青春の詩 5(中川 ピン)

序説

今年も桜の便りは、少し早かった。毎年のことであるが、散る桜を見ていると儚さを感じる。昨年の梅雨が始まったころ、過労とアルコールの呑み過ぎでまたまた肝機能障害になってしまった。肝機能数値のGOT・GTP・γ―GTPの値が、正常値の十倍にも上昇していた。医師は、「入院しますか」と優しく声を掛けてくる。しかし、こんな事で数少ない年休を消化するわけにはいかない。秋には継続登攀に挑戦するためにも・・・。  入院してもコロコロと寝て点滴治療を受けるだけなので、「ちゃんと通院しますので、なんとか考慮して下さい」と懇願して、アルコールを呑まない約束を堅く交わして診察終了。二ケ月間・五〇日間の禁酒。暑い京都の夏を無事過ごし、秋には黒部丸東、穂高継続登攀を無事終えることが出来た。

第一章 単独

 釜トンネルを抜けて、上高地を目指して歩いている。今回は、屏風岩0ルンゼ単独。昨年の同時期に1ルンゼの帰路に見上げてから、登りたくなった。
 なんで、単独かと言うと。パートナーと都合がつかなかったこともあるが、「登りたい」と言う気持ちも強かったのである。今回の出発前、会長と岡村さんだけに挑戦することを告げて京都を発った。
 夜間登攀、恐怖感、風雪と条件は悪く敗退の条件・理由は、十分くらいに揃っている。登攀中、何度か眼下の樹林帯に続く白い一条のルンゼを見るたびに気持ちは揺らいだ。でも下降してしまったら、二度とクライミングが出来ないような気もした。今は、稜線に抜けることだけを考えるだけである。
 なんとか稜線まで抜けることができた。しかし、アルパインの本道である頂上まで抜けることが出来なかった。この挑戦、矛盾した二点が私の気持ちを混濁させた。
 ひとつは、なにも情報のないルートに挑戦して自己の強さを確認して見たかったこと。
 もうひとつは、恥かしながらであるが、「冬季の単独」の記録が欲しかったこと。
(〇三年三月 穂高岳屏風岩・0ルンゼ登攀を終えて)

第二章 ルンゼ2

 昨年と同様に、岡村さんと私は錫杖3ルンゼの取付きに立っている。壁は春のような日差しを浴びて黒々としている。目指す3ルンゼは、日差しと対照的に冷気を感じさせるくらいに、静かに冬の気配が支配しているかのような風が吹き抜けている。過去二冬、敗退しているルートである。ルンゼに入って感じたことは、今までより雪が多いということであった。
 しかし、順調に高度を稼いで氷化したチムニーを飛び出すと滑り台の様な斜面が広がっていた。少し登ると昨年の敗退した下降地点である。今日は、二人とも順調である。コルに近づくにつれてスノーシャワーは強くなるが、バンバンとザイルをのばしていく。陽が西に傾きかけて、もうすぐ沈むころに最後の雪面を登ってコルに着いた。三度目の正直・・・。通い続けて、やっと登れた。
 さて、あとは下降だけである。途中からヘドランを点けて取付きに帰ってきた。帰路の樹林帯は、月明かりで木々の影が一直線に雪面に伸びている。テントに入ったら、まずはビールで乾杯である。今夜は、どんな登攀の話で盛り上ろうか。
(〇二年二月 錫杖岳・クリヤの岩小屋にて)

第三章 手紙文例・御機嫌、如何ですか。

前略
今年は、久し振りに京都の冬を楽しむことができましたね。
互いに風邪等で体調を崩すことなく、季節が変化したことを
嬉しく感じています。
御機嫌、如何ですか。
こちらは、ボチボチと進んでいます。
今年も桜の開花は、少し早いようですよ。
花嵐の吹く前に、散策に行きましょう。
草々

第四章 料理教室・カレーの作り方

用意するもの タマネギ・ニンジン・ニンニク・セロリ・タカノツメ(唐辛子)・カレー粉・練り辛子・好みの肉類・トマト・醤油・バター等。

  1. 肉類とタカノツメは、フライパンで焼いておく。
  2. タマネギ・ニンジン・ニンニク・セロリは、おろし金ですりおろす。
  3. 2のすりおろしたものを、鍋に入れて軽く炒めて焼いた肉と一緒に煮る。
    ここで小量の水を加えるが野菜から出た水分があるので、あまり加えないこと。
  4. 十分に煮込んだら、カレー粉を加えて再び煮込む。
  5. 湯に浸けて、皮を剥いたトマトを刻んで入れる。
  6. このころになると、カレーはトロトロになっているので、味見の時は熱傷に要注意。
  7. バターと醤油を、好みの量加える。そして、練り辛子を少し加える。
  8. 再び煮込んで、終了。

