口永良部島 古岳 新岳 (無雪期縦走)

山行名 古岳 新岳 山行記
メンバー L:H内
期日 2007/2/24〜2/27
山域・ルート 口永良部島 古岳 新岳
山行形態 無雪期縦走

記録

  活火山の景観、源泉そのままの温泉、黒潮の大海原、離島という4つの条件が適う旅心そそられる場所の数少ないひとつに以前から行ってみたい口永良部島があります。
場所は屋久島の西、鹿児島県熊毛郡上屋久町。屋久島の北半分と同じ町だ。
 今回橘さんが屋久島に行くとのことで、屋久島縦走の前に以前から行きたかった口永良部島への渡島の機会が突然訪れることとなった。

 交通機関を調べてみると1日1便の町営船はドッグ入りのため、口永良部島の方が所有のわずか9tの漁船が代船とのこと。かなり揺れるらしい。宿は民宿「くちのえらぶ」に決める。田代集落(3世帯5人)にあり、一応山に一番近い。
 

1日目(2月24日)晴れ

 東梅田から夜行バスで鹿児島いづろバスターミナルへ。そこから歩いて15分で屋久島フェリー桟橋へ。快晴の下に桜島が雄大にすそ野を引く。フェリーは定刻出帆。乗船客は少なく、2等の1区画を地元屋久島の青年と2人で独占。シャワーを浴びた後見慣れた錦江湾の風景をしばらく見るがすぐ飽きてしまう。2時間半過ぎると、三島村の竹島、薩摩硫黄島が見える。薩摩硫黄島には7年ほど前に登った硫黄岳704mがある。温泉も多く、静かで良い島だった。野生の孔雀が多く住んでいる。
 港湾関係の仕事をされている青年は屋久島の椨川におられ、屋久島の尾根や沢もよく知っておられ、いろんな情報をいただく。永田岳北西の「神様のクボ」はすごく綺麗な場所であるらしい。
 宮之浦港に着き、青年と別れ、聞いていた漁船(ふみ丸9t)に乗る。さすがに小さく岸壁より低い。船首から飛び乗る。客室の椅子は3人分しかなく、外には木を渡しただけの仮設の椅子のみ。定員12名だが今日は6人。多いほうとのこと。普段は2〜3名。
 波を時々被るので座る場所を変えながら揺れに耐える。屋久島の山々は上部に厚い雲が掛かり見えない。やがて右手に目指す古岳、新岳の山波が見えてくる。こちらは快晴。島南端の磯の間をすり抜け、本村(ほんむら)に着く。荷の積み下ろしは乗客も手伝っている。
 快晴のため、直射日光で暑い。10分も経つと港は静まりかえっている。宿には迎えは頼まなかった。ここから地形図片手に歩く。本村の東端までは約5分。2人の老人と猫2匹に会っただけ。ここから地形図にある破線路を登る。すぐ照葉樹林に包まれ静寂。一段上の舗装道路に出る。汗が吹き出る。十字路を過ぎ、右に分かれ、いかにも旧道らしい山道を辿る。よく掘り込まれ、時代を感じる。鹿がたくさんいる。あちらこちらで走る。
   30分も辿ると倒木やいばらやツル植物に行く手を阻まれる。それに3〜4mはある密生した竹林の濃密な藪となった。道跡は分かるがとてもついて行けない。あきらめて左下方に修正。ザックが引っかかり苦しい藪漕ぎを強いられるが、道路に出た。休んでいると軽トラックが通り、乗せられる。分岐で降ろされ、竹林に囲まれ鬱蒼とした砂利道を少し登ると1軒ポツンと木造の建物の民宿に着いた。しかし誰も居ない。目の前から海が見下ろせる。なかなか風情のある建物である。しばらく眺めていると主人が戻ってこられる。明日山に上がることを話し、上り口の場所や移動手段についてあれこれアドバイスを受ける。
古いオートバイがあるから乗れるか尋ねられ、一緒に乗る練習となった。しかしクラッチの変速やブレーキが慣れないので諦める。温泉を進められるので、ではと散歩がてらに寝待温泉に行く。宿から1時間程。海岸線は磯になって落ち込んでいるので道は高く迂回しており、アップダウンが激しい。400m手前で道路は終わり、最後は海岸線の歩道を歩く。
温泉は白く濁った硫黄泉で秘湯好きにはたまらない。建物は新しく趣はないが温泉の近くに湯治小屋があり、こちらは風情がある。最近まで徒歩道しかなく、集落から歩いて1日がかりで大変なので建てているとのこと。今は車道が近くまで開通したので利用は少ないようである。温泉には本村の夫婦が入っておられ、帰りは車で宿まで送っていただく。

