北アルプス 黒薙川 北又谷

山行名 黒薙川 北又谷
メンバー L:A野 F澤 Y口 N澤 N村
期日 2007/8/16〜8/18
山域・ルート 北アルプス 黒薙川 北又谷
山行形態 沢登り

【記録】

A野

 

  北又川は日本屈指の美渓といわれている。沢登りを始めて20年にもなるがこの有名な美渓には未だ足を踏み入れたことがなかった。いつかメンバーがそろったなら行きたいと考えていたが、参加してくれる若手メンバーたちの成長著しく、もはや技術的にはなんら問題はない。

8月16日

小川ダムの駐車場に車を止め、仮眠をとりタクシーを待った。満天の星空を眺めながら眠った。朝6時前予約していたタクシーが到着。必要な荷物を積み込んで越道峠へ向かった。澄みきった快晴の空が迎えてくれた。
 以前は北又小屋からの入渓が普通だったようだが、ダムができて越道峠越えで入渓するパーティーが今は多いようだ。7:00峠からは明瞭な踏み跡を辿っていく。尾根沿いに登りピークの手前で小さな谷に入りそれを詰めあがる。詰めあがりはコルよりやや1084mピークよりに位置する(8:00)。稜上からは一気に北又川に下り降りる。いくつか滝を巻くところもあるがザイルは使わなかった。
 9:30北又川は静かな流れで迎えてくれた。しばらく雨も降っていないので水量は少ない方なのだろう。しばらくすると魚留滝に出合う(9:40)。釜が埋まったとはいえ豪快な流れである。左岸から取りつきN澤君が空身でザイルを伸ばす。落ち口に向かってのトラバス。ウォーミングアップというところである。
 10:40しばらくへつり進むと人食い淵が現われた。水流に巻かれると引きずり込まれると聞く。Y口君がザイルをつけ空身で泳ぎ込んだ。右岸から流れに沿って泳ぎ込み、強い水流横のリッジに取りつく。水流の中にスタンスを決め、いとも簡単に登ってしまった。なんと呆気ない。N澤君がザイル伝いに突破し荷揚げ作業をする。そのあとをN村君が泳ぎ込むがリッジのところで水流に引かれザイルで引き戻す一幕もあった。さすがに巻かれると大変なようだ。私は最後にリッジ左のよどみからごぼうで引張りあげてもらった。
 谷は白く美しいゴルジュが続く。いくつも淵をつくり、どれもパワー、バランス、泳力が要求される。次の難関は又衛門滝である(12:00)。滝に高さはないが城砦をめぐらして私たちを阻んでいる。Y口君が空身で泳ぎ込んで右壁中央を狙う。これまた、いとも簡単に泳ぎ込み登りきってしまった。2番手で私が泳ぎこむ。ザイル伝いにいくがなかなか水流は強い。岩に取り付いても体を水面から上げられない。かなりむずかしい登攀なのである。フリークライミングで鍛え込んでいると聞いていたが、Y口君の力は相当なものである。私のようなオジジがでしゃばる場面はこの山行にはもうないなとそのとき悟った。フリー突破はあきらめ、プルージック登攀で登りきった。荷揚げをし、後続もみなプルージック登攀で登りきった。その後も若手メンバーたちがトップの取り合いである。
 15:30結局今日は一度も巻くことなく完全遡行で泊まり場(又衛門谷の先、右岸から谷が入り込むところ)に着いた。私は一ヶ所ヌルヌル岩のごく短いトラバスだけをリードさせていただいた。F澤君が釣りをするがこの日は収穫0であった。

