三峰川遡行・大仙丈沢下降

山行名 三峰川遡行・大仙丈沢下降
メンバー L H内 F本  
期日 2008/9/12〜9/15
山域・ルート 南アルプス 三峰川遡行・大仙丈沢下降
山行形態 沢登り

記録

南アルプス北部の地図を眺めていると仙丈ケ岳から塩見岳へと続く長い山稜(仙塩尾根)の一般登山道の西側へ結ぶ道はひとつも無く、そこには長い流程の三峰川が平行して横たわっている。
この長い三峰川を地図で上流へと目をやると仙丈ケ岳へと辿り着き興味が湧く。
地形図を見てみると険しいところは無さそうで、ただただ長い平凡な沢を深い針葉樹林の風景と合わせて沢の山旅にうってつけのようだ。(ただし平凡すぎて沢屋には遡行の対象にはならない)
下山は仙丈ケ岳の東面にある大仙丈沢を下降してみることにする。

9月13日 行動時間6時間55分

三峰川林道ゲート8:05→8:45塩見新道登山口8:55→10:20林道終点10:45→11:05黒檜川出合11:10→11:45大横川出合12:00→12:35小横川出合12:50→13:25柳沢出合13:45→兎台沢出合14:35→15:00岳沢出合(岳沢右岸標高1,900m地点)

前夜野洲駅でF本さんと待ち合わせ、一路長野伊那を目指す。伊那市街を抜け、長谷村の道の駅へは4時頃到着した。満点の星空に今日の天気が期待できる。2時間の予定で仮眠したが少し寝過ごしし7時になっていた。三峰川の右岸に付けられた林道を順調に進みゲートへ。既に車が5台ほど止まっている。すぐに出発準備。
8:05出発。まずは長い林道歩きから。途中塩見新道登山口を見送り、単調な林道をF本さんと山の話をしながら歩く。林道の終点は広い川原であいまいに終わっている。ここでちょっと長めの休憩。
鉄骨でできた無骨な堰堤横を抜け、だだっ広い川原を見ると水量はかなり少ない。踝までの簡単な渡渉で済み、明るい陽光の中誰も居ない山中を行く。
黒檜川出合に着く。ここへは黒檜山から続く尾根が垂下しており、いつか黒檜山経由で仙塩尾根熊ノ平小屋あたりに繋げるのも面白そうだ。
想像はしていたものの思った以上に単調な沢で、坦々と歩調が進む。特徴も無いまま大横川、小横川出合を過ぎ、柳沢出合へ。依然川原は広く、倒木や小滝も無い。両岸は針葉樹が迫っていて静寂な感じが良い。ただ稜線まで見渡せる場所は無く、青い空と針葉樹の深緑、川原の白のコントラストが美しい。こうした単調な遡行だが何の心配もない歩きの沢もたまには良い。
今日は夜行の寝不足で、行程は兎台沢でもいいかと思いながらやがて兎台沢出合へ。すると4人パーティの女性グループが既にテントを張っていて、煙が上がっているのが見える。テントは出合下流の左岸にあるが、背後が急峻な岩場で陽が当たらずあまりいい場所でなさそうだ。ではこちらは先に進もう。
40分歩き、岳沢の広い出合に着くと、本流との出合は礫の堆積で扇状に広がり、まばらに木が生えている。遥か上の方を見ると主稜線がちらっと見えている。本流との出合は泊地にいい場所はないが、岳沢の上流側距離約100m弱の右岸に良い幕営地が見つかった。ちょうど右岸尾根の末端に当たる。前には焚き火によい良く乾燥した流木が幾らでも転がっている。今夜は盛大に焚き火が出来る。
夜空の星を見ながら少しのお酒と焚き火で静かな夜を楽しむ。F本さんの夕食が美味しい。

9月14日 行動時間8時間45分

岳沢出合7:15→8:45三軒岩小屋沢出合9:15→10:40地蔵尾根登山道(標高2,430m地点)11:05→13:20仙丈ケ岳13:50→仙丈ケ岳・大仙丈ケ岳鞍部手前(標高2,945m地点)14:10→15:00大仙丈ケ岳直下からの沢出合(最初の水場、標高2,540m地点)15:10→16:00大仙丈沢左岸台地(標高2,120m地点)

