利尻山

山行名 利尻山
メンバー Y浅
期日 2007/7/6
山域・ルート 道北 利尻山 沓形〜利尻北峰〜鴛泊
山行形態 無雪期縦走

コースタイム

沓形コース登山口(420M)5:30〜8:50三眺山(1460M)9:05〜10:00利尻山北峰(1719M)10:55〜12:15長官山(1218M)12:25〜14:40鴛泊コース登山口(240M)

記録

 利尻山に登るために旅に出掛けた訳ではなかったのだが、もう一度、登りに行きたいという思いを抱かせてくれる山であった。

 

旅に出る数日前、山の様子を麓の駐在所に確認したところ、沓形コースは三眺山より上に残雪があるため、軽アイゼンを用意した方がいいとのこと。せっかくなので、上りと下りは異なるルートを歩こうと、沓形から入山し鴛泊に下山するプランを練っていたのだが、これを聞いて、鴛泊からのピストンに変更した。今回は「山ではなく旅」がテーマ(?)なので、アイゼンがないと登れないようなところはやめておこうと判断したからである。

 

しかし、5日に利尻島に入り、鴛泊フェリーターミナル(島の北側)から宿がある仙法志地区(島の南側)に向かう途中に山の西側斜面を眺めてみると、沢筋に少し白いものが確認できるだけであった。また、利尻町役場から宿に届いた「最新の利尻山登山情報」にも、「沓形コースの残雪はなくなりました。」と記されていた(もっとも、その後に、「ただし、三眺山から鴛泊コース合流点までは、山体崩壊地を通過するため、落石など、予見することの難しい危険があります。」という文言が続いていたが・・・。)。こうなると、気持ちはピストンから縦走に傾き、留守本部を依頼していたKさんに電話をかけて、計画の変更を伝えた。

 

当日は4時半に起床。もっとも、3時過ぎから空が明るくなってくる上に、部屋のすぐ前が海であるため、昆布漁に出かけて行く船の音が聞こえてきて、まだ時間は早いのに気持ちがソワソワしてくる。天気も良さそうである。宿の車に送ってもらい、沓形コース登山口(5合目)には5時20分に到着。沓形集落から登山口までは舗装道が続いており、車だと15分ほどで着くが、歩くと1時間半はかかるとのこと。登山口から北に10分程歩いたところに「見返台園地展望台」という観光地があるらしく、駐車場やトイレは整備されている。広い駐車場には車3台とバイク1台が止まっているだけで、ひっそりとしていた。利尻山に登る人の大半は鴛泊コースをピストンすると聞いていたが、本当のようである。

 

おにぎりを食べ、5時半に出発。登山口には「登山者数計測装置」なるものが立っていた。トドマツ、エゾマツ、ダケカンバの森の中を行く。緯度が高いために本州とは植生が異なり、登山口から高山帯にいるような錯覚に陥る。山の西側斜面を歩いているため、まだ陽の光が届かず、薄暗い。緩やかな道をゆっくり歩くこと約1時間、後ろを振り向くと沓形港が見え、辺りにハイマツが見え出す頃、「五葉の坂」と呼ばれる6合目に到着。入れ替わりに、中年男性2名が出発した。この頃には、山の左手から朝日が顔を出していた。とても静かで気分は上々。休憩後、再び傾斜の緩い道を行く。進むにつれて、後方に、青い海が広がっていくのが嬉しい。島の丸さも実感できる。前方には三眺山。足元には、白いゴゼンタチバナの花がたくさん咲いている。光を浴びた柔らかい色の葉が静かに風に揺れているのが美しい。心がホッとするのはこういう瞬間である。

 

のんびりと辺りをキョロキョロ見回しながら歩いていると、遠くから、「カーン」という乾いた音が聞こえてきた。一瞬、何の音かわからなかったが、落石によるものだと思い至った。石同士がぶつかったのだろう、結構大きな音であった。時計を見ると6時45分。場所は、おそらく山頂直下の崩壊地の下をトラバースする「親知らず子知らず」付近であろう。このコース一番の難所と言われ、この前のゴールデンウィーク期間中にも、落石による怪我人を出しているという場所(宿の主人の情報)。事前情報どおりである。巻き込まれた人はいなかったかと心配になった。また、自分の行動についても、ピークにこだわらずに、手前で引き返すことを考える必要があると思った。

 

すぐに、避難小屋に到着。小屋の中を確認しようとしたが、なぜか、扉が開かなかった。標高は高くないが、展望はよい場所である。小屋の横には、トイレブースが設置されていた(利尻山に登るに当たっては、携帯トイレ(400円)を持っていく必要あり。各宿及び鴛泊コース登山口で入手可能。)。この辺りから次第に傾斜が急になってくる。礼文島が一望できる礼文岩(7合目)で沓形第一稜の稜線に上がると、右隣の沓形第二稜との間の谷に雪渓が残っていた。雪渓を見るのはあまり好きではないので、足元の植物を眺めながら黙々と登る。登山道の脇には、エゾカンゾウがたくさん咲いている。前の日にサロベツ原野で見たエゾカンゾウは既にピークを越していたが、山に咲く花は今が一番みずみずしい。この花は、本州では、ニッコウキスゲ又はゼンテイカと呼ばれている。

