北アルプス 槍ヶ岳北鎌尾根(無雪期アルパインクライミング)

メンバー ニシムラ
期日 2005年8月6日(土)夜〜9日(火)
地域・山域 長野県 北アルプス 槍ヶ岳周辺
ルート 中房温泉〜燕山荘〜貧乏沢〜北鎌のコル〜北鎌尾根〜槍ヶ岳〜槍沢〜横尾〜蝶ヶ岳〜徳本峠〜新島々駅
山行形態 無雪期アルパインクライミング

コースタイム

8月6日

京都駅23:00→

8月7日

穂高駅4:30/5:10→中房温泉6:00/6:40→燕山荘9:40/10:40←→燕岳10:00→大天井ヒュッテ13:00/13:20→貧乏沢下降点13:40→天上沢出合15:00→北鎌沢出合15:40

8月8日

北鎌沢出合5:40→北鎌のコル7:20→独標のコル9:00→P11手前のコル10:00→北鎌平12:40→槍の基部13:00→槍が岳山頂13:40/14:20→槍が岳山荘14:40/15:20→槍平テント場17:40

8月9日

槍平テント場5:40→横尾6:40→稜線9:20→槍蝶9:40→蝶が岳ヒュッテ10:00/10:20→大滝ヒュッテ11:00→徳本峠小屋14:00→岩魚留小屋15:20→二俣16:40→島々18:00→新島々駅18:45/18:48→松本→京都

報告と所感

槍が岳北鎌尾根といえば加藤文太郎と風雪のビバーク。いつかは行くつもりでいたが憧れの場所であり、それがいつになるのかは分からなかった。
この夏は都合により夏合宿に行けなくなり、夏休みどうしようかといくつかプランを考えていた。そんなとき山渓に夏の北鎌尾根の記事が載っていた、また最近よく見る沢のHPに夏の北鎌尾根の記録が載っていた。また7月の縦走で見た高瀬ダム越しの槍が岳の姿が印象に残っていた。これはひょっとして北鎌尾根が呼んでいるということかもしれないと思って夏の北鎌尾根がどれくらいのものか調べてみることにした。
いろいろ調べた結果厳しいところもあるが、行けないことは無いだろうと判断した。核心は独標の巻きとそれ以降のルートファインディングにあるようだ。記録によって身の毛もよだつようなものから、ふんふんというものまで難易度にかなりのばらつきがみられた。これはおそらく取るルートによって大分難易度が変わると言うことだろう。いろいろ情報を集め、以前行ったハタヤさんにも話を聞き、取るルートの大体のイメージはつかめた。(明確でないところは残ったが)ほかに出来ることは何だろうか。とりあえず荷物の徹底的な軽量化を図り、日程も余裕をもったものに変えた。登山靴での岩は最近余りしていないので金比羅でみっちり練習しておくことにし、ついでに懸垂下降の練習もしておくことにした。それなりに満足のいく結果が得られた。ミーティングでもいろいろアドバイスをもらい、毎日毎日ルート解説を読んでその日を迎えた。