朝、4人パーティが本流を歩いていくのが見えた。我々も30分後に出発する。今日は雲が多いがまずまずの天気のようだ。川幅は前日の兎台沢からは少し狭まり、ここ岳沢からはさらに両岸まで樹林の枝が迫り、倒木も少しでてきた。しかし進行の邪魔になるほどではない。15分ほどで、稜線の西にある南沢から丸山、小瀬戸山との最低鞍部を乗越てくる踏み跡の入り口につく。ここには目印に赤のテープが木にぶら下げてあるので分かる。冬のアイスクライミングに利用されるルートであるらしい。やがて両岸がやや急峻になっている場所も出てくる。小滝も出だし、初めて沢登りの気分になってきた。森も深みがある気がする。標高2,150m辺りの右岸にはあたり一面下草と苔の緑色で覆われた格好の幕営にいい台地がある。途中で先行の4人パーティを追い越す。
やがて沢が東に屈曲する地点に着く。ほんの少し先で三軒岩小屋沢が合流しているが、下流から見ると真っ直ぐ向いたほうが本流に見えるので少し注意が要る。ここは右岸から直角に入ってくる沢が地蔵尾根へと続く入り口である。ただし、出合は伏流しており水は無い。この出合からは大仙丈ケ岳辺りの稜線が良く見えている。
伏流となった出合を過ぎると直に水流が出だす。10分ほど急勾配となった沢芯を登ると苔むした湧水口が左岸に見つかる。この湧水を右にみて左のガレ沢に進行すると乾燥した礫と倒木帯となって歩きにくくなってくる。勾配が落ち着く頃、倒木が行く手を阻むようになり、潜ったり乗り越えたりを繰り返すが思ったほど長くは続かず、激しい箇所は20分程度で終了した。
その後、歩きやすくなり、緑の苔の絨毯のようになった美しい河床には再び水流が現れ、この辺りが深い森に緑一面の苔の河床、苔むした倒木、透明な水と、今回の山行のハイライトだ。樹林越しの濃い青空も良いコントラストとなってい美しい。最後の水が無くなり、斜面を地形図の2,422mを目指して頑張る。はじめは枝がうるさかったが、斜面に取り付くと登り易くなった。狙い通りの地点で登山道に出た。長い三峰川を詰めあげた。ここで30分ほど休憩とする。
地蔵尾根の登山道は非常に明瞭で、時々見える仙丈ケ岳を眺めながらゆっくりと長い登りに取り付く。標高2,700m辺りからは紅葉で色づきはじめた雄大な仙丈ケ岳の西面を見ながらの登りとなる。
北沢峠からの道を合わせる頃、背後に甲斐駒ケ岳、鋸岳も見えてきて眼下に仙丈小屋も見える。
登山者も目に付くようになり、さすがは百名山、登山者が多い。山頂には13:20に到着。少し雲が多くなり肌寒いが、視程は良い。F本さんははじめての山頂だ。山頂の登山者と一緒に山座同定を楽しんだり、F本さんと記念写真を撮ったりして過ごす。
さてここからは大仙丈沢へと下降する。下降点は大仙丈ケ岳への鞍部より少し仙丈ケ岳寄りの標高2,945m、尾根が2重山稜となって広く開いた傾斜の緩い斜面とする。山頂からここまで約20分下った。最初は広い斜面だが、急傾斜になるころには礫が大きくなり、礫の堆積した斜面と帯状のハイマツの斜面が模様になっていて、下る斜面を選ぶのに少し右に左にと斜面を移動する。もちろん踏み跡は全く無い。やがてやや大仙丈ケ岳寄りのハイマツが無い礫の堆積した細い帯状の面を真下に向け急下降する。下のほうのカンバの木を目標に下るが、礫の堆積した面ごと流れ出し、場所によっては自分は止まっているのに地面ごと動いている状態となる。F本さんははじめての体験でおっかなびっくりといったところだ。ハイマツの切れ目を見出しながら多少左右に進行方向を変えながら、ついにハイマツに囲まれた。意を決してハイマツの海に飛び込む。思ったほど長くは続かず、あっけなく10分ほどで下草の無いダケカンバの樹下の斜面となった。礫もハイマツも少なく楽になったが、傾斜は相変わらず急で、滑り落ちないようにブレーキを掛けながら下る。
やがて右側から水音が大きく近づいてくる。正面には北岳が大きく望め、この辺りで幕営を予定していたが、予想していた水流はまだかなり下までいかないと得られないようで、また、幕営できる平坦な地面が全く見つからない。どんどん下り、大仙丈ケ岳直下から来ている沢にやっと出会う。標高は2,540mあたり、稜線からは約400m下った。水はかなり豊富に流れているが、残念ながら幕営できる場所は無い。北岳を正面に望みながら快適なテント生活を望んでいたが諦めた。また、大仙丈沢カールはただの広い斜面であまりカールらしくない。カールの底もはっきりとはしていない。いまひとつだった。
さて、どうしよう。答えは下降するしかない。上から眺めているとかなり下方に広い台地が平坦地のように見えている。「よしあそこまで行こう!」F本さんも同感のよう。多少傾斜が緩くなり、単調に下降する。水流はやがて伏流してしまい消えた。今度いつ現れるか少し心配だ。上から見て快適そうだった平坦な台地は近づくと結構傾斜があり、礫も大きく幕営にはとても適しない。水も無い。さらに台地を降りていくと右岸の沢から水音があり、その沢の出合少し上流で本流の水が水量豊かに噴出していた。その本流の左岸の尾根状となった高みに登ってみると狭いが幕営できる草地となっていた。16時、本日の行動をやっと終える。計画していた場所より相当下まで降りてしまった。標高は2,120地点。
今夜も盛大に焚き火をし、テントの背後には月夜の空に北岳、小太郎山のシルエットが浮かんでいていい雰囲気だ。
焚き火を囲み夜は9時頃までF本さんと山やいろいろな話をして山中での至福のひと時を過ごす。

