07 未完のアメリカンダイレクト(Chamonix, France)

シャモニのキャンプ場から東を望むと、そこには天空をつんざくかの如き鋭い岩峰が屹立している。どこにいても一目でそれとわかるその岩峰がドリュ(プチ・ドリュ)3730mである。その壁の高さは1000m。ちょうど街と向かい合う位置にある西壁を突き抜けるのがアメリカン・ダイレクト・ルート。初登は1962年、かの有名なRobbinsとHemmingによって成し遂げられた。今では西壁の最もポピュラーなルートとなっている。

アメリカン・ダイレクト自体も二通りの登り方があり、一つは二十数ピッチ目までのくさびどめ岩まで登って下降する。これは基部から日帰り、全行程は1泊2日となる。もう一つは、さらに登攀を続けて頂上まで行き、炎の岩稜を下降する。これは3泊4日かかる。くさびどめ岩の上の90mディエードルがこのルートの白眉といえるから、このルートに挑むなら是非とも頂上まで行ってもらいたい。

西壁基部へのアプローチは二通りある。一つはグランモンテまでロープウェイで上がり、そこからクーロワールを下降し、氷河を横断し、北壁をまわりこんで取り付きに至る。もう一つは登山電車でモンタンベールまで行き、氷河を横断してモレーヌをつめる。前者は登りがほとんどなく、体力的には楽だが、クーロワールの下降がけっこう悪い。後者は1000mの登りとなるが、ルートファインディングさえうまくいけば、気を使わずにアプローチできる。時間的には両者ほとんどかわらない。

アプローチよりも辛いのは、基部での時間つぶしだろう。ヨーロッパの夏の夜は長い。昼頃にシャモニを出たとして、基部に着くのは夕方。上まで抜ける場合は、それほどたくさん荷物を持っていけない。水も節約しなければならない。夕食を食べたら、あとはごろごろするだけ。寝ようにも9時頃までは明るくて寝られない。夕陽に紅く染まった眼前の大岩壁をぼんやり眺める。時々雪崩と落石の音が静寂を破る。

ルートは北壁とのジャンクションまで30ピッチ。下部の核心は11ピッチ目のコーナークラック、上部の核心はくさびどめ岩の上のディエードル。ルート自体について僕に語る資格はない。僕は1995年と1996年、パートナーのH君と2度にわたってこのルートに挑戦し、いずれも敗退した。詳しくは、このHPに掲載した記録を読んでもらいたい。いつになるかわからないが、必ずもう一度挑戦して、雪辱を晴らしたいと考えている。それは僕にとって青春時代の忘れ物なのだ。パートナーだったH君は、最近山から遠ざかっているが、できればもう一度彼と挑戦したいと思う。

(KO)


コースタイム

シャモニ→(4-5時間)→取り付き→(1日)→くさび止め岩→(1日)→ドリュ山頂→(1日)→シャモニ

資料

Lindsay Griffin, Mont Blanc Massif vol. II, Alpine Club: London, 1991

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