登山道の脇と言えば、「夜明かしの坂」の手前の等高線の間隔が少し広くなっているあたりに、2つめのトイレブースが設置されていた。ブースというよりも、三角形の小さな簡易テントで、どことなく頼りなげな雰囲気が漂うが、ハイマツなどの低木の中にあるので、稜線を登ってから振り返ると、やけに目立っていた。「夜明かしの坂」から三眺山に向かう間、左手前方には、地元の人々が富士山になぞらえて「大沢崩れ」と呼ぶところの「親知らず子知らず」が程近くに見えていた。確かに気持ち悪い斜面である。大小様々な岩が点在する赤茶けた急斜面が遥か下まで続いている。少しバランスを崩しても下まで落ちることはないだろうが、落石を誘発すると、ひどいことになりそうである。前に、5〜6人の登山者がいることも確認できた。

 

9時前に三眺山に到着。名前のとおり、北の鴛泊、西の沓形、南の仙法志の港と集落が見渡せる。それに加えて、仙法志稜の尖った針のような稜線と西壁が目の前に覆い被さるように立っている。谷(西ノ大空沢と言うらしい。)を覗き込むと、眩暈がしそうな様相である。三眺山は、これまで歩いてきたルートの穏やかな雰囲気がガラッと変わる境界線にちがいない。さて、前に進むべきか否か。2時間前に耳にした落石の音が気にかかるので、この場所で、海に浮かぶ小さな島の大きな山の不思議を感じながらボーッとしているのもいいなあと思った。しかし、ピークに立って島の東半分を眺めてみたいなあという欲が出てきて、前進することとする。ちょうど、6合目で会った方も同時に出発した。小刻みにアップダウンのある狭い稜線を進む。「背負子投げの難所」と呼ばれる岩場にはクサリが掛かっており、落ち着いて下りれば特に問題はない。登山道の横に咲くウコンウツギという小さな鐘のような形のクリーム色の花がかわいらしい。アルプスでは見た覚えのない花である。そうこうしているうちに、「親知らず子知らず」に到着。距離にすると、20〜25メートルといったところか。「ここを通るべし」という意味でザイルが張られている。山頂直下から続く崩壊地形に目を凝らし、落石の予兆がないかどうかを確認する。「絶対に大丈夫」という確信など得られるはずもないが、上を見上げながら、ザイルに沿って、慎重かつ敏速に足を動かす。もっとも、早く通過しようと試みても、火山性のレキに覆われているため、足が地面に沈み込むようで難儀した。慌ててはいけないが、「足元がこれでは、落石が起こった時に避けようとしても避けられないのではないか。」と思うと冷汗が出てくる。何事もなく渡り終えたときは心からホッとした。と同時に、鴛泊へ下山する予定を立てていて本当によかったと思った。もう一度、ここを通過するのは精神衛生上よろしくないからである。この難所を過ぎれば、もう安心である。鴛泊コースとの合流点に出てから約30分で頂上に到着した(ここで言う頂上は北峰(1,719M)のことで、南峰(1,721M)はルート崩壊のため立入禁止になっている。)。頂上の手前では可憐なエゾノツガザクラが、頂上直下の斜面では黄色い花(おそらくシナノキンバイ)の大群落が見られた。頂上では、多くの人が、満面の笑みでランチを楽しんでおり、私も、島一周をくるーっと眺め、海を眺め、ここから方々に延びる稜線を眺めて、心地よいひとときを過ごした。

 

下山するのが惜しいほどであったが、鴛泊コースは延々と長いので、11時には頂上を後にした。上りでは特に気にならなかったが、2つのコースが合流する辺りまでは、滑りやすいレキが続くため、固定ザイルの恩恵にあずかって後向きに下りた。ここも、足場が悪いのは確かだが、危険というわけではない。調子よく下ること1時間強、利尻山避難小屋に到着。小屋の中はとてもきれいであった。その後は、ササに囲まれた平らな尾根を行く。右手のおおらかな斜面の先に見えた海は、格別に青かった。南の島の海を知らないので世界が狭いためなのだろう、北の島の海の色は、心に染みるような独特の澄んだ青であった。考えてみれば、視界のどこかに必ず海があって、海に向かって下りていくような山はとても珍しく、不思議な感じがする。隣の礼文島や北海道の西海岸だけでなく、遠くサハリンの島影までもうっすらと見えた。ほどなく長官山に到着。ここから見上げる利尻山は端正な三角形でスッとしている。この辺りからは、気持ちのいい樹林帯に入る。その後は、ひたすら下り続ける。北麓野営場に着いたのは14時半すぎ。実動8時間の登り応えのあるいい山であった。

      

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