台高 東ノ川(沢登り)

山行 台高 東ノ川
メンバー L:A木の S口 T村
期日 2007/7/18〜7/20
山域・ルート 台高 東ノ川
山行形態 沢登り

コースタイム

7月17日

23:00大阪→1:00道の駅杉の湯(仮眠)

7月18日

5:00道の駅杉の湯→6:30大台ケ原駐車場→7:10発→7:55尾鷲辻→8:20白崩谷下降→16:55本流出合(泊)

7月19日

5:00起床→7:15発→9:00清水谷出合→10:04中崩谷→10:50地獄滝→11:25地獄滝落口→16:00カラト谷出合→谷幅いっぱいの大岩→18:00巻き終わり→18:35西ノ滝下→19:00滝見尾根の斜面でビバーク

7月20日

5:00起床→5:30発→6:36滝見尾根取り付き→7:27滝見展望台→東ノ川落ち口→8:30−8:52シオカラ橋→9:28大台ケ原駐車場

【記録】

 

A木

 予定していたシレイ沢が南アルプス林道通行止めの為、急遽転進先を探すことになった。天気予報を鑑み大峰・台高方面が候補に挙がり、その中で3人とも行ってみたかった東の川を選んだ。が、これがそもそもの間違いというか反省点。少なくとも台風の後に入る沢ではなかった。
 しかしこの時は当日の予報ばかりが気になり「増水してるだろうから注意しなくては」との意識はあったものの、他の選択肢を真剣に考える所にまで至らなかった。
 また本流への下降路を白崩沢に取ったが、これも結果的には良くなかった。木組峠から2.5万図に記載されている道を下るのが一番確実という情報は得ていたが、合宿の訓練という目的の為、沢の下降経験をしておきたかった。
 18日、尾鷲道から白崩沢に下りていくと、すぐ水が流れていた。明らかに普段は流れてない地形の所を。そして地形図の等高線の詰まってる部分に大きな滝が出てくる。懸垂をするしかないが、記録で見た20Mロープでぎりぎりというのは大嘘で、30Mでも2ピッチを要する。もう一本の8mm30Mを車にデポしてきた事を悔やみながら何とか沢床に降りると、また滝場。結局何本懸垂しただろうか。この連瀑帯を何とか抜けると、ますます水量が増え、平坦な流れとなり時間を稼げる筈が、肩組渡渉を強いられる場面も数回あった。そんなこんなで出合に着いたのは17時前。翌日の行程を考えるともう少し先に進んでおきたかったのだが、ここで幕営になる事は懸垂連発の時点である程度覚悟していた。
 驚いたのは本流の様子。出合部分は真っ白、ホワイトウォーターだらけ。上流を覗うと見える範囲では多少落ち着いており、一先ず胸を撫で下ろすが、明日も水が引かずなかなか進めないようであれば、このまま下ってきた白崩谷をまた上がるか、登山道を木組峠に上がるかして帰らなければならないかも、と考えていた。
 この日の天気は終始曇りたまにパラパラだったのだが、焚き火を囲み飯を食い終えると(冷麺に春雨サラダ、美味しゅうございました>T村さん)本格的に降り出し、タープに逃げ込んだ。このままでは濡れたまま不快な一夜を過ごすことになる。下を見ると、苦労して育てた焚き火は健気にも燃え続けている。ここで意を決し、集めた焚き火を一気投入して火力を上げ衣服を乾かす短期決戦に打って出たが、これが成功。雨も弱くなりほぼ完全に乾いた。蚊の襲来を除けば非常に快適で熟睡の一夜を過ごせた。
 19日、朝起きてまず流れに目をやると、昨日よりは穏やかに感じられる。実際に水量も減っている様子。取敢えず本流に進む事にする。
 エスケープに使えると聞いた清水谷を過ぎ地獄釜までは順調に来れた。が、ここからが核心だった。ザイルを張っての渡渉や、悪い高巻き→複数ピッチの懸垂が何度かあり、徒に時間が過ぎていく。
 そして極めつけは烏渡谷の上の大岩。左岸を巻くらしいのだが、水流が強くとてもそこまで辿り着けない。烏渡谷出合すぐの所から右岸を巻き始めた。岩壁になっていて、傾斜は寝ているのだがいざ取り付くと結構悪い。ピッチを切り、上まで続く壁はどんどん立っていくので、ラストのS口さんにトラバースできないか釣瓶式でそのまま見て貰う。やはり上しか行けないとの事で、少しトラバースした後、S口さんリードで登る。この時点で私のクライミング力ではもはや手に負えないと感じていた。ビレイ地点からは上の様子が伺えず、なかなか進まないしやはり難しいのだろうな、これは本当にハマったかも、無事に抜けられるのだろうか、、等々不安な思いがぐるぐる回るが、止まっていたザイルも流れ出しビレイ解除の笛が聞こえた。
