12秋・冬・比良の魅力(滋賀)

コース

 1)  京都中心部から車で50分、アプローチ良し。マイカー利用が大変便利。
 2)  1214mの標高があり登るにつれて鮮やかな季節の変化がある。
 3)  コースの中に 民俗と歴史、信仰 を見ることが出来る。
 4)  山深く動物、植物が豊富で楽しませてくれる。
 5)  季節風が強く2月は積雪多く3月は比良の八荒等気象の変化が大きい。 
 6)  慎重を要するスリリングな個所もある。
 7)  いくつかの静かで美しい ブナ林がある。
 8)  メインコース以外は比較的入山者が少ない。(特に早朝、ウイークデーには)
 9)  気分や体調、天候に合わせて多様なコース選択が可能。
 10) 主峰 武奈ヶ岳には360度の大展望があり スケール感のある素的な西南稜を従え眼下に近畿の水瓶 日本一の琵琶湖が眺められる。
     
 以上の十徳は次に記す コースのお勧め ポイント10です。
 
 京都出町ー坊村ー御殿山ー武奈ヶ岳ーコヤマノ岳ー 中峠ーシャクシコバの頭  −小川新道出合ー牛コバー三の滝ー坊村ー京都出町

私は秋、冬のシーズンに散歩気分(紅葉狩、雪見)や心、身のトレーニングの目的でこのコースを(逆コースも含め)しばしば訪れます。今では大好きな、貴重な財産ともなっています。

 京都出町から比良連峰の西玄関口 坊村まで約35k、車で50分程度、R367(鯖街道)を北上、京都唯一のロッククライミング ホームゲレンデ金毘羅の岩場を左に見て 歴史の里大原を過ぎ、美しい名の花折れ峠のトンネルを抜けると安曇川の谷に入ります。
 左、丹波山地、右、比良山塊の山肌は雑木紅葉が素晴らしく 山入りの気分が高揚し 冬は雪をかぶった民家に趣があり 絵ごころをそそられます。7〜8分程で坊村着、駐車場も3箇所あり心配ありません。

比良山荘や地主神社(1502年建立、社殿重文)の前を通り三ノ滝、牛コバへの道を右に見て朱塗りの三宝橋を渡ると平安以来修験道場として有名な葛川明王院です。 ここで実りある、安全な登山を祈り いよいよ山道に入りますが このコースはポプユラーなものなので比良連峰のガイドブックにも書かれており道も比較的しっかりしていてコース上で迷うことも まずありません。したがって これからのコースの説明は省きます。
 今日は主に コース周辺の 晩秋と 積雪期の魅力ポイントの一部を私の独善と偏見で紹介します。

民俗と歴史、信仰

 〇 鯖街道  京都から北上するR367は鯖街道とも呼ばれ、若狭湾で捕れた
  鯖に一塩して、急ぎ京の都に運ぶ道。丁度都に着いた頃がいい味となり
  都人に喜ばれた。

       夏山や 通いなれたる  若狭人         蕪村
 
 〇 歴史の道  又この道は 京と北陸、東国を結ぶ古代からの街道で多くの人の盛衰を見てきた道でもある。 1570年 織田信長が越前、朝倉攻めの時妹、お市の方の夫浅井長政の離反により 信長が敗走した道で朽木氏〔朽木村〕の助けで京に戻り その後天下統一の礎を築いた。
 〇 大原の里  
  三千院(丈六の阿弥陀三尊)、寂光院(平家物語)は あまりにも有名。
 〇 比良修験
  ・ 葛川息障明王院  天台宗の寺、平安の初期(9c中頃)比叡山に厳しい山岳修験を持ち込んだ 相応が 比叡山回峰行の道場として創建。足利三代将軍義満、八代義政 その夫人日野富子等の参篭札も残されており毎年7月18日には相応が滝壷に飛び込む所作を再現した太鼓回しの行事がある。水上勉の小説 “雁と死” にもモデルとして登場する。
  ・ 武奈ヶ岳頂上  6体の石仏が比良修験と書いた赤い衣をつけ私たちを迎えて下さる。 静かに対話をしてみよう。
   ・ 三の滝  相応が入峰し正身の不動明王を感得した聖滝。その不動明王を桂の木に刻み明王院に安置した。    
                  すわ      じねん
      深山に 超克めざし座禅りきて 自然にとけて 心清清し     さとる