2日目(2月25日)雨時々晴れ

 昨日の夜から激しい雨になり、朝もかなり降っている。宿の方も今日は回復しない。山は無理とのこと。昨日から宿の夫婦といろんな話をし、暇なことは全然ない。建物は7年かけてこつこつ建てられたもので廃材利用など極力お金を掛けず手間はいっぱい掛けたとのことで、すごく居心地が良い。特に前の木のテラスは最高。リピーターはここで何もせず本を読んだりして滞在する人が多い。だが今回宿泊者は自分ひとりだけで貸切。
 2時間ほどおしゃべりした後、宿の軽トラを借りて今日は温泉巡りと登山口の確認にする。
まず東の端の湯向(ゆむぎ)温泉へ。ひたすら曲がりくねった道を辿る。1台も車に会わない。鹿には良く出会う。本村からは14kmで40分掛かる。湯向は5世帯8人の人口。
温泉は白濁し、硫黄泉。湯の花が大量に浮かんでいる。浴槽はここだけ男女別となっている。温泉は誰も入っていない。本当にゆっくりした時間を過ごす。1時間半位ぼーと過ごす。
それにしても寂しい限りのほんの一握りの集落だ。周りは緑いっぱいなのに。
 さて今度は山。島の環状道路まで少し戻り、南西方向に山腹を進む。牧草を過ぎ、照葉樹林の中を進む。途中の川からは綺麗に樹林が眺められる。地形図の「七釜」と記入のある場所から西に入っている沢の直ぐ南側の尾根を横切るところに入り口がある。標高210mあたり。そこからさらに車道を5〜600m行ったところにも入り口がある。こちらのほうが新しそうである。山は黒い雲に覆われ全く見えず、この場所ではすごい風雨で車の外に出るのも大変だ。車道はこの先標高330mあたりの鞍部を通過し、しばらく下りやや広いすそ野に出た場所には西側の登山口がある。地形図標高点211m南西400mの車道と交わる地点。標高180m位。確認を終え、車道を進み、向江浜1世帯を過ぎ、前田集落と通り、昨日歩いた交差点を過ぎ、西の湯に向かう。海岸線ぎりぎりに粗末な湯小屋があり、薄暗い底に湯が張ってある。最近湯量が減り、奥の湯槽だけの混浴となっている。少しぬるい。
波の音を聞きながら素朴で簡素な温泉につかる。他に誰もいない。これで3つの温泉に入った。島民は皆夕方にしか入らないようだ。島の人と入るなら夕方来たらいいらしい。
 一旦宿に戻り昼食。素朴な料理だが全部島の食材で手作りなのが良い。いつでも好きな音楽を掛けられる。入って直ぐの吹き抜けの居間が最高の空間。
 しばらく休憩後、島の西の番屋ヶ峰に向かう。竹林と藪に覆われているが、本村や雲の掛かった古岳方面が良く望める。
さらに西に進み、岩屋泊の海岸に降りる。山と海しかない何の変哲もない風景だが、大海原の潮騒が心地よい。今度は南に向かい、新村に着く。名前通り新しい集落だが今は2世帯しかない。そのうち一軒は農体験の素泊まり民宿でなんだかあやしい雰囲気が良い。照葉樹林に包まれひっそりしている。
 宿で夕食後、西の湯に行く。真っ暗な夜道。車は出会わない。少し遅いのかまだ夜7時半だが誰も居ない。やはり貸切。闇夜で少し怖い位静か。というより波の音だけ大きい。

3日目(2月26日)雨のち晴れ(山は新岳山頂部のみ濃霧)

