01 岩屋川右俣と甫与志岳

最果ての地、住んでみれば何処も同じなのかもしれない。ただ、地図の隅にある、それだけのことだ。それだけのことかもしれないが、何かが違う。そこは「行き止まり」であるが、しかし同時にそれは新たな「始まり」でもある。未知の世界への入り口、無限の想像の生じるところ。地図の上でそこに目をやる、それだけでわくわくぞくぞくしてくる。人を吸いつけ、解き放つ。考えてみれば、「山」という場所も、日常の生活からみれば異界であり、最果ての地なのだ。だから今回紹介するのは、二重の意味で「最果ての地」である。

例年になく暖かい春だった。四月にならないうちに桜が散り始めた。一足先に桜を見ようという思惑ははずれたが、そのかわり別の楽しみを与えてくれた。桜の絨毯のうえに広がる新緑のトンネル。清冽な流れと南国の青空。前置きが長すぎた。

大阪を前夜に出たフェリーは、14時間あまりの航海を終え、朝というにはもうすっかり陽の高くなった頃、志布志港に着く。鹿児島へのアプローチは、飛行機でも、高速バスでも、電車でもかまわないが、何といっても船旅が素敵だ。フェリーも宮崎へ行く便と志布志へ行く便がある。スケジュールからいえば宮崎便のほうがよいが、甫与志岳へいくなら、志布志の便が断然便利だし、運賃も安いのでお勧めだ。

甫与志岳は大隈半島に横たわる968mの山。一面の照葉樹林は、新緑のころひときわ輝きを放つ。どこか懐かしい感じのするふもとの集落。棚田には早くも初々しい緑が水面にゆれている。甫与志岳登山口という標識にそって、くねくねとした細い林道を登っていく。途中の支流には、まるでアスファルトを敷いたかのようなナメ滝がかかっていて、期待が高まる。林道が大きく曲がるところで、沢に下る。下ったところは二俣。右に進路をとる。

しばらくは平凡な渓相だが、やがてナメがあらわれる。ナメは断続的に源流ちかくまで続いている。何度か巻かねばならないが、ロープを使うまでもない。柔らかな陽光に包まれて心地よい沢歩きが楽しめるだろう。

ナメはそれぞれ素晴らしいが、圧巻は上部二俣手前にある大ナメ滝だろう。それは忽然と現れた。ナメ床をさらさらと簾のように水が流れ落ちる。その水滴の一つ一つが太陽を一杯に浴びて、目もくらむばかりの輝きを発している。近づけば近づくほど滝が大きくなる。水流ぞいも登れるし、巻いてもいい。10時ころ登り始めたら、このあたりで昼ごはんになろう。眼下の滝の向こうには青い海と、薩摩半島が見える。

二俣から上は水流がぐんと減る。それでも沢は最後の輝きを見せてくれる。水が尽き、やぶを20分ばかりこぐと、登山道にでる。そこから頂上まではわずかだ。頂上からは360度の展望が楽しめる。

下山は「岩屋」という看板にしたがって、なだらかな道をゆっくり下っていく。この道は地図に載っていない。しばらくして林道に出る。これを 右にとり、長い林道を歩くと取り付きに戻る。なお、林道は大ナメ滝の上すぐのところまで伸びており、時間のないときは大ナメ滝を登ったあと、この林道に出てしまえばいい。しかしせっかく最果ての地に来たのだから、是非とも頂上に行きたい。

下山後の温泉にはことかかない。一番近いのは高山温泉だが、桜島や指宿あたりまで足を伸ばしてもいい。夜は鹿児島の街で黒豚料理を楽しむもよし、指宿か枕崎あたりでカツオを堪能するのもよいだろう。ほろ酔い気分で仰ぎ見る南の空。 明日は本当の「最果ての地」開聞岳をめざそう。

(KO)

関連情報

コースタイム

岩屋→(車)→林道屈曲点→(2時間)→二俣→(1時間)→山頂→(1時間半)→林道屈曲点→岩屋

資料

1:25000地形図 上名(かんみょう)
吉川満『九州の沢と源流』、葦書房、1987

アドバイス

初級の沢。水量は少ない。釜がほとんどないので、ナメ滝の登攀は注意しよう。慣れたパーティであれば、ロープをつかうこともないだろう。アプローチは車に限る。

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