8月17日

 6:30出発。行動をはじめて最初の休憩のとき、F澤君の竿に40cm超の大物がかかった。さすがは北又川、やっぱり大きいのがいるもんだ。体の色は薄く、目がギョロギョロしている。これぐらい大きくなると美しい、おいしそうというよりグロテスクという感じがした。
 今日もあいかわらず美しいゴルジュと淵が続く。ひとつひとつ楽しみながら進む。8:12チョックストンの白金の滝は近づいてみると左岸のチムニーにルートがとれる。ここはF澤君がザイルを伸ばす。左岸をしばらく進むと漏斗谷に出合った。9:40難関出現。のっぺりとした壁をもつ三段の滝である。壁中央にクラックが走っている。あそこから行こうと嬉々としてN澤君が取りついた。左岸のリッジからルンゼへと巻きルートは見えていたのでダメならそっちへいけばよい。私はN澤君にハーケン3枚とナッツ(5種類)を渡した。この限られた道具で登りきれるかはなはだ疑問だったので、じきにあきらめて帰ってくるだろうと思っていた。ところがである。すぐ抜けるハーケンにてこずっていたのは最初だけで水面から足が上がるとあとは順調に上まで達してしまったではないか。これまた見事であった。滝上のゴルジュも水流は強かったがなんのその、乗りに乗ったメンバーたちはどんどん突破していく。左岸の壁を微妙なステップで小さな滝を越えるとすぐに黒岩谷が出会った。
 12:50黒岩谷を過ぎるとすっかり穏やかな流れになった。サルガの滝が現われた。Y口君が試登し、落ち口下のブッシュのところまで達した。登れそうだという感触をY口君は得たようだったが、あとの荷揚げなどを考えるとここは左岸からの巻きを選んだ。Y口君すまんかったね。左岸を小尾根へあがり、乗っ越して最後懸垂下降20mで水線に戻った。
 吹沢谷と出合ったのは14:30。まだ早いのでF澤君は竿を出して本流へ釣りに出かけた。私たちはしばらく昼寝。F澤君は塩焼きに調度良いサイズを5匹釣ってきてくれた。今日は豪華だ。吹沢谷にテント場を求めて進むも40分であっけなく二俣に着いてしまい、ここをテント場にした。ときおり小雨が降る。みんな気分よかったが天候はちょっと気になった。イワナの塩焼きとてんぷらで夕食は豪勢になった。

8月18日

 6:30朝食を終えると雨が降り出した。もう水量も少ないし行動には支障なかった。右股をどんどん進むと30分で奥の三俣に着いた。ここは真中を進み北又乗越をめざす。ぬめった滝をいくつか越え、稜線を感じるようになる。下降用だろうか、残置シュリンゲがひとつあった。最後の最後で本筋から左へ入ると支尾根にでてしまった。ここはどこかと地図を見比べ検討。ガスでまわりも見えない。反対側に降りてみようということになり、谷まで降りてみるとやっぱり支尾根だということで引き返し、支尾根沿いに少し登ってみるとすぐに北又乗越に出た。よかったよかった。
 北又乗越からはアジサイの咲く美しい相又谷源頭を下る。いくつか滝が現われた。一ヶ所は懸垂下降。トップで降りようとしたがここもN澤君にとられてしまった。堰堤をいくつか下り、林道の終点には13:00に着いてしまった。最後にY口君がケガをしてしまうアクシデントはあったがチームワークで乗り越えることができた。
 長年の望みであった北又川。天候もよかったしメンバーもすばらしかった。成長著しい雪稜クラブ若手メンバーに支えられてリーダーの私は全く出る幕がなかったよ。今後の展開に楽しみを感じる山行でした。

