13札幌周辺の山小屋・山スキーツアー(北海道)

今月は、北海道は札幌の、山小屋と、山スキーツアーを紹介しましょう。

冬の間、深い雪におおわれる札幌には、この百年の間、スキーツアーの便を図って、多くの山小屋がつくられてきました。わたしは札幌に5年ほど住んでいました。その間、大学の山スキーのクラブに所属し、たくさんの山小屋に泊まる機会を持ちました。北海道大学の山スキー部というクラブに所属していたのですが、このクラブは大学から無意根(むいね)小屋という小屋の管理を任されています。

札幌周辺の多くの小屋の魅力は、そのほとんどが管理人が常駐せず、営利を目的にしていないことにあります。北海道大学が所有している小屋は、山岳部(空沼小屋、ヘルベチアヒュッテ)、ワンダーフォーゲル部(奥手稲山の家)、山スキー部(無意根小屋、パラダイスヒュッテ)といった学生団体が管理しています。そのため、公式な宿泊料金は、数百円程度といったところです。公式な申し込みは、大学の学生部を通じて行います。直接各クラブに申し出てもかまいません。

無意根小屋はもう築70年強です。写真のように冬は深い雪につつまれて、周辺は

無意根小屋

山スキーの絶好のフィールドを提供しています。札幌から定山渓鉄道のバスに乗って「上七区」下車、林道を4キロほど歩きます。除雪はされていないので、深いときはひざ上のラッセルを強いられることもあります。そのため、ワカンは一般的ではなく、誰もが山スキーをはきます。昔は林道もなかったそうです。地形図は二万五千分の一「無意根山」。

途中から林道を外れ、無意根小屋を目指します。斜度もそんなになく、うまくルートを選んでいけばキックターンをすることなく登れます。地形がそんなにはっきりしないので、地形図を読んでいくことが必要です。野球場のようにだだっ広い大蛇(おろち)が原を過ぎると、木造のかわいらしい、無意根小屋が目の前です。

自慢ではないですが、この小屋の鉄板ストーブは、わたしも設計と運搬に携わりました。1992年頃に運び入れたので、もう10年使っていることになります。ぜひ一度見に来てください。

登山口から小屋までは、早ければ3時間、かかって半日の日程です。時間があればピークに行きましょう。シャンツェと呼ばれる斜面をジグザグにキックターンをしながら登ると、テラスと呼ばれる広大な台地の上に出ます。このあたりではタンネの樹林もなく、まばらにカンバが生えている程度です。風雪がきついことも多いです。そのような時はシャンツェでスキーを楽しみます。

天気がよければ、テラス上の斜面をぐいぐい登っていきます。もうまったくの樹林外です。雪崩には注意しましょう。のんびりとした稜線を水平に歩くと、無意根山山頂(1464m)です。ちょっとどこが山頂か分からないくらい、のんびりしたまるっこい山頂です。それもそのはず、アイヌ語でムイネシリというのは、「笠のような山」という意味なのですから。「無意根」という名称は、アイヌ語から受け継いだものです。積雪期は風が強く、山頂に行けるときはラッキーです。行けても条件が厳しかったりで、あまりのんびりした記憶はありません。

条件がよければ、ピーク南側の大斜面を滑りに行きます。遠くに、蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山(1898m)を見ながらの滑降です。標高差400mくらい。とってもきもちいいですよ。生きててよかった。羊蹄山のスキーもダイナミックですよ。

登りかえして、ピークからがりがりの雪を気をつけながら下って、テラス上の大斜面に飛び込みます。ピークよりの斜面は、雪庇が出ているので気をつけて。テラスを直滑降で滑っていきます。行きにつけたレールのあとをそのまま。カンバの枝に目を突き刺さないように気をつけてください。そうするとシャンツェの、タンネの生える斜面に入ります。木をうまくよけながら新雪を楽しみます。シャンツェ斜面の側壁は斜度もあり、上級者はこちらに行ってみましょう。雪崩判断はしっかりと。

行きのトレースをうまくたどっていけば、小屋までシールをつけずに帰れます。今晩はどんなご馳走が待っているのか楽しみです。お酒は持ってきていますか? 小屋ではろうそくの明かりのもとでくつろんでください。水は湧き水を引っ張っているので、冬季でも使えますよ。暖かいストーブのそばでは、思わずまどろんでしまいます。小屋の夜はゆっくりとふけていきます。

翌日は、小屋の西面の斜面を滑りに行きましょう。通称「壁」と呼ばれているところで、残雪期はピークハントの後、上部から滑り降りてきます。ちょっと急ですよ。そのほか、長尾山(1211m)のほうにミニツアーに行ってもいいでしょう。下山は、うまくいけば昨日のトレースをたどって、あっという間に登山口まで。雪が降ったら、ラッセルで下山。

それでは次に、札幌周辺のその他の小屋を紹介しましょう。いずれも、一泊二日、週末で楽しめるところに位置しています。もちろん、時間のある方は、これらの小屋をつないで、長期間のツアーも楽しめます。地図を見ながら、どうやって小屋をつないでいくかを計画するのも、山スキー山行の醍醐味のひとつ。

空沼小屋は、空沼岳(1251m)への途中にある、北海道大学山岳部の小屋。そばには美しい万計沼があり

空沼小屋

ヘルベチアヒュッテ

パラダイスヒュッテ

ます。無雪期のピークではエゾリスが出迎えてくれます。ここから一日で札幌岳(1293m)方面へ縦走できます。ヘルベチアヒュッテも山岳部の小屋。そばに札幌国際スキー場ができてからは、静寂な雰囲気はなくなりましたが、県道から100mの便利な小屋。余市岳(1488m)や白井岳(1302m)への基地として使えます。余市岳にはビッグなスロープがありますよ!

奥手稲山の家は、北海道大学ワンダーフォーゲル部の管理する小屋。この小屋は、山の中では珍しく石炭ストーブを使っていて、毎年秋に部員が担ぎ上げているそうです。ほんとうにご苦労様。ストーブは火力が強いと、真っ赤になって、まるで怒っているかのようです。

パラダイスヒュッテは、北海道大学山スキー部のOB会が管理する小屋。数年前にできた新しい小屋で、浄化槽や太陽電池の設備を誇ります。この小屋は、道路から数百メートルの距離で、まるで別荘のような小屋です。手稲ハイランドスキー場がそば、ここから手稲山(1024m)を経由して、奥手稲山の家まで、一日でつなぐことができます。

銀嶺荘

 

最後に、銀嶺荘。この美しい名前の小屋は、石狩湾を望む春香山(907m)の中腹にあります。小屋のすぐそばに山スキーに適した斜面があります。銀嶺荘には管理人さんが常駐しています。

いかがでしたでしょうか。本州の北アルプスのような迫力はありませんが、小屋生活を楽しむという札幌の山スキーツアーは、スポーツというより旅的・生活的なものを感じさせてくれます。また、スキーと生活が一体化した、独自の山スキー文化というものを、かもし出しているような気がします。わたしは札幌の山スキー文化には、関東や関西での山行とはすこし違ったものを感じます。京都でこの文章を書きながら、久しぶりに札幌の山小屋を巡る山スキーツアーに行きたくなってきました。(2003年2月20日記)

文:中村 平 / 写真:深田 直之

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