 〇 真白な 自然石の ほとけ
  小川新道の中程東の谷を挟んで仏さんの立像にそっくりな大花崗岩が見える。10m以上か? そのあとのルンゼの下降には気をつけよう。  

動物

 〇 熊-- ・御殿山コース登山口から40〜50分の腰掛け岩のあるところで、晩秋 A・M7・00南側より熊に吼えられ慌て逃げ登る。姿見る余裕なし。早朝は危険な時間帯か?
   又 御殿山の10分程手前、冬道と合流する見晴らしのいい所、3月下旬 なごり雪に 冬眠から覚めた熊の足跡 くっきりと。

      くるみの実 あまた混りて 冬眠に 入りたらむ熊の 糞の豊かさ
                          朝日歌壇 (飯田市) 熊谷 勝子         
 〇 猿- 秋、冬は集団行動が多い。奥の深谷、明王谷林道周辺でよく見かける。発情期は冬、12月〜2月 このころ猿の顔も尻も真赤になる。
 〇 梟-- 御殿山北東斜面、3月下旬P・M2・OO 3〜5m眼前に飛翔をみる。夜行性のはずだが?羽巾1m弱大きいのに驚く、目が合ったのに とぼけた爺顔で 無視された。

       梟の 憤りし貎の  観られたる       加藤 楸邨 
      
 〇 兎-- 冬、登山道から離れた場所でよくみかける。 人間ぎらい。
 〇 猪-- 秋、冬、 餌?をあさった跡や 足跡は屡見かけるが、お出合いしたことはない。一度お目に掛かりたいもの。
 〇 鹿-- 秋、ピイーと高く長い牡鹿のラブコールをあちこちで聞く。哀愁がある。 
   
    奥山に 紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき    百人一首 
    
        身じろがず 見る遠方や  冬の鹿      内田 慕情 

植物

  〇 ショウジョウバカマ ー 西南稜取り付きの岩陰ほか 4〜5月
  〇 リンドウ ー 西南稜、武奈ヶ岳あたりの熊笹やススキの根元 9〜10月
  〇 キタヤマブシ ー 猛毒トリカブトの仲間 御殿山コース中程の谷筋 8〜10月
           美しい ものには懲りよ 唐辛子         
  〇 タムシバ ー  コブシに似た純白の花 奥の深谷あたりに多い。4月雪解け頃
  〇 すすき ー  西南稜10月〜11月 初冬に霧氷の咲くすすきは又格別。

        常よりも 今日の夕日の  芒かな        尾崎 迷堂

  〇 ホン石楠花 ―  比良を代表する花 コースのあちこちに GW前後が見頃
                           すく
        石楠花や 岩越す水を  手に掬ふ        橋爪 啓

  〇 ブナ林 ―  コヤマノ岳、中峠にもあるがシャクシコバの頭南斜面のものが最も静かで美しく 豊か。 ゆっくり お昼寝でも どうぞ。
  〇 樅の大木 −  小川新道出合い下流3分、道の北側 幹周り6m 樹齢500年以上か? “樅ノ木は残った”(山本周五郎) 比良の自然をいつまでも残そう。腰を下ろして見上げて御覧、パワーをもらうことでしょう。
  〇 茸(なめたけ他)― ブナ みず楢の倒木あたり 幸運を祈る。
  〇 栗― 雑木林の登山道

        あと一つ  もう一つとて  栗拾い          NHK俳句会

気候

 日本海気候と太平洋気候の接点になるため 急変が特徴、心構えはしっかりと。
 〇 前線の通過-- 比良山塊を前線が通る時、光と雲の変化がいい。神秘的でもある。 必見の価値有り。
 〇 縦の季節変化-- 標高差千mは山麓と尾根との季節を大きく分ける。桜 新緑 紅葉 雪を2〜3倍楽しめる。なんども来て 自然の妙を味わって下さい。
      冬紅葉  甲斐深き山  うかびたり       水原秋桜子
      
      春スキー  眼下炭焼く  山見えて       皆川 盤水

  因みに 楓紅葉前線の速度は南北に1日25〜30k、上下は3日で100mと云われる。比良は約1ヶ月余り楽しめる計算となる。今年の比良は10/11武奈ヶ岳西斜面が、わずかに色ずいていた。  
  〇 強い北西の季節風-- 御殿山、西南稜、武奈ヶ岳では特に強く 積雪多く 素晴らしい雪庇や樹氷をつくる優れもの。ラッセルは覚悟しましょう。
                              ゆき
        善哉の 甘さに融ける  比良の大雪         さとる

