京都雪稜クラブ - 若さ溢れるオールラウンドな活動 −京都岳連加入−
メンバー | CL アサノ、フクザワ、ハタヤ、カノウ(以上、京都雪稜クラブ) ヤナセ(関西岩峰会) |
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期日 | 2005年9月3日(土)夜〜9月4日(日) |
地域・山域 | 奈良県 大峰山系 池郷川 |
ルート | 池郷林道中間より入渓―コンコン滝―大又谷―最終ゴルジュ―池郷林道へ |
山行形態 | 沢登り |
地形図 | 池原(1:25000図) |
22:00 京都駅
23:00 城陽市内でヤナセ氏と合流、国道169号線を経由
25:45 池原ダム公園
5:30 起床
5:40 池原ダム公園 出発
6:20 林道途中で駐車
6:45 出発
6:55 池郷川ダム、入渓
7:12 CS滝、右岸を通過
7:45 幅広大水量の滝3m、右岸を巻く
9:05 巨岩帯を通過、石ヤ塔下
9:30-9:50 CS滝、右岸を人工で通過
10:00-10:35 4m滝、右岸を人工で通過
11:02-12:25 ネジ滝15m、右岸のの岩壁を人工で通過
12:55 大又谷出合
13:10-14:15 トイ状10m滝、右岸を通過
14:25-15:00 2m美瀑、右岸を巻く
15:10 沢床に懸垂下降
15:15-15:40 河原(中部ゴルジュ終了点)
15:55 作業道
16:25 大又谷に降り立つ
16:40-16:45 池郷林道
17:30-17:50 車駐車地点
22:30 京都駅
折りから台風14号が接近していた。山行当日の明日、奈良県南部は朝から雨が降るという。こんなときはいつものように心の中で葛藤が始まる。
「雨が降るとわかっていて行くのはメンバーに悪いかな…。でも行ってみないとわからないしな…。」
しかし、やっぱり天候に気持ちで負けてはいけない。特に今回は厳しい池郷川中部ゴルジュ、弱い気持ちからよい結果を決して生まないものだ。
7月9日に池郷下部ゴルジュを久しぶりに遡った。今回はその継続である。
6:55 前回終了した池郷林道のポイントまで車で入り入渓した。雨は降っていない。空は雲に覆われているが日の光を感じられるような明るい灰色である。山の神は我々にいくらかの猶予を与えてくれたようだ。こわれた吊橋とダムが私たちを迎えてくれた。ダムと堰堤を越えしばらくは穏やかな流れが続く。1時間で大分距離を稼いだ。
8:30過ぎ コンコン滝は現われる。滝の上に巨岩がかぶさっているので滝本体は臨めない。右岸の広々とした岩の上から通りすぎた。やがて谷は巨岩におおわれる。登りやすそうなところをさがしながらショルダーをまじえながら越えていく。左岸には石ヤ塔がそびえる。ここまではザイル不要、こんな調子ならあと30分で大又谷まで行けそうである。気合をいれてきたというハタヤ君もやや拍子抜けのようだ。しかし、それもここまで、これからが本番だ。
9:00過ぎ 谷は一気に狭まり、流れの中に身を浸していった。ゴルジュの中に巨岩のトンネルが現われる。アサノがザイルを引き巨岩の下を泳いで抜け、巨岩と壁との隙間の弱点を狙う。ボルトが2本打たれていた。10年前の記憶ではショルダーからナッツの人工で越えたと思う。今回はボルトとナッツの人工で隙間を抜けた。セカンドのカノウ君のときボルトが抜けひやりとしたが確保していたので大事には至らなかった。このすぐ上にはのっぺりとした飛瀑がある。ヤナセ君トップで取り付く。釜を泳ぎ水流左の縦クラックを利用した人工登攀だ。ヤナセ君の持参したエイリアンがよく効いていた。次に現われた30mの水路をアサノがザイルを引いて抜けると大釜をもった30mの立派なネジ滝が現われた。(11:00)なぜだろう…10年前の記憶にこの滝がない。山水画を思わせるような美しい滝、折りから日の光を浴び水流が白く光り始めた。光りに誘われるようにヤナセ君が果敢に取り付いた。大釜を泳ぎ左壁のクラックづたいにはいあがりルート工作する。残置ボルトにハーケン2枚打ち込んで人工で垂壁をあがり、あとはフリーで滝上に達した。雲間からさす日の光を浴びてネジ滝を登る姿は絵になる光景だった。(突如動かなくなった水中カメラが悩ましい)。後続も同じく人工をフリーで抜けた。ヤナセ君の打ち込んだハーケンはよく効いており結局回収できなかった。この滝を越えると間もなく大又谷に出合う。13時を過ぎていた。
