍ヶ岳〜冷池山荘〜赤岩尾根〜大谷原
山行形態 冬季アルパインクライミング
文責 タカハシ

コースタイム

3月19日 天候:晴れ
西大路御池2:30→(名神、中央道)→大谷原手前の駐車場8:30/9:00→尾根取付10:00→稜線11:00→一の沢の頭2:00/2:20→二の沢の頭3:20
3月20日 天候:快晴
二の沢の頭5:00/7:30→第一岩峰下9:30/12:00→第二岩峰下14:30/15:45→荒沢の頭16:15→鹿島槍北峰18:00→北峰南峰のコル19:00
3月21日 天候:快晴(稜線は強風)
北峰南峰のコル9:00→鹿島槍南峰10:00/10:30→冷池山荘12:00/12:30→赤岩の頭13:30/14:00→高千穂平15:00→林道17:00→大谷原手前の駐車場18:30→20:00松本駅→松本IC→(長野道・中央道・名神)→京都駅前24:00

食糧

3月19日(土)
夜:辛味豚汁(ペミカン)、ごはん(α米×4食分)、かまぼこたまご、いかなごのくぎ煮
3月20日(日)
朝:ラーメン雑炊(α米×2食分+インスタントラーメン)、いかなごのくぎ煮、ほうれん草の白和え 昼:行動食 夜:クリームシチュー、五目御飯 3/21(月)朝:マカロニ、ポタージュスープ  予備食:インスタントラーメン×2袋

所感

 3月の3連休は、鹿島槍の東尾根を登攀したかった。プレ冬山の11月は深い藪に阻まれ、一の沢の頭までで敗退を余儀なくされたからである。3月ならば藪は雪深く覆われ、快適な登行が期待できるはずである。
 3月19日早暁2時30分に京都市内を出発。運転を交代して仮眠を取りながら高速道路を走り朝豊科ICを出る。結構道路が込んでいたが、爺ヶ岳スキー場への裏道を抜け8:30に大谷原入口サンアルピナ鹿島槍スキー場の駐車場に到着。既に多くの車が留めてあり3連休の山行は混雑が予想された。
 早速支度をして大谷原に向かう。林道を歩くこと1時間弱で東尾根の取付き点へ。雪がたっぷりとついており、狙いどおり快適な登行が楽しめそうだ。トレースもばっちりである。みなでずんずんと高度を稼いでいった。途中で8人組のパーティに追いつく。休憩の都度前後しながら、結局我々のパーティーが先行することになった。天気はほぼ快晴。殆ど風もなく快適である。周りの雪景色を楽しみながら、ペースはやはりプレ冬山の時よりも遥に早い。一の沢の頭手前あたりから稜線からの強風が時折ふきつけるようになったので頭の手前で休憩を取って体制を整える。長い登りの疲れはあるものの、順調な登行でみな意気軒昂であった。一の沢の頭から暫く進むと雪壁が崩れハング上になった登りに出くわした。どうするか悩んでいたところ、後続のパーティが来たので道を譲って先に登ってもらったところ、我々が登る際に上からお助け紐を出してくれた。有難や、有難やとみなこの紐につながって登らさせてもらった。聞けば東京の山岳会の方々らしい。・・・ほどなく二の沢の頭に着き、今日はここまで。既に4張りのテントがある。空いた場所を整地(雪?)してテントを張った。明日登る東尾根上部からアラ沢の頭の姿はやはり美しくそして険しい岩峰の姿は闘志と意欲とロマンを掻き立てるに相応しい。 夕方、ほぼ無風の快適な状態のなか、夕食をとって熟睡する。

残雪は十分にある

残雪は十分にある

荒沢の頭。闘志と意欲とロマンをかき立てる

荒沢の頭。闘志と意欲とロマンをかき立てる

 3月20日朝4時半起床朝食を取っていると早くもテントをたたむ音が・・・。やや出遅れたか?6時には出発したパーティがいるようであった。事態は深刻だったのだが、暢気に準備をして6時半点との外に出ると既に2張りのテントはなくなっていた!急がなければと思うのだが、しかしNature Calls Me.私は朝のお勤めを2回もしなければならない運命なのだった。完全に出遅れとうとう二の沢の頭最後発となってしまった。7時半出発。くじけず順調に高度を稼ぐ。第一岩峰手間の乗越しでちょっと渋滞。なにやら前のパーティはもたついている。手順悪そうである。慣れていないのかな?.我々はザイルを出して着実に30分で全員通過。第一岩峰を目指す。この乗越しの最中、後から来た8人組のパーティに抜かれてしまったのが、何はともあれ残念であった。彼らは我々のルートの側面をトラバースしていったのであった。その判断に驚きもしたのだが、ともかく先を越されたことに間違いはない。渋滞の際にこれはものをいってくる。

