縦走@上信越・苗場山?白砂山
2010年 10月 21日 | 上越, 無雪期縦走 西は魚野川、東は清津川、南は白砂川に囲まれた上信越国境の山稜は山深い位置にあり、原生的な環境と相まって山屋としては非常に興味のある地域だ。20年以上前からいつかは行こうと憧れている縦走の機会がやっと訪れた。長らく道の無かった佐武流山は 最近、秋山郷から登山道が開設され結構登られているらしい。また、苗場山?佐武流山間は立派な登山道となっているようだ。
今回、この道の無い佐武流山?白砂山間を含め、秋山郷大赤沢から苗場山、佐武流山、白砂山へと単独で縦走することにした。ただし、ネット等で調べると無雪期は相当な薮に難渋するらしい。佐武流山?白砂山間は6時間掛かると予想した。果たしてテントを張れる場所はあるか? 薮はどの程度か? 期待と不安を抱えて向おう! 無心に山と対峙しよう!
【行程1日目】行動時間 5時間40分 天気 曇り時々ガス 夕方時々晴れ
大赤沢バス停9:30?10:55上の林道の登山道入口(一合目)11:05?13:20猿面峰13:40?14:45苗場山14:55?山頂部周遊?15:10苗場山自然体験交流センター
急行きたぐに号から3回乗り継ぎ、秋山郷に向うバスに乗ると乗客は自分だけだ。山間部に入ると山にはガスが掛かり、合間から少し日が射している程度。村々の風景を楽しみながら大赤沢で下車。今回は白砂山頂でKさん、Mさんと合流を予定しており、登山開始のメールを送信して9:30出発。
集落の小道で車道をショートカットして硫黄川沿いの林道を行く。堰堤工事中の横を抜け、一旦山道に入って上の林道に出て、そこから少し林道を歩いてから再び登山道に入る。一合目の道標が建っている。ガスのため紅葉はいまひとつ綺麗には見えない。道端にナメコが顔を出しているが今日は小屋泊まりなので見るだけ。
急登になってからは息を整えてゆっくり歩く。猿面沢を挟んで霧ノ塔あたりの稜線がまさしく霧で見え隠れしている。その沢の斜面の紅葉が美しい。
標高1,400m付近で初めて人と出会う。8月に東京を出発して延々と県境沿いを訪ね歩くと言うフジテレビの5人の方々で、ニッポンインポッシブルという放送をしているとのこと。乙さんと10分ほど雑談をする。ゴールの日本海を目指して県境を行くとのこと。
さらに単調な登りを繰り返して行くと右手を俯瞰できるようになり、混交林の紅葉が見事だ。猿面峰に13:20到着、前方にこれから登る山頂の台地の縁が見えている。
1時間余りの急登を終え、約10年振りに山頂へ。誰もいない。山頂の草原の木道を散策して山小屋に入る。今日の宿泊客は13人とのことで、広々して、暖房の効いた快適な
部屋でゆったり過ごす。1泊2食付で小屋に泊まるのは何年ぶりだろうか。私にとっては少し新鮮だ。
夜、草原に出ると煌々と満月の光が池溏に写っていて幻想的。
【行程2日目】行動時間 9時間20分 天気 快晴のち午後3時から時々曇り
苗場山自然体験交流センター6:50?小赤沢分岐7:10?9:00赤倉山9:15?10:20ナラズ山10:30?秋山郷分岐11:55?12:40佐武流山13:00?14:10 2,107m峰?15:35赤土居山15:45?16:10赤土居山南方標高2,035m地点
小屋の主人から日の出の時間を聞き、台地の東寄りで素晴らしい御来光を迎えた。快晴の空の色が刻々と変化し、池溏のオレンジ色が映える。
宿泊客は殆どが和田小屋へ下山とのこと。広い台地を、周りの山々の名前を思い出しながらゆっくり歩く。木道には霜が降りて真っ白だ。池には氷が張っている。360度の展望が素晴らしい。遠くに北アルプス連峰がずらりと並んで長く横たわっている。鳥甲の三角形も格好良い。
1時間程歩くと苗場山はもうかなり遠くになった。最低鞍部まで下降し、針葉樹の尾根を赤倉山へ。山頂手前に赤湯への分岐がある。北東の展望が大きく開け、中ノ岳、八海山、巻機山、平ヶ岳、燧ヶ岳、日光白根山、手前に谷川連峰と雄大な光景が広がる。
赤倉山山頂は展望無し。テントは張れそうだ。赤倉山から先もよく整備された道を歩く。再び苗場山方面が望め、青空に映えて美しい。ナラズ山で少し休憩を入れる。このあたり地形図の破線と違い、忠実に稜線を辿っていく。前方に赤土居山がよく見えるようになる。樹林と笹原の緑色が見えているが泊まれる場所はあるだろうかと想像が膨らむ。
最低鞍部から少し登ると赤字で水と書いた分岐だ。これから先、白砂登山道の途中にある水場まで水は手に入らない。4Lをこの水場で汲む。流れは僅かで汲むのに時間が掛かった。
重くなったザックを背負い、直ぐ先で檜俣川から上がってくる登山道に合流。急に登山者が多く行き交うようになる。佐武流山まで5?6人と出会う。みんな軽装の日帰り往復登山だ。
