京都雪稜クラブ - 若さ溢れるオールラウンドな活動 −京都岳連加入−
山行名 | 冠山から能郷白山縦走 |
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メンバー | L H内、F澤、K山、Y浅、K田 |
期日 | 2009/3/20〜3/22 |
山域・ルート | 奥美濃 冠山から能郷白山縦走 |
山行形態 | 積雪期縦走 |
奥美濃の山々は残雪期によく行くが、今回は学生時代に計画して途中敗退した冠山から若丸山、能郷白山へと辿る縦走を行った。これまでに若丸山やスギクラなど、部分的には登っている。
22年前の計画がやっと今回実行でき、メンバーにも恵まれ楽しい山行となった。
さて縦走だが様相が変わっている。岐阜県側には徳山ダムが完成し、取り付きの様子が現地に行かないと掴めない。また今年の暖冬で残雪が非常に少ないと思われる。4月上旬の予定を繰り上げることにし、雪がより多く残っていると思われる冠山の北面の何れかの尾根を利用することとし、急行「きたぐに」の客となる。
急行「きたぐに」を武生駅で降り、予約していたタクシー会社の休憩室を借りて仮眠をとる。暖房が効き快適だった。タクシーを夜明けの国道417号冬季通行止めゲート少し手前の田代第三トンネルで下車。時刻は6時を少し過ぎている。
早朝から雨が激しく、とても出発する気がしない。雨がましになるまでトンネルの中で仮眠することとする。トンネル内は意外と寝るには快適だった。車は全く通らない。
2時間ほどで雨は小降りとなったため、ようやく装備を分担し出発準備を整える。8時15分出発。冠山峠への林道を辿るが標高の低い周辺の尾根や沢には全く雪が付いていない。先が思いやられる。当初予定していた林道の大きな屈曲点から尾根に取り付くことは止め、さらに林道を奥に辿る。新緑には早く、かといって残雪はほとんど無いし、天気が悪いせいで殺風景な風景だ。例年なら林道上の残雪が北面で急傾斜になっていて心配なのだが今回はまったくその問題がない。
1時間半林道を歩き、林道が一番南で大きく屈曲する少し手前で、地形図の916m標高点から垂下する尾根に取り付く。最初の標高差40m余りの急斜面を頑張ると標高750mで落ち着く。この標高でも雪が無いが、標高800mから上部はほぼ残雪の上をトレースできるようになりほっとする。今日はガスと風雨で見るべきものは何も無いが標高が上がるにつれてブナのシルエットが霧の中に浮かんでは消えてゆき、幻想的な光景だ。
風が少し強くなり、広い県境稜線に出た。ここまで雪質も安定しており、予想していたより順調に歩調が進む。稜線からは東に200m東進し、予定していた標高1,190mの広い稜線の南寄りにテントを張る。天気が悪いので早々にテント内でくつろぐこととする。
天気予報では午後から晴れだと言っていたが、結局夜まで風とガスで全く視界のないまま1日目は終了した。時間はあるが、この天気では誰も冠山に行こうとは思わない。
5人で山の四方山話に雑談をして楽しむ。
夜8時過ぎに外に出てみたが天気予報に反して濃いガスに包まれている。
たまたま夜中目が覚めたのでテントのベンチレーターから外を覗くと満点の星空だ。時刻は1時50分。さっきまで濃霧と風だったのに!