朝焼けの岩峰

朝焼けの岩峰

春暁

春暁

 第一岩峰の手前で散々待たされ、待つこと1時間半やっと順番が回ってきた。ザイルを2本つなぎ、タカハシリードで右ルンゼを上がる。すでにトレースができており、たやすく登れたが、途中雪の薄い雪壁部分は慎重になる。 私が登攀を終了して暫くしてカタヤマ・ニシムラ・オカガワと順調に上がってきた。ただここから風が強くなり、みな耐風姿勢を時折とりながら進む。
 暫くすると風が収まり第二岩峰前に到着。しかし、ここも大渋滞。3パーティが待機中であった。先行パーティがチムニーのハングをなかなか上れず、遅々として進まない。そのうち、8人組の先行パーティは右ルンゼに下降して第二岩峰を迂回し始めた。我々はツエルトをかぶって寒さを凌いで待っていたが、1時間待ってもまだ1パーティ4人がまるまる残っている。3時に高嶋パーティの上田さんと定時交信を行った。すでに鹿島本峰の近くかとおもいきや、あちらもまだキレット小屋の手前上方50mの地点だという。まるまる一日の遅れではないか!我々はともかく今日中に稜線にでて冷池方面を目指す旨伝えて交信を切った。(これが最初で最後の定時交信となった。)
 そのうち気候が急変し始め、雪混じりの烈風が吹き始めた。3時30分に迂回を決断する。先行パーティのトレースを確認し、迂回をしていけると判断。東尾根のハイライト=第二岩峰を登らないのは全く残念であるが、待機時間と気候を考えると北峰までのナイフリッジ上でビバークとなる可能性もある。それは避けたかった。翌日気候が好転する保証がなければ、少なくとも北峰南峰を結ぶ稜線上に出ている必要がある。そうでなければ明日中の下山の目途がたたないからだ。目の前の誘惑を断ち切って私はとっさにそう判断した。また東尾根を目指せばよい。よし行こう。・・・懸垂下降で4人全員が下りてから約30分、ルンゼを登り、急な雪壁を登って第二岩峰上のリッジに出る。ザイルを使わなかったが、途中足場の悪い所もあり、ザイルを出すべきだったかもしれない。ともかく迂回作戦は成功し、極めて短時間にアラ沢の頭に到達できた。16時アラ沢の頭付近で小休止。ここで全員ヘッドランプを装着。夜間行動の可能性に備える。風雪は激しさをまし、時折立ち止まりながらの行動に変わる。先行の8人組パーティの後を殆どくっつくように進む。すでに太陽は雪雲に隠れ周囲の景色は見えずただナイフリッジ上を行動していることだけが分かる状態であった。
 アラ沢の頭から2時間、鹿島北峰に到着。18時。まだ明るさは少し残るもののもはや南峰への進行方向は見えない状態であった。先行パーティの一つが北峰のコルに幕営しており、そこから「ここだ、ここだ」と方向を指示する声が聞こえたので、そちらの方向へと下降していった。殿はタカハシが勤めたが、もうその時点ではあたりは暗く、ブリザードは激しく吹きつけていた。「もはや今日の行動はここまでだ。」そう風雪は告げていた。直ちに北峰コルでの幕営の準備を始めた。整地をしてテントを張ろうとしたが、激しい風に吹かれ大変な作業となる。みんな頑張って何とかテントをはり、ホウホウの態でテントの中へ入る。しかし、快適だったのは最初だけ。吹き付ける風雪がどんどんテントの周囲に積もって見る見るうちに窮屈になる。21時頃みなでテントの外に雪かきに出るが、これがまた裏目に出た。吹き付ける吹雪に目もろくに開けられず。雪を掻いては見たものの、風に吹き飛ばされて元に戻ってくるし、どこを掻いているのかも分からなくなる始末である。結局無駄な抵抗は止めてテントの中にまた入ったが、雪の圧力で前よりも狭くなってしまっていた。夕食を取って、テントの中でツエルトを被って座って寝るが、寒さがこたえ姿勢が悪く眠ったようで眠れない夜を過ごした。一晩だけのことであったが、非常に長い夜であった。途中で携帯の山岳天気予報をみて朝6時以降から晴れることを知る。あと4時間の辛抱だ、そう心の中で確かめながら夜を過ごした。しかし朝6時になっても風はやまない。やむなくトイレのためにテントの外に出てみると風雪はやんでいない。内心焦ったが待つよりほかはない。朝食をとって7時過ぎ雪かきのため再び外にでる。依然風は強く吹き付けているもの、今度は雪はない。綺麗に鹿島南峰までの稜線が見えた。綺麗だ!テントの周りの雪を掻き、出発準備だ。