9月15日 行動時間3時間40分

左岸台地8:20→9:40野呂川林道9:55→10:45野呂川出合バス停10:55→12:00北沢峠

大仙丈沢自体は単調で、カールもたいしたことなく面白味に欠ける面があるが静かさと風景は良かった。前日にかなり下ったので今日は下降が楽だ。出発は急ぐ必要もないので8時20分となった。広くなった沢を右岸左岸と渡り返しながら下降する。小1時間経った頃、下から2人連れの遡行者が登ってきた。ヘルメットに登攀具一式を身に纏っている。簡単な挨拶だけしてそれ違った。やはり登る人もいるようだ。
出発から1時間20分で野呂川林道に降り着いた。林道に降り着く前にある堰堤2ヶ所はいずれも右岸を容易に降りられる。ここからは長い林道歩き。途中野呂川出合バス停で臨時のバスが見えたが惜しいことに少しの差で乗り遅れた。北沢峠まで車道歩きとなってしまった。しかし、この車道歩きで思わぬ素晴らしい光景に出会うことになった。途中、道路わきの花畑でアサギマダラ、クジャクチョウ、セセリチョウなどの乱舞する姿が見られた。それも一度に30頭あまりも飛んでいる。これほど多くのアサギマダラが一箇所で同時に見られるのははじめての経験だ。F本さんとしきりに蝶の写真を撮影しあう。もちろんF本さんもはじめての経験だ。単調な車道歩きが蝶のおかげで楽しい歩きとなった。北沢峠はさらに30分歩き12時ちょうどに到着。これで今回の山行を終えた。
さて次回は小太郎山に野呂川から直接登ろうかな?野呂川林道で取り付けそうな尾根を観察したので新たな山行ルートが浮かんできたような・・・・・。気がするだけかな?
F本さんご一緒いただきありがとうございました。また道の無い山に出かけましょう。

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三峰川本流をゆく

 

三峰川源流の流れ

 

最源流の水

 

地蔵尾根より仙丈ケ岳

 

雲湧く仙丈ケ岳にて

 

稜線を離れる

 

大仙丈沢で幕営

 

クジャクチョウ

 

アサギマダラ


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