昨夜と天気はがらりと変わり、今日は快晴となった。4時に起床し、朝食を済ませ、5時半過ぎに冠山へ空身で出発する。
すばらしい快晴の空で今日の縦走はうまく行きそうだ。昨日のガスのためブナの木に樹氷が付いていて美しい。
冠平手前では日の出が拝めた。冠平からは山頂直下での急斜面に備えてアイゼンを着ける。途中、距離20m程はアイゼンを効かせて慎重に急傾斜をかわすと冠山山頂へ。泊まり山行では始めて一緒のK田さんもアイゼンの使用は心配なさそうだ。(今回の山行ではアイゼンを使った唯一の箇所)
山頂からは金草岳や千回沢山、笹ヶ峰などが見渡せる。徳山ダムの湖面も見えている。目指す能郷白山もちょうど若丸山の背後に長く横たわって見えている。北には白山、別山も白い。皆で記念写真を撮って山頂を後にする。
冠平へ慎重に下るとあとは稜線漫歩。さわやかな朝の日差しをいっぱい浴びてテントに戻る。
テント内でお茶を飲んで一息ついてからテント撤収。さてここから長い縦走の始まりとする。広い尾根を快適に東へと進む。朝の樹氷が朝日に輝き時々見とれる。徐々に若丸山が迫ってくるのが楽しい。地形図の1,206m峰の150m手前の尾根が少し屈曲しているところは尾根上に薮が出ている最初の地点となった。しかし尾根の直ぐ右斜面を巻くと雪は稜線直下まで繋がっている。その後一旦尾根が広くなり、絞れてくると若丸山山頂へ。
若丸山はさすが奥美濃の中央部に位置するだけあって展望は360度見渡せ雄大だ。能郷白山は南北に長い稜線を真横から見るかたちになるので大きくゆったりと見える。辿る県境稜線は能郷白山の手前で大きく屈曲しているので能郷白山の山体の下方に重なって見える。その重なって見える場所に今日泊まる予定の白谷に一番近い鞍部は黒々と見えている。どうも辺りには針葉樹があるようだ。
山頂で30分ほど過ごし出発。山頂からの急下降は時々木につかまりながらの下降となるがアイゼンが要るほどではない。その後広くなった尾根を順調に辿り1,160m標高点の先の鞍部に着く。さてここからは尾根が痩せていて薮が出ている。岐阜県側は雪の無い急斜面の草付、福井県側は残雪があるが意外と急斜面だ。F澤さんは残雪を辿り、他4人は薮尾根を漕ぐ。しかし距離は短く、薮の密度も低くあっけなく20分程で通過してしまう。1,226mに登り、少し先の北へ伸びる尾根の分岐点で大休止とする。風が弱く、日差しは強く暑い。K山さんは少し昼寝を楽しんでいる。(去年4月この北からの尾根を利用し若丸山を目指したが薮と天気のせいで途中残念した)
さてここからは昨年辿ったばかりなのでよく地形を覚えている。広い尾根が以後しばらく続く。5人1列ではなく三々五々好きな箇所を歩く。1,167mあたりはゆったり広い尾根にブナ林が並んでいて非常に気持ちの良い場所だ。ここには非常に面白い形の幹をしたブナがあり、見とれてしまう。
Y浅さんがブナに寄り添ったポーズが面白い。このあたりは尾根が広く、小さなコブや二重山稜もあり、ガスの日は進路を定めるのが難しそうだ。しかし、周囲のブナ林は見事だ。新緑の頃は綺麗だろうが雪の下には深い笹が見え隠れしているのでその季節には近寄れそうもない。
スギクラへの最低鞍部からは登りに転じ、1,181m先の急登を過ぎると再び広々とした緩い尾根を進む、右に磯倉と能郷白山の山容が大きく迫る。左には部子山が大きい。
スギクラは主稜線よりも一歩北側に張り出しているが、ここの県境はなぜか分水嶺ではなく無理やりスギクラ山頂へ引いてある。我々は山頂には寄らずあっさり右折する。少し小さなコブに登った後、標高差で120m程度急下降になっている。しかし午後の日差しで雪が腐ってきており、難なく下る。1,130m峰手前の鞍部で休憩。白谷の水流の音がよく聞えて来る。ここまで7時間歩いてきて、風は無く日差しが強くみんな疲れが出てきている。春山というより初夏のような暖かさだ。休んでいる分には非常に気持ちよい気温だが歩くには暑い。