分岐から1時間弱で念願の佐武流山に到着。天気は上々。展望は東側だけで、魚野川流域の岩菅山、鳥甲山、志賀高原方面は望めない。東には登ってみたい上ノ倉山、大黒山の道の無い山々が清津川を挟んですっきり手に取るように横たわっている。
13時ちょうどに佐武流山を出発。ここからが今回の山行のメインである。気合を入れて進もう。ほんの10mばかりも行くともう道は判らない。腰上くらいの笹薮を分ける。下りながら進むにつれ、次第に笹の背が高くなり、見通しが悪い。尾根は広いが進行方向は明瞭だ。尾根筋がはっきりして、多少の登り返しがある場所からは笹は頑強なネガマリタケになってきて本格的な薮漕ぎになってきた。見通しの無い中、倒木や立ち木にいく手を阻まれ右に左に細かく進行方向を変える。2,107mに到着。ここまで直線距離で1kmちょうどだが1時間以上も費やした。2,107mの少し下った箇所は笹が低く、これから辿る赤土居山、沖ノ西沢ノ頭、白砂山など大展望が得られる。足元には魚野川支流の渋沢流域が望める。
さて、進路を少し左(東)に振り、赤土居山との鞍部を目指す。しかし、ここからはさらに頑強なネマガリタケに取り囲まれ、よく晴れているというのに進行方向が全く見えない。ネマガリタケの海に潜ったらどの方向に向っているかは感覚で進む。太く、まるで竹だ。全身の体重を押し乗せて進みたい方向に無理やり突っ込む。密生したネマガリタケに足が挟まり引き出せない。下りなのに遅々として進まない。立ち木があり登ってみて現在位置を確かめる。少し左に振り過ぎたようで、鞍部の北の西沢源頭に向っている。方向を修正するのが大変だ。薮の横駆けに体力を消耗する。鞍部へはたかが標高差80mを下るのに30分以上も格闘した。
鞍部の渋沢側に一段下がった場所にはテントが張れそうなところが見えているが明日の行程を考えて先を進むことにする。鞍部からは登りだが、相変わらず激しい薮漕ぎだ。しかしこれまでの下りよりはましになった。見通しも多少効くようになり、進路は問題ない。足や手に切り傷が出来少し痛む。無心で薮漕ぎをするが少し立ち止まって耳を澄ますと何の音も聞こえない。静かな奥深い山中で自分の掻き分ける薮の音だけが響いている。
泊まる予定の赤土居山山頂と思われるピークに着いた。時刻も15時半になっている。しかしとてもテントを張れる余地は無い。全く薮の海だ。小物は全てザックに収納していないと、薮に持って行かれたら探せる可能性は全く無い。休む時にザックの中身を出す場合、近くに置いても薮の陰になりなかなか探せない。地図もザックに入れていちいち見るときに出している。激しい薮漕ぎ時の基本だ。
思案したがここで泊まるのは止め、先に進む。今までの経験で尾根が痩せている場所の方が、薮が薄くなっていたり、ガレの縁に空いたところがあったりする可能性が多く、賭けてみることにする。下り始めて20分ほどでちょっとした岩場に出た。展望がすごくいい。狭いが一時薮から開放される。汗まみれの体に風が当たり心地良い。
岩場を越えて下降するとかなり狭いが低くなった笹の間にかろうじてテントが張れる場所が見つかった。幅60cm程だが平で笹を少し刈って敷き詰め今宵の宿とした。時刻ももう午後4時を回っている。展望は雄大で、東に上ノ倉山、大黒山が大きい。上越の巻機山あたりも遠望できる。
今夜は昨夜とは対照的にひとり山奥の原生林で過ごす。山に来ているという実感と充実感にひたり、今日の行程を思い返す。仲間との登山も楽しいが、時には孤独に山中を彷徨する旅の要素がある山行も非常に楽しいものである。仲間と力や知恵を合わせての山行が充実してこそ、こうした自分だけの山行も引き立つのかとも思う。どちらがいいというものではない。両方出来ることに幸せを感じる時間だ。自分ひとりで行きたい時もあれば、皆で行きたい時もある。
夕餉の支度をしていると、今夜も満月がちょうど上ノ倉山から昇ってきた。なんと美しく、絶妙の演出者だ。地図を見ると佐武流、白砂のちょうど真ん中、一番奥深い地点だ。夜、少し風が出てきたが、テントには全く当たらず快適。外は月夜で明るい。
さて明日白砂でKさんたちと合流なるか楽しみだ。
【行程3日目】行動時間 8時間15分 天気 うす曇りのち曇り
赤土居山南方標高2,035m地点6:10?6:45沖ノ西沢ノ頭6:50?1,927m鞍部7:45?2,080m峰8:35?9:40三県国境9:50?10:00白砂山11:30?12:30堂岩山12:40?14:25野反湖バス停
4時20分起床。朝の冷え込みは無かった。暗いうちに朝ご飯を作り、6時にテント撤収。向かいの上ノ倉山が朝焼けに染まっていて綺麗だ。
6時10分出発。白砂山頂で10時待ち合わせ。間に合うだろうか?