  ・ 雪崩  雪崩の危険性は何処にでもあり、特に危ないトラバースは止めましょう。
  〇 比良の八荒-- 3月中旬〜4月初め 比良特有の嵐、要注意だが面白い。

         丹波路や 比良八荒の  おすそ分け      西山 泊雲

紅葉狩り

   <注意> 立ち止らないで下さい。 日が暮れます。
  〇 御殿山コース中程 南面トラバースあたりの雑木紅葉。

        暫くは 雑木紅葉の  中を行く          虚子
 
  〇 西南稜  ドウダンつつじ等低潅木紅葉は見ごたえあり。  
  〇  武奈ヶ岳の西斜面の低潅木紅葉が一番早く色ずく。  
  〇  ブナ林の黄葉には自然のよさがあり、その中の少ない紅葉は自己主張に懸命。
  〇 小川新道出会いから下、牛コバまで  紅葉と黄葉のミックス( 長いトラバース足元注意、冬危険)
  〇 三の滝〜護摩堂あたりの明王谷を挟んだ対面の大斜面。雑木紅葉と杉林の緑とのコントラスト、特に落日の照葉は神々しいばかり。
  〇 明王院、三宝橋からの 真紅の楓は見事。正に秋最後の輝きを見る。
        うま     おも            てりは
      美味酒の 面に映えたる  比良照葉      さとる

     ほどほどに 老いて紅葉の  山歩き        能村登四郎

   〇 逆コースをとると登り下り、午前午後と光線が変わりまったく違う紅葉が見られる。 是非お試しあれ。

雪景色

  〇 樹氷-- 武奈ヶ岳西斜面が最も早くそして美しい。持っては帰れません。口の深谷源流の樹氷林も見事です。
     樹氷 持ちかえると童  折りて待つ        山口 波津女
   
  〇 雪庇-- 西南稜上部、御殿山北斜面、2月いいものが発達します。
  〇 冬枯れの山並み-- 積雪期の好天日 このコースの囲む口の深谷源流一帯は真白な雪と 葉を落とした立ち木の陰とのコントラスト、素晴らしい景観です。
        鷹舞へり 雪の山々  慴伏す         鈴木花蓑
        
        冬山路 俄かにぬくき  ところあり         虚子

展望

  〇 御殿山-1097m 近くの 武奈ヶ岳、西南稜、コヤマノ岳、蓬莱山や丹波の山々を見るのにいいところ。
  〇 西南稜-- 中峠の上に浮かぶ堂満岳がいい。 云い難いが雪を被った自分(西南稜)を見るのもいいものです。たまらぬ色気を感じます。
  〇 武奈ヶ岳-- 主峰1214.4m 360度の展望欲しいまま。眼下に琵琶湖 朽木村、安曇川町の広がり、遠くは御岳 白山 鈴鹿 伊吹山 丹波大江山、そして 京都府最高峰の 皆子山971mも手が届きそう。
<お知らせ> AM9:00迄に登頂してください。貴方だけの世界が待っています。

温泉

   汗を流してさっぱりと
  〇  朽木テンクウ温泉  朽木村 比良山系の北端 蛇谷ヶ峰の山麓、坊村から車25分、入浴料600円。牛乳、アイスクリーム美味。

       湯煙に 雪の蛇谷も   恵比寿顔        さとる

  〇  八瀬の釜風呂 ふるさと 入浴料1500 円  八瀬 バス停ふるさと前

        比叡一つ  前に置たる  雪見かな      乙州

急ぎ足でご案内してきましたが山はやはり 時間の許す限り ゆっくりと歩きたいものです。そしてもっともっと 山を感じ、味わい 学びたい。 山は最高のお師匠さんです。同じ山域を歩けば歩く程 四季の循環や 自然の威力や恵みに自分が生かされていることを知り 畏怖 畏敬の念を強くします。それは 人間中心主義見直しの気持ちを強めることになります。今日的大問題の環境を語り 21世紀 22世紀の文明を考えるのに極めて大切な事と思います。 素晴らしい山行を祈ります。

2002年12月  谷垣 暁

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