この鞍部からは再び標高差120mの登りでだだっ広いコブを越える。出発するとF澤さんはさっさと先に行ってしまう。2番手の私の後ろもいつの間にかついて来ていない。みんな適当に間隔を空けている。この登りもブナ林が美しい。
能郷白山が目前に迫り、空の青と雪の白のコントラストが綺麗に見えるだだっ広い山頂でしばし皆が揃うまで休憩。左手の白谷からは水の音がさらに大きく聞こえている。さてあと一息、ゆっくり下降に転じ、やがて尾根が細くなってくると針葉樹がぽつぽつとあり、最低鞍部に辿り着く。
ここは稜線のすぐ左横を白谷が流れており、非常に興味のある特異な地形をしている。尾根から右側の風景は深い谷を挟んで向かいの山並みが見えているのに、尾根から左はほんの標高差15m程度下に大きな沢があり、限りなく稜線に近いのに水量たっぷりの沢となっている。また今回幸いなことに沢は一部残雪が無く空いており、水がそのまま汲める。流れのすぐ横に今宵のテントを張るのにうってつけの台地となっている。
残雪期の縦走で稜線のすぐ側で十分な水があると言うこのような好条件はめったに無い面白い体験だ。テント場としても明るく開けた空間で風も避けられて申し分ない快適なテントサイトだ。
夜明け前から雨の音がはっきりしてくる。4:15いつもになく珍しくH内がみんなを起こす。スパゲッティの美味しい朝食だった。今回の山行の1日目は雨、昨日は快晴、今日はまた雨と天気が日替わりでこんなにはっきり好天と荒天に分かれるのも珍しいことだ。しかし早朝から雨とガスは嫌だ。今日は1日目と違って強い風を伴っているので稜線は厳しそうである。
そこで、F澤さんと相談し、計画を多少変更して白谷を詰めることとする。たとえゴルジュがあっても残雪で埋まっているだろうとの推測により、白谷を詰めて行くことが出来ると判断した。
雨の中テントを撤収し6:15出発。沢はところどころで水流が出ているがほとんど埋まっている。出発して30分ほどで狭くなったところに出た。水流が一部で出ているが見た目ほどたいしたことなくゴルジュっぽい場所を通過し、やがて左手の斜面が緩く広い開けた分岐に着く。地形図の1,272mだ。少し休憩していると県境稜線が一瞬ガスの合間に見えた。1,272mからは北東に伸びる浅い沢を詰める。F澤さんは後続に配慮し急なところはジグザグにトレースを刻む。沢はびっしり残雪に埋まっているし、雪のしまり具合もちょうど良く、歩くには問題ない。
標高1,450mで沢芯を外れ、真東の方向に急斜面をジグザグに折り返しながら高度を稼ぐ。リズムよく進むが次第に風が強くなってくる。稜線ではさらに強風となっている筈なので1,580mのコブに出る前に休憩とする。テルモスの熱い紅茶を皆で回し飲みする。この間に服装を調整。
ここから標高差30mあまりで広いコブの頭に出た途端、南からの強風に煽られた。F澤さん曰く風速15mはあるそうだ。ガスで全く視界が無い。ここまでずっとF澤さんが先頭に立っていたが、ここからはF内にバトンタッチ。かろうじて稜線の尾根が見えるのと、日頃の読図感覚を研ぎ澄まして強風の吹き荒れる稜線を進む。稜線は雪が少なく、薄っすらある程度で、場所によっては草が出ているが薮の無いのが幸いだ。やがて祠が見えてきた。以前と違いどうも建て代わったようだ。以前は中に入れたが、鍵がしっかり掛かっている。風を避けられるのはこの祠の風下しかない。
これで冠山から能郷白山まで縦走が完結し、大変嬉しいのだが、この強風とガス、雨で山頂の展望は全く望むべくも無い。気温は高く、寒さはあまり感じない。
さて能郷白山山頂は山頂部がだだっ広く、下山方向は慎重に定める必要がある。地形図とコンパスを使い、下山方向を定めて急斜面を下降すると右側から踏み跡が合流し広くなった標高1,530m辺りの稜線台地に無事降り着いた。これで安心。あとは大勢の登山者が付けた踏み跡を辿るのみ。ガスと雨で休憩もそこそこに早い足取りでたんたんと下降する。意外とアップダウンが長く続き、その後稜線を左折し、さらに支尾根を下降する。尾根末端の雪の無くなった登山道で疲れてきたが、沢の音が大きくなってきて、ようやくガスから抜け出すと、林道手前の渡渉点だ。増水した沢を慎重に渡って登山口に無事到着。