 行程

   七釜登山口8:20→畠ルート分岐8:55→火口原9:10→9:40古岳9:45→新岳分岐(北の尾根上)10:00→一等三角点(600m)10:20→10:30野池10:50→11:30新岳11:40→火口原  11:55→畠ルート分岐12:05→林道12:20→12:30七釜登山口
   今日も雨が降っている。どしゃ降りである。宿には10円玉しか使えない電話があるだけ。携帯は寝待温泉への途中で唯一掛かる。そこから前日に増田さんに今日登ると連絡済。
船は25、26両日既に欠航している。どうしようか思案しているといきなり晴れ間が広がった。本当に島の天気は全く分からない。大雨でも一瞬晴れたりする。宿の人も長年住んでいても分からないとのこと。その時々の天気次第で屋内と外の仕事を分けているとのこと。
   7時半、晴れ渡ったので今日こそ山への気持ちが高ぶる。弁当を作ってもらい、軽トラで七釜かの登山口へ。最初緩やかな尾根の斜面を上がる。  少し急になるとやや左寄りにトラバース気味に進み、左の尾根に乗り、地形図の・395mを越える。標高470mで南からの登山道と合流。  このあたりから新岳657mの南の崖が黒々と不気味に見える。
   やがて右へトラバースになり標高540mの古岳火口原の東の縁に踊り出る。ここで初めて古岳の全容が見える。  火口湖の南西側斜面からもくもくと噴煙が上がっている。荒涼とした広い風景が広がる。ここからは道らしいものは無くなり、砂礫の中をまずは南に進む。  一段上がるとまた小さな火口湖がある。水が溜まっていて、縁に緑の潅木の塊が散在している。古岳をバックに面白い風景になっている。  この火口湖から西に進路を変え、適当に潅木の斜面を上がる。上部に行くほど礫ばかりになる。尾根上に着くと風が強く寒い。 633mを乗り越え鞍部から風に耐えながら古岳山頂へ。360度遮るものの無い展望。屋久島が見えるが山は厚い雲に覆われ見えない。
 右に火口湖を見下ろしながら657m最高点手前まで来る。657mはそのまま登れないので西側の急崖をトラバースし、北へ続く尾根に出る。  新岳もすごい噴煙が山肌から上っている。新岳火口壁の東縁を辿り北北東の鞍部を目指す。  途中直ぐ右手に深い亀裂が平行して走り、底に変な色の水が溜まって怪しい雰囲気が漂う。  鞍部は広くなっているが深い亀裂がここまで達しているので油断は出来ない。亀裂は底が真っ暗で見えず不気味だ。
鞍部から三角点600mに向かう。斜面を真北にトラバースする。いつのまにか濃いガスが掛かり、先が見えない。 三角点に着くと島の西側はすっきり晴れており、下界には明るい陽光が降り注いでいる。
     三角点のある尾根から北西側は深い照葉樹林に包まれている。鹿が多く、群れをなしている。樹林の中を適当にさまようと、ポッカリと野池に出た。  底には水はなく、一面に緑一色のコケに覆われ、さらにスプーンでカットしたような凹地が無数に広がっている。  その真ん中よりやや南に大岩がでんとあり、存在感が大きい。今まで見たことのない不思議な空間だ。  底で仰向けに寝転び、鹿の群れも逃げないので観察する。僻地に来ている旅の実感が湧くひとときだ。
   さて帰りはガスの中、新岳に登る。ガスで視界がなく、読図は必携。どこもガレキで同じに見えるので忠実に地図を読む。  行きとは違うルートで新岳の北の尾根上に着く。帰りのトラバース地点を慎重に確認しておく。約20分でガスと強風の中新岳に登頂。看板はない。  どの方向も同じに見える。寒いので直ぐ下山。無事トラバース地点を見いだし、新岳南の尾根上に乗り、ここから火口湖へさらに右斜面でトラバースする。  行きに登り着いた最初の火口原の東縁に出た。少し標高が下がると良く晴れている。ここからは道があるし、のんびり海を見ながら下山。  行きとは別の南に降りつく登山道に入る。最近手入れされたようで、行きのルートより判りやすい。車道を600ほど歩き元来た場所で登山終了。
 早速、湯向温泉へ。やはり誰も入っていない。貸切風呂だ。1時間ゆっくり湯浴みを楽しむ。
 宿に戻る。宿の方と話をしたりテラスでくつろぐ。
 夕方に寝待温泉に出かける。話好きの方がよく入っているので出会うと楽しいと聞いていたが今回は誰も居ない。静かに秘湯の湯に浸かる。
 宿に戻ると主人から明日の船も欠航だろうと聞かされる。28日に宮之浦に戻ればいいのだが漁船では波が2.5m以上なら欠航してしまうとのこと。  これだけはどうしようもない。
 ダメならもう1泊するだけ。夕食は魚だが名前は忘れた。美味しい料理が毎日出て変化して飽きない。平日の旅は贅沢だ。  宿の方は大阪出身でいろんな仕事をした後で田舎暮らしをされている。話をしているうち、価値観がどんどん変わってしまう魅力に引き込まれる。  自分があまりにも平凡過ぎる気がしてならない。

4日目

 朝、早起きして散歩すると、綺麗な日の出が見えた。海を見ると昨日と違って波が打って変わって穏やかになっている。
 今日は3日振りに出航となった。10時過ぎまでおしゃべりとテラスで風景を楽しみ、宿を後にする。港まで送っていただく。
 閑散とのんびりした集落。村を歩くと、寝待温泉で会った夫婦に出会った。出航までのひととき、島の話をお聞きする。
 今日は古岳、新岳が良く見える。
 今日の乗客は自分を含めて2名。定刻に宮之浦に着く。泊まる場所は民宿で紹介していただいた「晴耕雨読」。13時30分に着く。なんだか普通の民家だが、  先客が2名。3名で早速レンタカーを借りて島一周とすることが自然にまとまる。永田浜、西部林道、大川の滝、ヒルギ群落、  尾の間温泉などを半日掛けて巡り、夜は居酒屋「とし」で楽しい晩餐とした。2人はそれぞれひとり旅の若者だ。
 明日は橘さんとの屋久島縦走。外は激しく雨が降っている。明日の天気が心配だ。
こうして口永良部島の古岳、新岳の山行は終わった。
以後、屋久島山行につづく。

 

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口永良部島ルート図

口永良部島ルート図
(クリックで拡大)(別ウインドウ)

 

ふみ丸

 

一番大きな火口原

 

海上より古岳、新岳

 

古岳火口原

 

寝待温泉

 

寝待温泉の湯小屋

 

新岳の噴煙

 

西の湯

 

湯向温泉

 

民宿くちのえらぶ


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