赤土居山を少し下って痩せ尾根状のところからは昔の踏み跡がかすかに付いている。だが、あるのと無いのとでは違う。出来るだけ踏み跡を辿った方が楽だがすぐに見失う。
40分ほどで沖ノ西沢ノ頭に着く。茫々とした笹原の広い山頂で、テントを張れる余地は無さそう。三角点も笹薮に埋まっており、三角点の周りには看板も何も無い。
この辺り、背の高い笹原でネマガリタケ程ではなく、多少昨日よりは行程が捗る。進行左手が明るく開け、始終展望があるようになった。展望を楽しみながら行くが、潅木を掴みながら清津川側に体を乗り出して進むところが多くなり、腕が疲れる。清津川側の斜面に落ちないよう気を使う。さらにアップダウンを何度か繰り返し、1,927m鞍部を目指す。
1,927m鞍部からは標高差150m余りの登りで今日の一番苦しい登りとなった。笹が深く、再びネマガリタケの密薮に囲まれる。ここは無心になってただひたすら薮を漕ぐしかない。踏み跡も頼りにはならない。ネマガリタケの薮の中に潅木や倒木が隠れており、しばしば進路を変える。昨日からの打撲や手の切り傷が痛い。振り返ると薮の隙間から佐武流山が大きく望まれる。やっとのことでだだっ広い2,080mの頂稜部に乗り上げた。
行く手に白砂山が見えてきた。手に届く範囲に来たという実感がしてくる。登りを終えると、少し笹薮はましになり、多少踏み跡が続くようになる。笹は深いがネマガリタケではない。ちょうど目線ほどの高さの笹を漕いで緩やかなアップダウンを繰り返す。進行左側は背の低い笹原帯となり、国境稜線の山々が見渡せる。今日は朝から曇り空だが、昨日より視程が効き、遠くの山々まではっきり望まれる。国境の手前の急登を登り三県国境に9:40到着。白砂までもう一息だ。上ノ倉山方面には踏み跡は無い。ここで白砂川流域が一気に見渡せて爽快だ。下のほうは結構紅葉していて綺麗だ。
さていよいよ白砂山頂へ向う。時刻もちょうど10時に着きそうだ。ひとつピークを越えると2人連れが山頂に立っている。近づくとどうもKさんでは無さそうだ。
10時ちょうど白砂山山頂へ。念願の縦走が完了した瞬間だ。出合を楽しみにしていたが残念。Kさんたちの姿は無かった。他に登山者が3名いた。薮からひょっこりと山頂に着いたので驚いた方もいた。20分休憩する。
Kさんたちは今日の曇天に来ないものと思い、下り出して10分で下から声が・・・・・・。Kさんたちだ。登って来ていたのだ。山頂に引き返し、無事合流できた喜びと、山座同定に興味が尽きない。山頂で1時間ほど山の名を言い合って楽しい時を過ごす。
雲が多いが展望はすばらしく最高だ。遠くは中アの空木岳から日光白根山、巻機山、会津駒ヶ岳までも見え、北ア、頸城、南に向って浅間山、妙義、榛名、赤城などズラリと並んでいる。魚野川を取り囲む岩菅山や赤石山、横手などこの山と繋げて登った山も良く見えている。
11時半下山開始。堂岩山から地蔵峠を経て野反湖の登山口駐車場へ。帰路尻焼温泉の源泉に浸る。温泉をあがると雨が本降りになってきて川の露天風呂は見送り、鳥居峠から上田へと出て帰路についた。
今回、計画の中心である佐武流山?白砂山間の所要時間は事前に6時間を想定していた。実際は7時間掛かった。これでも普段よりは休憩も少なく早く歩いた方だ。薮に慣れていない人がパーティにいれば8?10時間は掛かりそうである。テントを張れる場所は殆ど見当たらず、人数が多ければ笹薮を開拓して笹の上に無理やり張るしかないだろう。広いピークは薮で余地なし。
今回の縦走で特にネマガリタケの薮が激しい場所は2,107m峰と赤土居山の間だ。特に鞍部から2,107mへ登りをとった場合は下向きのネマガリタケの処理に苦しむことだろう。もしかしたら渋沢側に迂回すれば少しは楽かも知れないが、読図は必携だ。
縦走は天気に恵まれ、静かな登山が出来た。今度の目標は上ノ倉山?稲包山縦走だ。いつの日にかまた出掛けてみよう。