10 御在所を遊ぶ(鈴鹿)

京都からだと国道1号線の土山から鈴鹿スカイラインに入り、快適なドライブを楽しみながら御在所岳のそれぞれの登山道に至る。このスカイラインを通り抜けると三重県の湯の山温泉だ。単なるドライブでもこのコースは春には桜やツツジ、秋は紅葉と、四季折々を楽しめるところでもある。また、ハイキングコースとしても鎌ヶ岳や国見岳、御在所岳と四方八方からの登山道のコースがあり楽しませてくれる。そして、京都からは車で2時間強というのも魅力の一つだ。今回は藤内の登攀を中心に、御在所を遊ぶということで、オールマイティーの遊びの山、御在所岳に迫ってみたい。

中尾根から伊勢湾を望む

兎の耳

前尾根全景(マリリン撮影)

私が御在所岳を最初に知ったのは、雪稜に入会してまもなくだったと思う。ミーティングの席で登攀の報告を聞きながらも、なんのことやら分からず、御在所岳とは岩登りをする山なんだというおぼろげな認識のみで頭の中を素通りしていた。当然、私とは縁もゆかりもないとその頃は思っていた。ところが3年後の1999年6月、はじめて御在所の藤内壁前尾根でマルチピッチのクライミングを体験することになった。そしてそれからの3年の間に、私は十数回、御在所藤内壁に足を運んだ。前尾根と中尾根をそれぞれ数回、そして一の壁でのクライミングと、御在所岳に馴染んでいった。

藤内壁の登攀は、奇岩と言われるような造形的な岩と伊勢湾を下に見ながら、最高のロケーションである。藤内壁に至るには裏道登山道を進み、藤内小屋から少し登ると右手に「兎の耳」がある。それは本当に兎の耳の形をした岩がつき出ている。この付近にはテントが張れる。兎の耳は数本のフリールートがあるが私のレベルでは難しく感じた。日本登山大系10「関西、中国、四国、九州の山」のグレードでは6級台だがとてもとても、といった感じだ。そこから、もう少し登山道を登ると大きな看板があり、藤内沢にはいる。正面には一の壁とバットレスが聳える。詰めていくと、右にひとかたまりの岩があり、「テスト岩」と命名されている。スラブ状の大きな石といった感じで、アイゼンの穴がボコボコあいている。そこを右に入れば前尾根である。前尾根はマルチピッチの入門ルートとして人気が高く、いつ行っても沢山の人が取り付いている。前尾根はルートがいろいろ取れて楽しめる。1ピッチ目には5-6本のルートを取れるが一般的には向かって右端のクラック(4級)から取り付く。一番左に5級のスラブがあり私は今度そこから取り付いてみたいと思っている。中程のピッチにも何通りものルートが取れるので、実力に応じたコースが選択できる。ここの最後のお楽しみは、ヤグラと呼ばれている、大きな石を積み上げたような面白い形をした岩である。ここも面白いので、ぜひ登って欲しい。

 御在所岳のもう一本のロングルート中尾根は、少しレベルアップしたルートである。私は前尾根を体験した年に、セカンドで登った。その後、4回登っている。最初、中尾根へのとりつきは随分迷った。テスト岩を右に見て真っ直ぐ進むとすぐに藤内沢に平行して入る踏み跡が右にある。そこを沢沿いに進むと、木にテープが巻いてあるところで左に入る。ザイルがフィックスしてあり、そこをよじ上ったところがとりつきである。私がクラックを体験したのもここ中尾根がはじめてである。1ピッチ目はチムニーで、2ピッチはクラックとチムニーである。4級代だがとても難しく感じた。最初に行ったときは、このチムニーに入り込んでしまい、ザックをガリガリと岩に擦りつけてよじ登ったのは、今でも記憶に新しい。2ピッチ終了からは懸垂で一旦下降してから3ピッチ目に取り付くなど、このルートは変化に富んでいる。高度感も前尾根に比べるとあるので、とても面白いルートだ。昨年は、全ピッチをトップで行かせて貰った。このときチムニーもやっと外に出て上ることが出来た。

ヤグラ

中尾根1ピッチ目のチムニー

ツルムのコルからの懸垂下降

あと私が行ったことがあるのは、一の壁である。ここも大きな一枚の壁である。ルートは入り乱れて10本近くある。講習会がここでよく開かれていて盛況だ。ルートは4級と5級が中心で、高さは40メートルあり、かなり迫力がある。

京都の山岳会はだいたいが金比羅で講習やアイゼントレをしているが、やっぱり御在所には迫力負けをしてしまう。京都からは日帰りも可能なのでここでトレーニングをした方が快適だと思う。私にとって「御在所は岩登り技術の向上のためのトレーニングの場」という性格が大きいが、他にもこの山にはたくさんの魅力が隠されている。