 しかし、例えトップロープでも果たして今度は自分が登れるのだろうかと新たな緊張が襲う。セカンドのT村さんはザイルをゴボウにし何とか登り切ったようで、いよいよ自分の番となった。予想通りの難しさで、S口さんが細い立ち木にセットしてくれたスリング(カラビナとスリングを複数連結させ、回収しやすくしたもの)に両腕を頼り、体を引き上げる。しかしこれを回収するのですら辛く、足がプルプル震えた。こんな所のリードは絶対無理と半泣きで二人が待つ所に辿り着いた。聞けばあのスリングは投げ縄をしてセットしたとの事。S口さんがいてくれて良かったと心から思った。ここからは何とかトラバースできそうで、また懸垂2ピッチで沢床に戻れた。この時点で18時。
 日暮れまでに滝見尾根の取り付きを見付けなければと、ほっとする間もなく先を急ぐ。すると暫くして谷の先にまるでライブ会場のスモークのような物が漂っているのに気付いた。西の滝だった。上部はガスではっきりと見えなかったものの、聞きしに勝る迫力だった。対岸には踏み後らしき物も見え、ああこれで何とか今日中に帰れると安堵の溜息を吐いた。
 が、その踏み跡らしき物の下はツルツルのハングした岩で違ったよう。腕時計は19時を指しており、再び焦りが襲う。過去に滝見尾根を来た経験のあるT村さんとS口さんによれば、岩棚の上のルンゼ状になってる所を最後下ってきたとの事。それらしきルンゼが見付かり登り始めたが、この踏まれて無さは道ではないとすぐに気付いた。しかし辺りはどんどん暗くなっていく。このまま詰めていけば道に出くわす筈と、ヘドラン行動で突き進む事にした。が、また岩壁が。横にずれながら進む→また岩壁。もはや完全なる闇、沢に引き返すのも危険。
 ついにビバークを決断し、かろうじて3人が座れるスペースに銀マを敷き、膝を抱えながら一夜を過ごす事にした。お茶類を沸かしアルファ米の五目飯を食し、ようやく一息つけた。僕はタイツとTシャツを着替えたので割と快適だったのだが、ふと目を覚ますと二人とも寒そうにしながら起きてはる。ここで何故か出てきた枝豆をゆで(S口さんご馳走様でした!)ツェルトを被り寝直す。また意識が途切れ深い眠りに落ちた。
 20日、隣で動き出す気配で目が覚めると充分に明るい。こんな状況で熟睡できた自分に少し驚く。二人はやはり余り寝られなかったよう。お茶を飲み、行動開始。沢へ戻りシオカラ谷を上流に進むが取付は見当たらず引き返す。昨日登った地点より下流にようやく取付を見付けた。沢が屈曲する所で正に尾根の末端部分だった。沢の中の岩に懸垂用のボルトや鎖があったが、看板もテープも何もなく、見た感じはあのルンゼと全然変わらない。これでは昨日見逃したのも無理はない。というか、そもそも昨日の水量ではここに渉ってくるのが難しかった。(一晩明けて見た西の滝の変わりようには、もう笑えた。)
 ハーネスを外し滝見尾根を登る。途中何箇所かトラバースでヘドラン行動には適さない場所があった。西の滝、中の滝の絶景を楽しみながらシオカラ橋に到着、職場への言い訳を考えつつ駐車場へと急いだ。
<反省点>
・ やはり何といっても大雨の後でこの谷を選んだこと。増水への見通しが甘かった。
・ 事前の調査不足。沢登りは通常登山よりも天候に左右される面が大きい。にもかかわらずシレイ沢以外の転進先を真剣に考えていなかった事が、上記の選択ミスを生んだ。また白崩沢の下降など、もっと入念に資料に当たっていれば、長いザイルを用意するなど安全面、時間面をもっと改善できた筈。
・ ビバークの判断の遅さ。2日目の行動中から、滝見尾根の取付に明るい内に着かなければビバーク、または取付が解らなければビバークしようと思っていた。しかしいざその現実に直面すると仕事の事が気になり、もしかしたら当日中に下山できるかも、仕事間に合うかもとの期待を捨て切れなかった。このせいで2日目の夜が余計に厳しいものとなったし、ヘドラン行動の最中に事故が起きてもおかしくなかった。
・ またビバークにおいて、ツェルトを出すタイミングが遅かったし、着替えを持ってはる人にはもっと強く勧めるべきだった。「ツェルト出そうか?」とか「着替えたら?」ではなく、長時間行動で疲れてはるのは分かっているのだから、自分がもっと強いリーダーシップを取るべきだった。
・ 遡行中の行動については、最善とは言えないかもしれないが、自分達の力量の範囲で何とか対処できたと思う。
<最後に>
 積極的に行使するつもりのない予備日を使い、下山が遅れ心配をかけてしまったが、全員無事に帰ってこれて本当に良かった。勿論大いに反省しなければならないが、合宿を前にしてある意味貴重な体験を積めたわけで、それを今後に活かすべく糧として精進していこうと思う。
 また厳しい状況下でも決して精神的余裕を失わず、一緒に力を合わせて歩き抜いてくれたメンバーの二人に、改めて最大限の感謝を申し上げたい。