N澤

今年で浅野さんCLの夏合宿は三年目、、、にもかかわらず毎年女性が一人も見受けられないのは、やはりリーダーを初めとしたメンバーがみんな同類だからだと思う。
二年前はどんなこと書いたっけなぁ?と思って過去の自分の記録を読んでみたら、「今年は準備ができず、、、なんたらかんたら、、、」毎年書いてること同じだ。しかし、今年は食料計画すら決まっていない、予定していたマーボー茄子はしんぺーとかぶってしまうことが前日に判明、急遽変更メニューを考えるがカレーしか思いつかず、ピックアップ直前にスーパーで食材を見ながら、ツナチーズカレーに決定。もちろん、下準備など微塵もする余裕はない。
そんなわけで、忙しいのはみな同じなんだなぁ、とさらに実感したのは、目的地の峠でタクシーから降りた後だった。「あれ?ツェルト足りなくない?」「ガス缶も足りないよ」と、足りない装備が次から次へと出てくる。しかしそんな不安もリーダーの「大丈夫でしょ」との一言で払拭される。なんとなく大丈夫な気がして るから不思議だ。しかし、今回シェラカバではなくて小型シェラフしかもって来ていない僕はビバークにとことん弱い。ひそかに雨が降らないことを心から望みつつ沢に向かった。
肝心の沢はというと、しんぺーの一人勝ちの感じ。大釜、又右衛門滝、どこでも引っ張ってもらってばかり。他の皆もフリーを練習しているせいか、目に見えて置いていかれる感じがしてちょっと悔しい、頑張らなくてはいかん。唯一自分の特技を生かせた三段の滝の人口登攀も、時間がめちゃくちゃかかってしまい、登っている途中に後ろを振り返るとポカポカ陽気の中、大岩の上で気持ちよく眠っているニッシーが見えた。「あ、、、時間かかってゴメンナサイ、、、」。
水量が少ないことも助けて、難しい沢をいとも簡単に抜けてゆく。泳いでは取り付き、の繰り返し、時に長い淵が現れたりして、いろんな要素が詰まったすばらしい沢だった。気づけば予定より一日早く下山できそうだった。しかし最後は残念な事故に。少し不安定そうな岩石帯があったのだけど、一瞬体重をかけるだけだとそのまま直進、続いてニッシーも通過。しかし三人目のしんぺー通過時に岩が崩れ、足が巨岩の下敷きになるという事故が起きてしまった。自分で不安定さを認識していたにもかかわらず、そのまま進んだルートに1/3で危険が含まれていたわけだから、猛省しなくてはならない。結局、しんぺーの自力と皆の協力でなんとか沢から抜け出し、病院にいくことができた。ここ一年で、沢のあと(もしくは沢にたどり着けずに)病院に直行したケースが5回、確率で言うと8割以上という驚異的な値。なんか、厄払いにでも行ったほうがいいのかなぁ。
ともあれ、今年の夏も一緒に山で過ごすことができて、本当に楽しかった。是非来年も、回復したしんぺーが卒業できずに京都で山を登っていることを祈ってます。そして、他の人の夕食に比べてあまりに見劣りする自分のカレーが日程短縮によって出番がなかったことに心から感謝。

N村

 この先にはどんな美しい風景が、どんな難関が待ち受けているんだろうか。どう突破するのだろうか。進むごとにわくわくして、進むと予想を裏切らないような風景が待っていた。北ノ又はそんな沢で、沢をやっていてつくづくよかったと思いました。
 こんな沢に行けて、こんな心地よく遡行できたのも、リーダーA野さんを初めとするメンバーのお陰で、実に感謝したいです。
 水量が少なかったのでもやや易しかったのかもしれないが、これも天をも味方につけるリーダーの力ということで。
 しかし、N澤君の人工登攀もY口君のフリーの滝突破もすごかった。しびれました。
 あと大釜の水流もすごかったなー。
 F澤さんの尺岩魚の天婦羅も美味しかったです。
 書いていてまた沢に行きたくなってきました。またよろしくお願いします。
 最後はY口君の怪我という残念な結末で終わってしまったのですが、そこでも各自力を発揮して対応できたのもこのメンバーのすごさかなと思いました。とにかくY口君が早く復活することを願いたいと思います。
 あと自分もアクシデントの対応についてもっと真剣に考えたいと思いました。