せっかくここまで来たのだから本流をゴルジュ終了点まで進むことにした。水路を泳ぎ左に折れるとトイ状の滝が現れた。大釜は波立ち激しさを感じる。ルートは右岸と見た。大釜をへつれるところまでへつりザイルをつけてアサノが泳ぎこんだ。波が大きく水が口に入る。側壁はえぐれており釜の底に引きずりこまれるのではないかという恐怖感があった。なんとか滝の右岸取り付き点にはいあがった。後続をカノウ君に確保してもらって引き続きアサノがリード。側壁から水流横に回り込み直上する。ハーケンを1本打ち慎重に上った。この滝のすぐ上に2m飛瀑がある。ヤナセ君が左岸をフリーで挑むも難しく右岸から巻きあがり懸垂下降で最後のゴルジュの入り口に立った。ゴルジュを渡渉で抜けのっぺりとした滝を越えると谷は開けゴルジュの終了を告げた(15:15)。私たちの山行終了を待っていましたとばかり大雨が降り注いだ。山の神の配慮に感謝したい。
大峰は林道が発達しているのでこんなに険しい山奥からでも容易に帰ることができる。ありがたいことであるが、新潟、山形などの原始の沢にくらべるとゲレンデ的に思えてしまうのは私の傲慢であろう。
関西でも屈指の険谷と名高い池郷に足を踏み入れるなどまだ身分不相応と思っていたが、今シーズンここまではやったという手応えをつかみたく、チャンスにすがりつく思いでアサノさんに参加を願い出た。
さて、どこまで行けるだろうか。
京都から池原ダムまでは最短距離で約160km。紀伊山地の東側を走る国道169号線は終始2車線で西側を走る168号線に比べると進むのも早い。22:00に京都を出発、ヤナセさんと合流の後1:45池原ダムの公園に到着、3時間の仮眠をとる。
池原ダムからすぐ林道に入る。前回の下部ゴルジュの続きとなるダムへの下降点を探りながら、やがて河原に降りる明瞭な踏み跡を発見、6:45に出発する。
6:55ダムから入渓、初めは穏やかだ。岸沿いに歩けば泳ぎもなく順調に距離を稼げる。吊り橋が見えてきたところがコンコン滝。難なく右岸沿いに歩く。いよいよここからが中部ゴルジュ。不安を押し殺すように呼吸を整える。「お待たせしました」 アサノさんの表情に心なしか精気が宿ってきたようだ。
橋を越えるといきなり直径が5mはあろうかと思われる大岩(CS)が行く手を遮る。アサノさんがザイルを曳いて岩の下をくぐるように泳ぐ。右岸に乗り上げるのは楽だったが、渋いのはその先、3mほどの壁の乗り越しだった。
アサノさんがトップで登り、セカンドのカノウ君が登ろうとしたところ、アブミを架けていた残置ボルトが外れる。まだ新しそうなので飛ぶとは予想できなかった。最後に残っていた残置ハーケンを頼りに越える。僕はなりふり構わず唯一残っていたボルトに足をかけつつ強引に登る。なんだかいきなり手強くなってきた。
CS滝を越えて一泳ぎして陸に上がると、さらに泳いだ先につるつるで垂直に切り立った4m強の壁が。足を引っかけるところなどどこにもなさそうだ。ルートを睥睨してヤナセさんリードで取り付く。残置ボルトを利用して2本のアブミを架け替えて登って行かれる。カノウ君の次は僕の番だ。(メンバーのなかで一番重いであろう僕が乗っても)残置支点さん、どうかもちこたえてください。祈るように静かに加重をかける。(実際は足を架ける際手こずったので激しく動いていたと思う…)最後の一歩はよっこらせと身体を這わせるように乗り上げる。幾重のバックアップをとってヤナセさんが確保されている。アブミやヌンチャクはラストのアサノさんが確実に回収された。
しばらくは美しい瀞がいくつか点在する。流れが緩そうなところは確保なしで通過。核心の手前の50m近くはありそうな長いゴルジュは水勢がやや強そう。アサノさんが空身で泳ぎ切り、後続はザイルにつかまって越える。
泳いだ先にはネジ滝と呼ばれる、大釜をたたえた15m程度ありそうな滝に着く。ものの本によるとここが中部ゴルジュの核心らしい。左側にしか取り付く余地はない。正面から見る限り垂直の岩が切り立っており、ここからは見えない奥にルートを見出すしかなさそうだ。巻こうと思っても大分下流に下らねば逃げられそうにない。こんなところ、どうやって登るのか。
ヤナセさんがザイルを2本曳いて釜に飛び込む。1本ずつアサノ・ハタヤがビレイする。滝に取り付いてテラスに乗り上げてからが渋そう。ハーケンを打ってアブミを架け、支点を強化されているようだ。(ヤナセさんによると、「最初RCCボルトが2発打たれていたが、そのうちの上の1本は不安定で簡単にはずれてしまった。さてどうしようと思っていたら、少し右側に縦リスが走っていたので、それにハーケンを2枚ネイリングして乗り越した」とのことであった)ルート工作をするヤナセさんの身体が外傾しているように見える。滝の内側の壁はハングしているのだろうか。それでも粘り強く越えていかれる。姿が見えなくなりしばらくしてコールがかかる。支点のセットが完了したようだ。続いて僕が登りにかかる。釜はザイルを頼りに渡れたが、水面から滝身に乗り上げるところが悪い。何度か這い上がろうとするが濡れて重くなった身体を持ち上げるほどのホールドに乏しく2度ほど水面に叩きつけられる。ヤナセさんはあっさり登られたが、Web上の記録にはフレンズを効かせて越えたと書かれていたところだ。もっと渋い壁はこの上にある。ここは無理せずユマールをザイルにセットしてごぼうで登る。