それにしても今日の稜線歩きは大変だったのでみんな安堵の表情だ。
誰ともなしに休憩を言い出さないまま登山口は通過し、そのまま林道を歩く。長い林道歩きの始まりだ。山に来て林道歩きはつきものだが、やはり嫌なものだ。Y浅、K田さんはお喋りしながら、男性陣は微妙に間隔をあけながら黙々と歩く。
黙々と歩いているとやがて前方に1台の車が暗い谷間からライトを点けて上がってくるのが見えた。車は停止し、みんなで車の方と話していると、「そのうち戻るので帰りに乗せていくよ」とうい言葉を頂く。
歩き再開。途中雨の中長めの休憩をとる。それから20分位歩いた頃、後ろからK山さんを乗せた例の車が近づいて来て止まる。車の定員までの人と全員の荷物を積んでくれることとなった。
厚かましくもうすずみ温泉まで送っていただけることとなり、F澤、H内は能郷の集落まで空身で歩き、先に温泉に着いた者からタクシーを手配してもらえることとなった。
そして、能郷に着いたら3分と経たないうちにタクシーがやって来て、我々も順調に温泉に着くことが出来た。
入下山後のアプローチが計画でいつも問題になるのだが、今回もスムーズに事が運んだ。下山後のアプローチの不便は悩みだが、最近の山行ではなぜか毎回たまたま出会った方によくしていただいてその悩みはいつも解消してしまう。本当にありがたいと感謝することが多々である。
うすずみ温泉で3日間の汗を流し、初めて乗る樽見鉄道では心地良い線路を刻むリズムで眠りを誘われつつ帰路についた。
今回の山行では入山初日と下山日は天気が悪かったが、核心の縦走日の天気に恵まれ、全体としては非常に充実した山行となりました。何より私にとっては22年前の計画がようやく実行できて満足感でいっぱいです。山行を共にしていただいたF澤さん、K山さん、Y浅さん、K田さんありがとうございました。また奥美濃の縦走に行きましょうね。
2日目の早朝、テント泊地から冠山までの稜線には、樹氷がたくさんついていました。冠山直下の急斜面はアイゼンの前爪がよく効いて楽しかったです。
冠山の頂上からはどこを眺めても山また山で、馴染みのない山域であることもあって、やけに遠くに来たような感慨を覚えました。頂上からは、これから歩く稜線と終着点である能郷白山が見え、稜線漫歩にウキウキしました。白山と別山はやはり白さが際立っていました。
縦走中はブナの大木を見上げながら、初夏のような陽気の中をのんびりと歩けました。しかし、最後の1時間は、暑さとエネルギー不足のためにモウロウとしながら歩いていました。テントの横に冷たい雪融け水が流れていて生き返りました。雪から水を作らなくてもよいので、テント生活がとても楽チンでした。
3日目は朝から雨で、能郷白山からの展望はこの時点であっさりあきらめました。ルートはF澤さん提案の沢詰めに変更になりましたが、この提案がどれほど有難いものであったかは、稜線に出てから身にしみてわかりました。耐風姿勢をとるほどの風ではありませんでしたが、能郷白山直下の稜線に出たとたん、想像以上の風が南東から吹き付けてきました。稜線で3〜4時間もこの風に吹かれていたらと思うとゾッとしました。H内さんとF澤さんの的確な判断に感謝しました。
頂上は広い台地のようになっており、視界が10メートル程度しかきかない中で、下り口を探すのは大変でした。私のコンパスをH内さんに渡し、H内さん先頭で急斜面を下りていきましたが、前の前の人が見えなくなるような状況で、「本当に下りられるのだろうか?」と不安になりました。少しして踏み跡を見つけたとの声を聞き、ホッとしました。この視界の中で正しいルートを見つけ出すH内さんの読図力というか地形に対する勘には恐れ入りました。当たり前のことながら、山に対する能力というのは、条件の悪いときにこそ試されるのだとあらためて実感した山行でした。
能郷白山には、また視界のよい時に登りに行きたいと思います。