Y口

またやってきた、A野隊の熱い夏!個人的に、沢でも人生でも師匠と尊敬して止まないA野さんの合宿!赤石沢、頼母木川と続いた3年目の今年は憧れの沢、黒薙川・北又谷!長大なゴルジュに険悪な釜&滝!例年は合宿前に2回は泊まりの沢に行ってステップアップを試みていたのだが、今年は仕事の都合で休みが取れず、海ノ溝洞に2回日帰りで行き、そして2回はじきかえされただけで準備期間が終わってしまった。不安を拭いきれないスタートだった。
入山は峠から尾根を一つ乗り越えて、と変わったもの。やっと会えた憧れの谷、思わず飛び込む。ちゃんとA野さんにならって沢の安全を祈って口をすすぐのも忘れない。
今回の沢、ネットやら本やらで見ていてどうしてもトップしたかった滝があった。それは大釜淵の滝。写真で見てイメージをふくらませていても、実際に見ると凄い迫力!落ち込み直前まで大渦の流れに乗って、落ち込みすぐ左のリッジ状に乗る。巻き込まれると一旦沈んで、ぐる?っと釜を回ってスタート地点に戻ってくるらしい。すいすい?っと、泳いで、ん、確かに引き込まれる。しかし、増水した海ノ溝のF1(0.5m)の引き込まれに比べれば赤子の頬をなでるような緩やかな引き込み。スタンスも容易に見つかる。よいしょっと。無事通過。憧れの滝も無事越えてしまうとなんだかあっけない。
しかし、見せ場は他にも残っていた。次の又右衛門の滝。この滝、核心は二点。水流に逆らって弱点のスタート地点まで泳ぎつけるか、それと水際から上がれるか。ガバホールドを"立ち泳ぎジャンプ"で取ってしまえば、後は高い位置のスタンスに立ちこめるかだけ。ヒールフック気味に決めた足、太腿に気合いを入れて、ググググっと立ちこむ。その後はホールドスタンス豊富。落ち口近くに残置ハーケンあり。って事でさくっとOS♪ピン取ってガッツポーズ!自分の引っ張ってきたザイルを頼りに仲間たちが登ってくる。隊の力になれた充実感とちょっとした優越感!やっぱ、滝のトップは最高だ?!!
他に印象に残ったのは、二日目の白金の滝。縦穴のようにくりぬかれたゴルジュの中。水しぶきに光線が反射する中チムニーを登るF澤さんは息をのむ位カッコ良くて、まるで一つの絵画のようだった。
それと、その後の三段の滝。N澤が自慢の人工登攀の腕を振るう。いや、これは凄い。人工登攀の威力は想像以上!一本のクラックに沿って、たった3枚のハーケンとナッツを駆使してジワジワと登って行く。するっと最後抜けた時のN澤の満足そうな顔、きっと俺も又右衛門の滝であんな顔してたんだろうなあ!
最後の大きい滝、サルガ滝8mもセオリー通りなら巻くところを、ワガママ言ってちょっとだけフリーで遊ばせてもらう。高度はあるし、ホールドスタンスも悪いし脆いけど、下が深い釜、存分に無茶なムーブで遊ばせてもらう。正直登りきる自信はあったけど、荷揚げの手間等を考えて残り2mくらいで飛び込む。ばしゃーん!ぷは?!Deep water free solo !!最高?!!
人生で一、二位を争うくらい楽しい沢だった。しかし、下山の間際、台無しにしてしまう事故。しかも、巻き込まれたのは僕。詳しくは会報に投稿するつもりなので、気になったら見て欲しい。ただ、皆が皆に自分の身を自分で守れるだけの力量があって、役割分担でき、一丸となって要救助者のために個々が動ける。偵察して、ルート工作して、要救助者について、サポートして…、皆に頼れる安心感があった。ああ、このパーティーでよかった、そう感じていた。
全治1ヶ月は固い、この沢シーズン中の復帰は絶望的な大きい怪我を負って、今も松葉杖だ。けど、やっぱり最高の沢合宿だった。最初から、この事故が起こる事がわかっていても、やっぱり北又谷に行ったと思う。僕は、この沢でまたひとつ沢の喜びを手にしたし、成長した。間違いない!さあ、次はドコに行こう!?

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魚止の滝

 

右岸に飛んで乗越す

 

大釜淵

 

又右衛門滝

 

N村奮闘中

 

適度の激流が面白い

 

面白すぎて顔が笑ってます

 

兄さん笑いが止まらない

 

人工王N澤

 

どこだっけ?

 

唯一巻いた滝

 

やはりお化けだ

 

股が裂ける

 

いい顔してます@相又乗越

 

相又谷の下降

 

相又谷は堰堤だらけ


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