今年は冬に藤内3ルンゼを雪の降るなか詰め、美しいルンゼに新たに魅せられた。その日、人はあまり入っておらず、3ルンゼの氷瀑と樹氷は素晴らしくて幻想的な眺めだった。この光景を見た瞬間、ここでアイスクライミングをしようともう決めていた。何年か前に会の計画で、御在所岳でのアイスクライミング講習が出たことがある。その時は暖冬だったのか御在所岳の氷は張っておらず、講習は流れてしまった。それだけに、この氷瀑を見たときは信じられず感動した。標高がたかだか1210メートルの山で、しかも京都からこんなにも近い場所に、雪が深く氷瀑や樹氷の美しい山があるということが驚きでもある。次の週には、さっそくスクリューを購入し、3ルンゼを目指していた。この雪景色を見て、頂上にスキー場が広がっているのも納得できた。

 

雪の日の藤内沢・正面はバットレス

3ルンゼから見たヤグラ(右)

3ルンゼでアイスクライミング

御在所岳は、湯の山温泉からのロープウェィで簡単に頂上に運んでくれる楽ちんコースもある。3ルンゼでアイスクライミングをするだけの目的なら、このロープウェィを利用して中道登山道から少し下って取り付くと楽ちんだなぁ、と思う。  まだこのロープウェィには乗ったことがなく、写真でしか知らないがロープウェィからの眺めも素晴らしいようだ。特に紅葉の頃の写真は、実物を見てみたいと思うほどである。ロープウェィの山上駅から日本かもしかセンターや御岳神社などを巡るコースがあるらしいが、あいにく私はまだ行っていない。いつかは「観光の山=御在所」も楽しんでみたいと思っている。  

私にとっての御在所は、まだまだ遊んでくれる山である。

★湯の山温泉と食事

帰りの楽しみでもある毎度の温泉は、スカイラインを少し湯の山側に下ったところの「希望荘」という温泉に入る。ここは庶民的な宿泊や娯楽施設も整った温泉である。(希望荘のHP=http://www.kibousoh.or.jp/) 500円の入浴料金でタオルも貸してくれるのは有り難い。 そして、食事である。自然薯の専門料理店がお勧めである。これは「茶茶」という店で、一見高級料理店と見紛うような店構えで山帰りには気後れする(茶茶のHP=http://www.cha2.co.jp/framepage1.htm)。しかし、メニューは大衆的な[とろろめし]980円からある。その一ランク上になると茶碗蒸しがついていてご飯のお代わりが自由なので山帰りには満腹していただけ、お勧めである。確か1300円代だと記憶している。私がここで食べたもので最高の値段だったのは[いも懐石]6000円である。これは何から何まで自然薯の料理である。食前酒・自然薯豆腐・前菜・吸物・山かけ・蒸し物・長焼とろろ・とろろ揚げ・むかごの天婦羅・とろろの酢の物、とろろめし・香の物、自然薯アイスクリームと果物・抹茶・甘味と次から次へと出てくる。お茶請けのせんべい、デザートのアイスクリームまで自然薯である。興味のある方は、一度ご賞味あれ! この店では、珍しい自然薯食品も売られている。自然薯も売っているが、高価なものだ。ちなみに1キログラム8000円である。場所は、湯の山温泉から四日市ICに向かうとすぐに左側にある。

(注)鈴鹿スカイラインは冬場には閉鎖され土山側と湯の山側のゲートが閉まる。夏は土山側から入れるのだが、冬は湯の山温泉側で希望荘から少し登ったところのゲートで閉鎖される。ゲートの前で車は駐車して、裏道登山道の入り口までスカイラインを歩くことになる。

(iku)

コースタイム

(時間は私が行ったときの記録によるもので概算である)

(土山から前尾根のコース)(夏)

自宅(枚方市樟葉)→裏道登山口(2時間半)・裏道登山口→藤内小屋(30分)・藤内小屋→前尾根取り付き(40分)・前尾根登攀(約2-3時間)→ヤグラで遊ぶ→ヤグラのコル→駐車場(2時間)

(土山から中尾根のコース)(夏)

前尾根取り付き→中尾根取り付き(約15分)・中尾根登攀(2-3時間)・ツルムのコル→一の壁まで(懸垂2回)(1時間)・一の壁→駐車場(1時間半)

(湯の山から3ルンゼのコース)(冬)

自宅→湯の山側ゲート(2時間15分)・湯の山側ゲート出発→裏登山口(20分)・裏登山口→藤内小屋(40分)・藤内小屋→三ルンゼ.アイスクライミング(1時間20分)→中道登山道→裏道の下山道(20分)・裏道の下山道→湯の山側ゲート(1時間40分)

(裏道のハイキングコース)エアリアマップより

湯の山→御在所(登り約3時間)(下り約2時間)  

(中道のハイキングコース)エアリアマップより

御在所山の家→御在所(登り約1時間50分)(下り約1時間20分)

地図

エアリアマップ47・御在所・鎌ヶ岳

資料

日本登山大系10、白山書房「アイスクライミング」全国版

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