09 憧れの南アの名渓へ (南アルプス)

まだ沢登りのさの字も知らないころ、本屋で立ち読みをして見た一枚の写真が目に止まった。それは、赤石沢の何とかの滝の上をチロリアンブリッジで渡っている人の写真で、それが何故か印象に残っていた。自分が、今まさにあの時の写真の中に飛び込もうとしている。 南アルプス随一の名渓を誇るこの沢は、地図を見ていると、北側に赤石岳、南に聖岳の山稜の谷間に山肌深く切れ込んでいて、おもしろそうだなーと、魅了される。それから沢登をするようになり、いつかは行きたいと憧れていた。しかし、連れて行ってもらえる人も、パートナーもいなくて、なかばあきらめていたが、今年最後の40代を目の前にして一念発起で「一人でやってみよう、いや単独でやってこそおもしろい!」と意気込んで、おもいきってチャレンジすることとなった。 2002年8月22日畑薙ダムから朝一の東海フォレストのバスに揺られること一時間、牛首峠下車。すぐ下の赤石沢に降りて遡行準備をし大きな谷懐へと歩きだす。(午前9時30分)。河原を15分ほどでイワナ淵に着く。朝イチの泳ぎで体が引き締まる。次の深そうな淵も泳ぎで突破。続くニエ淵は右岸の残値ハーケンを使って側壁をへつりでいけそうだが、泳いだほうが早そうなので、空身で泳ぎザックはロープで引き寄せる。いきなり泳ぎの三連発。

次々と現れる美しい淵を徒渉、へつり、飛石などを繰り返して遡る。美しい岩の巨岩帯をすぎてしばらくすると、いきなり目の前にコンクリートの化け物。取り水堰堤である。複雑な思いで一本立てる。12:05。それから、平凡な谷間を一時間ほど進むと、轟々と音をたてた大滝が現れた。落差20メートルの門の滝。名前のとうり人間の行く手を拒むかのように二条の流れとなり、溢れんばかりの勢いで淵に落ちる。左手の草付の高まきへと逃げる。

大ガラン手前の、5メートル滝は左岸の大岩の中の人ひとり何とか通れる真暗な隙間を、ヘッドランプを使って地虫のように岩にしがみつきながら這い上がり、ザックをロープで引き上げる。ここは、今日一番の緊張する場面だった。崩壊斜面の大ガランは足元の不安定なトラバースで冷や汗がでる。やがて赤岩の淵が現れる。ここからは、しばらく沢が赤く染められたかのように赤い大岩が多くなる。これがラジオラリヤの赤岩で、まわりの風景に溶け込んでいて魅了される。いま、憧れの赤石沢の懐の中にいる自分が嬉しくなる

沢が大きく右に曲がると大ゴルジュ、右岸のガレ沢から高巻きで間ノ沢出会いへ。左岸の台地に今日のネグラを求めてツエルトを張る。3:55。さっそく焚き火をしながら服を乾かして食事をし、今日一日のことを振り返り、床に就く。

二日目は5:40発。岩を縫うように巨岩帯をぬけると、コバルトブルーに輝く赤石沢最大の大淵。早朝の泳ぎを嫌って、へつりで通過。谷は続くものの、平凡な遡行の連続となり気分もだいぶ楽である。このあと沢は奥赤石沢と百間洞に二分される。7:40。一服していると目の前に鹿がこっちを見て崖を登っていく。鹿の歓迎をう
けて百間洞を遡ると、スラブ状15m大滝へ。ここは左岸のバンド沿いにトラバースで滝上へ。やがて源頭の渓相となり、トリカブトやハンゴンソウなどのお花畑が続くと百間洞山の家に到着。9:35。30分程休んで、百間平を経て赤石岳12:35。稜線はガスに包まれて何も見えず、雨がふりだす。この天候でツエルトなど張る気になれず、ホテル赤石小屋に入る。2:45。

次の日は、椹島まで下り、バスで畑薙第一ダムへ。
こうして、何年越しかの憧れの沢を、無事遡行できたことにホッとして温泉に入り、家路に着く。

by大塚孝二

コースタイム

 2泊3日(*標準コースタイムは3泊4日)

資料

 『日本百名谷』、『日本の渓谷’96』

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