 これは、時雨山房で好評の定番メニューです。具の無いカレーですが、水っぽく無くトロリとした味わいがあります。半日くらい煮込むので、肉も形がありません。
 ワインを呑みながら、少し焦げ目のつけたフランスパンと食べると美味しいですよ。

第五章 クライマー

私は、小西政継さん、森田 勝さんが大好きです。

第六章 疼痛

 バリバリに凍りついたテントの中で目覚めてから、湯を沸かして朝食の準備をする。湯が沸いたら寝覚めの乾きを潤すために、コーヒーを一杯。その後は、御決まりラーメンをすする。食べ終えてからは、コーンスープを二杯飲む。これが、私の冬の朝のパターンである。
 冬季でも水分摂取は、重要である。脱水・凍傷予防等の為に。
 ハーネスを着けてヘルメットを被りテントの外へ出る。バイル、アイゼンは凍てて真っ白になっている。もちろん、素手で触る気にもなれない。
 バイルを両手に持ち、取付きへと向う。すぐに、両手指がジンジンとい痛くなってきた。凍傷の後遺症の為である。
 何度か立ち止まって、揉んだり摩ったりするが痛みは増すばかりである。次は、腋下に手を突っ込んで暖めると大分と軽減してきた。毎度のことであるが、歩き始めてしばらくは両手指疼痛の為に、この行為を繰り返す。血液の循環が整うまでは。酷い時は、嘔気がしたり胸の拍動が増すこともある。多分、冷たい血液が心臓に帰る為だと思う。
 「冬季登攀の勲章、凍傷」と最初は思っていたが、今から考えるとアホな発想であった。
 箸の持ち方はおかしくなる、札は数え辛い、落ちた貨幣は拾い難い・・・、何も良いことは無いのである。
 春になり大型連休が終わるころ、私の指も感覚を取り戻す。
そして、冬の登攀の写真を見ながら、この時も疼痛が激しかったと思い出したりしているのである。

第七章 手紙文例 返信

御手紙、力強く拝見いたしました。
山頭火は、純に生きて純に進めと書いています。
花時風雨多し、山あり谷ありですね。
しかし、沢登りをしない私は「山」ばかりですが・・・。
落着いたら、青葉若葉からの月でも見に行きましょう。
それでは、頑張って進んで下さい。

第八章 待ち合わせ

君の足音聞きながら、
知らぬ振りして、
その姿を待っています。

第九章 空想ドラマ

 今回は、俳優2人が本業多忙の為にネタ不足ですので、休刊いたします。
 御迷惑を御掛けいたしますが、御了承下さい。

第十章 小西政継著・ロッククラミングの本

 この本は、雪稜に入会したころに購入した本である。また、この本は各山岳会のHPや山の雑誌等でも名著として紹介されている。
 技術書としては、少し古くなっているが山へ向う心構え、トレーニング方法、不屈の精神等は、「鉄の男」と言われた小西さんの情熱が伝わってくる。
 今の山の技術書は、写真、イラスト等が多く使われている。また、メンタルトレーニングとして、科学的な精神のトレーニングも紹介されているものもある。
 しかし、クライマーの根底に眠る精神を鍛えるものは、このロッククライミングの本しかないと私は信じている。
また、リーダーとしての心構えも記されている。
 リーダーは一番重い荷物を背負い、食事も一番最後、雑用をせよ・・・。
 山でのリーダーの優しさ力強さが、新人を守り、育てていく。その姿を見て新人は学んでいく。山での優しさ、リーダーとしての役目を強く教えてくれた。

おわりに

 春の雨から夏の雨に変わる梅雨がやってきた。この時期の雨に濡れると、いつも森高千里の「雨」と言う歌を思い出す。「ひとつ、ひとつ消えてゆく雨の中・・・」。雨の降りかたにも色々ある。シトシト降ったり、シビシビ降ったり、ドシャ降りだったり。なにも予定のない梅雨の休日、避難小屋で誰も来るあてもなしに雨音を聴いていると、何故か落着く。
 山頭火が其中庵、放哉が南郷庵に暮らしたように毎日を過ごすことが出来たならと最近よく感じてしまう。今の社会の厳しさから考えたら、現実逃避であるが・・・。
 ひとつ想うことは、自然を感じ季節の移り変わりを素肌で感じて暮らして行きたいと思うのである。
 私は、季節の移り変わり、自然の作り出す天気の変化を見たり感じたりするだけで、嫌な事を忘れてしまうこともある。忘れると言うより、それらを感じ取ることができたり、見て感動する気持ちが自己の身体機能に残っていたと言う喜びが大きいから、嫌な事が消えて行くのかも知れない。
 青春の詩も、今回で5回目の連載となりました。正直、最近は忙しくてネタ不足です。今回から新しいコーナーとして、料理教室を書いてみました。暇な時にでも作ってみて下さい。
 さて、今年の夏は、何処へ継続登攀に出掛けようか。梅雨明けの、夏空を楽しみしています。
(〇三年六月、濡雨の時雨山房にて)

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