さてテラスに這い上がり滝の奥に回り込むと有無をいわせぬ威圧感にため息をつかざるをえなかった。やはり壁はハングしていた。目の前にセットされたアブミを使って乗り越すしかない。こんな壁をヤナセさんはハーケンを打ちながら登っていったのか。深呼吸してアブミに足をかける。登りだして、2本のザイルのうちランニングをとっている方にユマールをセットしていたことに気づく。一本はユマーリング、一本はランニングに取ればアブミの支点が飛んだときのダメージも減らすことができる。そうだったのか。核心に来て初めてヤナセさんが2本ロープを引いていった理由がすとんと理解できた。ところがユマールを外してもう一本のザイルに移そうとしてもうまくいかない。ロープにテンションがかかった状態で外そうと思っても外れないことまで頭が回らなかった。ランニングの手前で行き詰まった状態になり腕が次第にパンプしてきた。一旦テラスに降りて、カノウ君に「ザイルを緩めれば外れますよ」と指摘を受けて我に返る。カノウ君に先行してもらい腕の疲れを冷ます。ユマールを掛け替えて再び壁に取り付く。ご心配をおかけしました。アブミを掛けている支点には二重、三重のバックアップが施されている。先ほどと比べると、逆にハングした壁のほうがアブミに足をかけやすいことに気づく。例のごとくお祈りをしながら静かに足をかけて登らせていただく。最後は上半身と膝を使って乗り上げた。この場所をパーティ5名が通過するまで80分をかけていた。
大又谷出合から40m程度のゴルジュを続けて泳ぐ。いつもなら泳ぎと聞くだけで身構えるが、この池郷、先ほどのネジ滝の登攀に比べればゴルジュの泳ぎなどまだ楽な部類に入る。とはいえ大又谷を通過して2番目、40mのゴルジュは水流が強かった。流れに押し戻されそうになるところをお助け紐を出していただく。すぐ後ろを泳いでいたフクザワさんには迷惑をかけてしまった。
泳ぎきってしばらく行くと12mのトイ状2条の滝。これは右岸沿いにルートを求め滝の左脇を登るのが自然のようだ。
波が立つ釜の左をアサノさんがザイルを曳いてへつる。後続のカノウ君が通過したとき、僕がザイルの終端を持っておらず釜に末端を落としてしまう。幸いもう一本ザイルを持っていたヤナセさんにラインを曳いていただき助かった。緊張感が切れていたことを反省している。上に抜けるにあたっては右岸を登る。アサノさんがザイルを伸ばしていく。一見木登りで終わりそうに思えたが、いざ自分が登ってみると上に行くほど足場がきわどくなってくる。高度感がこれまで以上にあり慎重になる。最後はひざを使って這い上がる。テンションをかけることこそなかったがザイルで結ばれているからこそ冷静に登れたところだった。
このすぐ先は美しくも難しい2m滝。左岸の残置を使って登ると記録にはあったが一瞥する限り残置はきれいに掃除されているようだった。ヤナセさんが懸垂で沢床に降り立ちルートを求めるが渋く、右岸を高巻くことに。巻き道をそのまま進んでしまうとゴルジュを通り過ぎてしまいそうだったので一旦戻って滝を越えたところで懸垂下降。最後はひざ下程度の流れを歩く。深く暗い池郷ゴルジュの最後に似つかわしくない、実に清冽で蒼く澄んだ瀞だった。
瀞を抜けると突然広い河原になる。ようやくゴルジュを越えたのだ。待っていたかのように土砂降りの雨が降り出す。降る前に抜けられて本当によかった。10分程度登ると作業道跡らしき小径に出る。大又谷出合付近までおぼろげながら道は続いており、道が消えたところで一度沢床に降り立つ。瓶のかけらやテープがあったところから林道に向けて20分、高度差150mを登り返す。出た場所はゲートからさらに奥まったところだった。途中石ヤ塔と呼ばれる垂直に切り立った岩峰群を写真におさめておく。水線沿いだと10時間かけた区間を、林道なら歩いても50分で戻れた。これだけの距離を悪戦苦闘していたのか。つくづくとんでもないところに足を踏み入れていたものである。
帰り、国道上で僕の車の前輪がパンクするハプニングはあったものの、30分程度のロスでなんとか京都にその日のうちに帰れた。
長いゴルジュと人工登攀混じりの渋い滝が連続する池郷川中流部。水流を読んで泳ぎ切る技術、支点をセットして回収する技術。今の自分に足りないものをはっきりと教えてくれた。
自分の力だけではゴルジュの出口を覗くことすら叶わない。下山した後も頭がしばらく放心状態になるほどしびれる時間を味わわせていただいたメンバーのみなさんに敬意を表したい。