△上に戻る

S口

 東ノ川、沢登を始めたころからずっと耳にしてきた谷であったが、なかなか遡行する機会が得られなかった。今回予定していた南アルプスの谷の林道が土砂崩れのため通行できず、急遽転進先に決まった。台風の過ぎ去った直後だというのに、なぜ本流を選んだのか?身も蓋もないが、正直なところ、何にも考えていなかった(^^ヾ道中、大迫ダムの放水を見て驚く。このダムの源は大台ケ原である。東ノ川もかなりの水量だろうと、身が引き締まる。

7月18日

大台ケ原の駐車場で準備をして7時10分出発。平日とあって、人は少ない。7時55分、尾鷲辻に出たところで、小雨、霧もでてくる。晴れを願いつつ、堂倉山ピーク手前で尾鷲道を外れ、白崩谷下降しはじめる。8時20分。
普段は水のなさそうなところも、立派な沢である。二箇所ほど、高度50mに渡って、等高線の詰んだところがあるが、案の定大滝がでてきた。それもかなりな水量である。30mロープ一本で来てしまったことを後悔する。一度で懸垂しきれず、トラバースしたりで、すべての滝を下るのに5回ほどの懸垂をした。
本流に近づくにつれ谷幅が広がり、水量も増えていく。水の勢いの強いところでは、スクラム渡渉までした。私は渡渉の経験があまり無いので緊張したが、A木さんとT村さんは上ノ廊下などの経験もあり、慣れたものである。色々教えていただいた。体重の重い人が下流、軽い人が真ん中。「ミーちゃん何キロ?」「内緒。」並んだ順番は三人だけの秘密。以後、何度かスクラム渡渉を繰り返す。本流の水量と明日の天気によっては、また白崩谷を遡行して帰らなあかんね、と三人で苦笑い。
16時55分、やっと本流にたどり着いたときには思わずバンザイ!行動時間約10時間。
小雨が降ったりやんだりだったので、斜面の少し上に、タープを張る。狭いが三人寝るには十分で、フラットで快適な寝床となった。
焚き火は河原で。湿っていて中々火が育たず、少し寒い中、レーメンとハルサメサラダをいただく。食べ終わる頃に雨が本降りになり、服も乾く前にタープの下に逃げ込むことになってしまった。湿った服のままお茶を飲んだりしていたが、このままでは快適に眠れない。小雨になったのをきっかけに、まだ燃えていた焚き火で一気に服を乾かしにかかった。おかげでぐっすりと快適な眠りにつけた。

