青春の詩 6(中川 ピン)

序説

 今年の夏は、上半から暑い日が続いている。避難小屋は、連日気温30度オーバーの高熱隧道状態である。暑さの為、来客・宿泊客もない。クーラーの無い避難小屋、今夏も頑張って小屋番生活を楽しもうと思っている。さて、今年はどこの壁に行こうか、、、。

第1章 墜落距離

 冬の屏風で、また墜落してしまった。本チャンでの墜落、4回目。屏風・錫杖・明星、今回の屏風で4回目。しかし、大きな怪我が無いのは、強運の為か墜落姿勢が上手いのか 分からないが、、、。フリーで墜落するのは怖いが、本チャンでは怖くない。なぜかと言うと、私はアルパインクライマーだから。4回合計墜落距離は、25メートル強。今年は、墜落しないようにしょう。途中敗退はパートナーに迷惑がかかるから。

第2章 冬屏風

 大好きな穂高の屏風岩。横尾から見上げると、その大きさに圧倒されるためか「日本のハーフドーム」と言った岳友もいた。雪稜クラブに入ってから、何度も足を運んだ。四季を通じて美しいが、冬は屏風の女神が美しく輝く季節である。大きな壁は、晴れていると雪を落とし夏と変わらぬ美しい岩肌を見せてくれる。しかし、吹雪くと壁は一面が白く大きな雪で覆われてしまい、私達の愛を拒絶するかのように変身してしまう。この冬の大きな女神の岩肌に触れるには、難関の雪を纏ったのT4尾根を突破しなくてはならない。このT4尾根の突破、手強いの一言あり。冬の女神は、美しさを保つ為に最強のボディーガードを持っている。だからこそ、冬の女神は美しいのだろう。愛しき屏風、また雪が積もったら逢いに行くであろう。また、トレーニングして独りで逢いに行くよ。

第3章 手紙文例集

 今年は宵山が終わる前から暑いですが、御機嫌良く御過ごしですか。
地球温暖化と言いますが、宵山に何十万人の人出と聞くと、それだけで京都の
気温が上昇する気がします。最終の花傘巡行が終わる頃は、もっと暑くなると
思います。
避難小屋は、今年もクーラー無しです。タオル持参で、おこしください。

時雨山房

第4章 日課

 ドクターと数年前に冬富士に行く前から、始めた日課がある。冬富士は、マイナス30度くらいまで気温が下がる。起床してからの水浴びを、出発前の11月過ぎからスタートした。起きてから朝食前の朝4時過ぎに冷水を浴びる、「六根清浄・六根清浄、、、」と唱えながら、何杯も浴びる。強くなるために、身体の耐寒機能を高めるだけでなく、厳冬の寒中でも続けるという精神を強くするために。小西政継さんは、朝3時過ぎからランニングシャツ・短パンで、厳冬の都会の街を2時間も毎日欠かさず走り続けたと言う。なんでも続けることにより、何かが突然見えてくると言う、、、。大きな物は見えてこないが、少し他の人より強くなった感じがする。こんな事をしていると、「やっぱり、あの人は変調」と言われることが多いが、目標は強くなこと平凡なトレーニングでは、強くなれないと思うので続けている。

第5章 「おれたちの頂」 塀内 夏子著

 20年前に「少年マガジン」に連載された山岳マンガである。知っている方は、古い方かマニアックな方と思います。邦彦君と恭介君のドラマ、熱き熱き涙なしでは読めないものです。恭介君は、ローツェ南壁の頂で邦彦君を確保したまま高度障害で亡くなってしまいます。今ではあまり見られない、友情路線の山岳マンガ。40歳を前にした今でも、読むと感動します。貸出しOK、読んでみて下さい。

第6章 避難小屋・時雨山房

 時雨山房、大枝山荘さんから御名前を拝借して名付けさせて頂いた。避難小屋と言っても、山中の小屋ではなく私の住んでいる、山の本と山道具しかない街の部屋である。
私の数少ないマニアックな岳人の溜まり場でもある。なぜか知らないが、私の避難小屋に来たがるのである。なにもないのに。夏は、タオル持参で七輪焼き。冬は、防寒服を着込んで鍋物。登攀クライミング懇親会、山行報告や夢・夢を語り合う。みんなが言うことは、「休みが足りない」。社会の一員として働く者として、当然仕方ないことであるが、、、、。
以前にも書いたが、山頭火の其中庵、放哉の南郷庵に憧れる。山村庵住、長閑な生活。
寒い京都の空を走る北山時雨、雨宿りがてらに立ち寄って下さいと言う意味を込めて、時雨山房と名付けました。
「よい宿でどちらも山で前は酒屋」  山頭火

第7章 土合駅

 谷川岳の玄関口の土合駅。谷川全盛期の頃は、地下ホームから長い長い階段を駆け上がり、一ノ倉沢の一番乗りを目指したと言う。しかし、今は静かな駅となり、駅前の土合ハウスが昔を懐かしみ見守るように建っている。この土合駅が賑やかになるのは、今では駅舎ビバークにクライマーが訪れる夕刻である。24時間解放の駅の待合室は、大きなホールで多い時には、40人くらいが夜を明かすのである。この春、初めて土合駅舎ビバークをした時は、関東のクライマーさん達は山の歌を歌っていた。2回目は、ただ駅に泊まりたくて往復1000キロ以上の高速を運転して遊びに行った。
街の駅のオアシス、松本駅が夜間閉鎖になり昔の雰囲気の駅舎ビバークが快適に出来る場所は、少なくなった。
土合駅には、御洒落な照明が待合室を照らし、何故か知らないが鉄棒が一台ある。鉄棒は、トレーニングに使うのだろうか。しかし、土合名物は、日本一の地下駅と地下階段である。
地下のホームから改札口へと続く階段、何人のクライマーが駆け上がったのだろうか。私は、一歩一歩力強く改札の光を目指して登た。ここで、注意。この階段は「数えながら登ると遭難する」と言い伝えが残っている。夜、階段を登る登山靴の音が聞こえるとか、便所に幽霊が出るとか、少し怖い話も残っている。
関東のクライマーから聞いた話であるが、この地下駅には真夜中に銀河鉄道999も停車するそうである。夢のような話であるが、地下駅は静かで下界から寸断された空間。もしかして、みんながアルコールの魔力に負けてシュラフに入っているころ、停車しているのかも知れない。

おわりに

 みなさん、暑い夏が始まりましたね。目標の山にむけてトレーニングされていることと思います。私は、最近トレーニングがやや不足しています。登りたい壁は、多数あるのですが、、。最近、新しくクラブに入会された会員さんが多く、「青春の詩」を御存知でない方も多いと思います。今回、初めて読んだ方は「なんや、これ。時代遅れ」と絶叫される方があるかも知れません。
毎回、毎回の御案内の通りですが、私が山や街で生活していて感じたことや考たこと、憧れ夢を書いています。私が想うことは、伝える力はないが文字で表現できると言う、かすかな喜びです。自称、山岳文士として。
あと少しで40歳になってしまいます。厳冬期パチンコ実行まで、残された時間は2年。なんとかして、強くなりたい。送り火、地蔵盆が過ぎたら、秋になり冬が訪れる。今年の冬は、どこに挑戦しょうかと悩んでします。パチンコへむけてのトレーニングだ。
最近、山に行っていませんが、一緒に登りに行きましょう。サザンのような熱い熱い夏を御過ごし下さい。

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