 9時にテント場を出発。雲のない好天に恵まれ順調に進む。隣のテントの6人組が先行しており、我々はその後に続いた。10時鹿島南峰到着。剱岳をバックに記念撮影。あとは順調に稜線を下って、12時冷池山荘上で休憩。先行パーティが私のスコップを持っていっていたようだったので、勇気を振り絞って訊いてみた。そのときは該当のスコップを持っている人がトイレにいっているので、ちょっと調べてみますということだったが・・・、程なくして私のスコップが戻ってきた。まったく同じ物だったので間違えたようだ。やはりこんなものでもきちんと名前を書くべきなのだ・・・と今更のように自覚する。
13時30分赤岩の頭着。先行パーティの下降を待って、我々も下降を始める。ザイルを2本つないでオカガワさんからおりる。私が殿だ。30分ほどで全員下降完了。ザイルを出さなくとも下降できたかもしれないが、しかし、この角度では気持ち悪い。思い切ってスピードよく下降するにはザイルを出すべきだと思う。
その後は、長い赤岩尾根を順調に?くだって、時に足を取られながら滑って転んだりしながら、林道まで下山した。17時。そこからの林道歩きがこれまた非常に長く感じられたが、何とか大谷原の駐車場に着いた。
第二岩峰は登攀しそこなったが、東尾根の全貌を体験し、鹿島槍の美しい雪稜と立山連峰ほかの北アルプス美峰の景観を満喫できたという意味で一定の収穫のあった山行だった。体力的にも余裕をもった登攀であり、次回は必ず第二岩峰を克服したいと思う。来年また東尾根を登ることを誓って山行報告を締めくくりたい。

【反省点】

参加メンバーの感想

感想(ニシムラ)

 おおむね好天に恵まれ、メンバーにも恵まれ非常に楽しい山行でした。岩峰はともかくとして東尾根をトレースできたことは良かったと思います。悪い雪壁をそれなりの荷物を担いで登ったことは今後の自信につながると思います。それと同時にいろいろと考えさせられる体験があり、その点においてもとても充実した山行であったと思います。

感想(オカガワ)

 岩のルートで渋滞待ちになると、天気が急変した場合、危険が増大する。
 突っ込むか、巻くか、退却するかの判断になるが、今回のような山域では、取り付きまで行ってしまうと退却することは難しい。また、岩を抜けたとしてもどこまで進めるのか、ビバークは可能か、天候は回復するのか、特に冬の場合、状況によってかなりシビアな判断を要する。
 第二岩峰で、前のパーティーにならって懸垂とトラバースで核心を巻けたのはラッキーだったと思う。
 それでも、不安定な雪壁をノーザイルで抜けるのは充分に危険な選択だったし、荒天と日没の悪条件の中、ナイフリッジを歩いたり、ビバーク適地を探したりしなければならなかったことを考えると、8P中、最後尾についてしまった時点で、早めに何らかの判断をすべきだったかもしれない。
 出発時間も遅かったが、最後尾になってしまったのは、パーティーの力量を反映していたように思う。
 もししっかりとしたトレースがなければ、状況はさらに難しくなっていたはずで、ルートは逃したが、無事に下山できて本当によかった。
先頭を歩けるだけの力量を身に付け(当分先になりそうだが)、再挑戦を果たしたい。
 リーダーは終始、悪場にも体を張って進み、フォロー間の意思疎通も比較的円滑だったが、本番の前に、少し練習する時間があれば、より明確な共通認識のもと、もう少し早く、快適に、ルートに臨めたのではないかと思う。
 ともあれ、さまざまなラッキーとメンバーに助けられ、初めての冬のバリエーションを経験できたのはありがたかった。ルートの全容も把握できた。
 反省の多い山行で、その分いろいろ勉強させてもらった。あせらず、いつか完登したい。

△上に戻る

Copyright (C) 京都雪稜クラブ. All rights reserved.