7月19日

5時起床。昨日の天気とはうってかわって、晴天!心配した増水も無く、入渓できそう。雑炊を食べて、7時15出発。
左右から入る支流はどれも水が多い。泳いだり、首まで浸かってへつったり、またスクラム渡渉しながら進む。8時53分、清水谷出合。右岸をどんどん巻いていたら最初に見えるはずのアメ止メの滝を見落としてしまった。左岸前方にエボシーや大蛇ーがそびえたっている。エボシ滝10mを右岸の巻き道から遠目に眺めて、滝の上で沢に降りた。9時28分。
やっと水に浸かれたと思ったら、まだ続く巨岩のゴーロで、また右岸巻きが続く。途中で大きな炭焼き跡があった。本流の岩間滝を眺めつつ、対岸に見事な茶壷ーが見えたところでまた沢に降りる。中崩谷出合。10時04-40分。
ここからやっと水線どうしに遡行が始まる。かなり暑かったのでホッとする。
少しすすむと、大きな滝の音。地獄釜滝25mが大迫力で落ちていた。すごい勢いで水が吸い込まれていく釜を覗くと足元が震えてくる。こんな怖い滝つぼを背にして、超笑顔で記念撮影しているA木さんとT村さんの神経の太さに脱帽。写真撮るからそこに立って〜と言われるが、うっかりものの私はこれ以上近寄れませ〜ん!!!
右のルンゼを少し登って巻くが、ルンゼにも水が流れていて滑りやすい。念のためザイルを出して落ち口にむかって斜上する。11時25分落ち口。
落ち口の下は、あの恐ろしい滝つぼ。こんな怖いところは、半径3m以上は近寄りたくない。
地獄釜滝の上も直登できない岩間滝で、左岸から巻いていくと少し高く巻きすぎて、右の枝沢に出てしまう。少し下って本流に戻る。12時。高度775m。
 淵を腰まで使ったり、渡渉にザイルを張ったりと、時間と手間がかかる。水量が多いと大変!渡渉はA木さんがどんどん先頭を行ってくれ、感謝。
上流になるほど、滝の高さは低いものの、岩が大きくなり巻かざるをえなくなってきた。対岸へ渡るのも厳しいので、右岸の壁に取り付く。下部8mほど垂直の岩登りになるが、クラックにマイクロカムで支点が取れたので快適に登れる。
2ピッチ目は笹薮をこいで簡単な岩登り。トラバースして懸垂2回で谷へ降りる。15時15分。高度825m。
少し急ぎ足で、鳥渡谷出合。16時。明るいうちに何とか滝見尾根に取り付きたい。そんな期待を裏切るように、谷幅いっぱいにドン!ドン!ドン!と大岩が塞ぐ。水量が多いために大岩には近づけず、このまま右岸のルートを取るしか選択肢が無い。また高巻きか〜〜〜と少しがっくり。
1ピッチ目は簡単な岩登り。二ピッチ目笹薮をトラバースするが、一箇所バランシー。一旦集まってルートを話し合うが、もう少し上がるしかなさそう。三ピッチ目は、あまり支点が取れず少し半泣き。立ち木に投げ縄で時間がかかったが、なんとか引っかかったので登れた。身長があと10センチ高ければこんなに苦労しなくてすんだのに・・・とぼやくが仕方がない。傾斜が少し緩くなったので、たぶんガケ記号の上に出たんだろう。やっとトラバースして、また2回懸垂で沢へ降りる。18時。高度905m。
ガスで薄暗くなってくる中、18時35分、やっと西ノ滝に到着。やった〜!これで帰れる!とこの時は誰もが思った。
結局、滝見尾根の取り付きが見つからず、適当に尾根に取り付いたのが失敗。ガレを登っていくと、笹薮になって登山道にでるどころか、壁で行き止まり。三人がやっと座れる程度の斜面でビバーグ決定となってしまった。初めてのビバーグ体験である。
いつも非常食に持っている、賞味期限ギリギリのアルファー米五目飯。三人で分けて食べたが、なんと美味しい!暖かいお茶を飲んでやっと一息つく。
最初はツエルトも被らずにゴロ寝。なんとA木さんは爆睡している。すごい。私は寝付けず、時計を眺めたり、ろうそくの火を眺めたりして過ごしていた。

△上に戻る

7月20日

1時ごろ、寒くてT村さんが起きる。A木さんも起きてきた。
ザックの中に枝豆が残っていたことを思い出し、茹でて食べる。これがまた最高に美味しかった。今度はツエルトを被って寝る。蒸し蒸ししているが、寒さが和らいで少し眠れた。
気がつくと5時。長い長い夜だった。お湯を沸かして温まってから、5時30分、行動開始。
朝の日差しの中でみた、西ノ滝と中ノ滝の水量は、半分に減っていた。
しばらく、滝見尾根の取り付きを探してウロウロ。私たちが取り付いた尾根より少し下の岩に残置ボルトがあった。6時36分。
昨日ここは水がジャンジャカ流れていたし、どちらにしても通過は無理だったようだ。千石尾根という選択もあったが、ヘッデンでの行動は危険だし、もう少し早くにビバークを決めていたら場所も選べて服を乾かすこともできたのにね、と反省する。下山の目途がついて一安心。心配をかけている仲間への下山報告と、職場への連絡のため、先を急ぐ。
明瞭な道をたどって、滝見展望台。7時27分。すっかり普段の水量らしい滝を見物する。初めてこの滝を見た5年前の感動を思い出す。西大台の規制がかかる前に中ノ滝を登ってみたかったが、もう間に合わないかな。
8時19分、東ノ滝落ち口。綺麗なナメを眺めつつ、登山道を歩いて、シオカラ橋到着。9時28分、大台ケ原駐車場。
帰り道、吉野の「たこ沖」でたこ焼きとお豆腐を食べて、銭湯でさっぱりしてから、出勤した。
三日間、楽しくも厳しい、でも経験で得たものは大きい合宿の訓練山行でした。
留守本部のM田さん、心配をかけました雪稜のみなさま、ご一緒してくださったA木さん、T村さん、ほんとうにありがとうございました。

△上に戻る

 

大迫ダムの放水

 

白崩谷の滝

 

やっと本流

 

泳ぐ

 

へつる

 

茶壷

 

地獄釜滝

 

ザイルを張って渡る

 

水量が半分になった西ノ滝


Copyright (C) 京都雪稜クラブ. All rights reserved.