8月7日

ハイシーズンだけあって中房温泉は沢山の登山者であふれていた。ゆっくり準備をして出発。荷物を軽めにしたためか快調に進む。沢山の人を抜きながら燕山荘に着く。ちょっと早めに着いたので、いつも素通りしている燕岳を見に行く。曇りがちで北鎌の方向は余りよく見えなかった。
ちょっと飛ばしすぎて疲れたので、再び燕山荘に戻りゆっくりしていると、雷鳥が人のすぐそばを横切っていた。あんな人を恐れない雷鳥も珍しいなと思っているとなんと4羽も雛を連れている。普通子供を連れた動物は警戒心が強くなるはずだがどうしたことだろう。雷鳥は小屋にどんどん近づいてきて、人のいるところから2mほど高くなっている石垣の上にでてお立ち台に立つかのように並んだ。それをカメラに納めようと人が群がる。それに構わずしばらくいて、とことことまた引き返していった。こんなに人慣れした雷鳥は初めてで驚いた。
大天井岳に向かう。ここから先は人が少ない。北鎌を探すが、遠くはやや曇り気味であまり展望はよくない。大天井ヒュッテに到着。ここで天気を聞いておく。今日は午前中いい天気だが午後に雨が降る、明日も同じような天気になるだろうとのことだった。貧乏沢下降点を探しながら進む。看板がありハッキリしている。ここからいよいよバリエーションルートの始まりだと気合いを入れる。
藪を超えると意外にも道はハッキリとしている。沢はガレになり、枯れ沢になり、次第に水の流れる沢となる。雪はHPの情報通り無くなっていた。沢を下り、時に横の巻き道を行き、なかなか合流点は見えない。雷が鳴り始め、雨が断続的に降り始める。本当に1時間で着くのか?雨宿りをしていると上に人の姿が見えた。北鎌に行くのは私一人ではないようだ。しばらくしてようやく天上沢出合に着く。なんだか黒部源流のような感じだ。
夕立のせいで水量はやや多い。渡渉して暫く行くと河原が広くなる。いつの間にか水流が無くなっている。そろそろ北鎌沢出合のはずだがと、行くと、ゴミが落ちている。テントをはったあともある。少し行くと明確な沢が横に出ている。資料の写真は雪が付いているのでかなり印象は違うが、地図からみてもこれに違いない。よくみればケルンがあり、近くにはたき火の後が数カ所あった。なんだか人くさいところだ。有名ルートならではの事だろう。
雨もやんだし、ツエルトを張って明日に備える。しばらくして後続の人がやって来た。明日取り付くのはきっと二人だけだろう。今日は午後雷雨だったが、明日も同じ天気だとすれば、午後の早いうちに行動を打ち切らないとちょっとまずいな、早起きしなければとか考えつつ寝た。

8月8日

夜明け前に起きるつもりが寝過ごしてしまう。準備をしている間にもう一人の人は先に出発してしまった。焦っても仕方ない、よく寝られてよかったと考えよう。昨日はあまりはっきりしなかった独標がはっきり見える、いい天気だ。正面に見えている北鎌沢右俣を登る。左俣をいった方が距離は稼げそうだが上部がかなり岩場っぽく難しそうだ。水量の少ない岩の多い沢を順調に詰めて行くと、上部は草付きになっていた。高山植物を掴んでかき分けて登りきるとちょっとした広場状のところがあって北鎌のコルについた。ここで先行の人に追いつく。相手のおじさんも北鎌は初めてとのことだった。お互い頼りにならないことでいいような悪いような。ちょっと展望を楽しみ、写真を撮りあう。
ここからいよいよ岩稜の始まりだと気合いを入れる。おじさんが先行するが、まもなく追い抜き、以降かなり間をあけて進む事になった。とにかくトレースを慎重に着実に進んでいく。展望は凄く良く、目前の独標がとにかく大きい。それがどんどん大きくなって、独標のコルに着く。ここで休憩。いよいよ独標のトラバースが始まる。岩壁のルートを目で確認したりしていると、緊張感が高まって行く。緊張感の余り出発してトラバースに行くまでのところで、ルートと正反対の方向に取り付いてしまう。なんだか微妙なトラバースを何とかこなして正しいルートに復帰する。正しいルートはものすごく明確な道だったので凄く悔しい思いをする。
いよいよ問題のトラバース。トラバースに入るところが少しやらしいが、よく見ればしっかりした足場があった。トラバースもまあ慎重にいけば良い。最後の方で身をかがめないと通れないところがあり少し緊張する。慎重に行く。トラバースが終わったところに、スリングのあるチムニーが記録の通りにあったので(トラバースのトレースはまだ続いていたが)そこを直上する。このまま行けば上まで行ってしまうのではというところでトラバースの後があったのでそこを通るとP11とのコルにすんなり出た。初めの難関をこなしたのでほっとする。ここからはルートファインディングが肝となるだろう。
とりあえず稜線沿いを進むことに決める。ルートは比較的明確、確実に岩場を処理しながら進む。天気が良く、遮るものの全くないまさしく稜線なので展望がよい。正面の壮大な槍が岳の姿を、両側のアルプスの山を望みつつ進む。しばらく行って、行き詰まると天上沢側あるいは千丈沢の方に巻いて進む。
P15のコルのあたりから立派な巻き道があった。直上しようとしたが少しがれていやな感じだったので、巻き道に入ることにする。途中でこのまま行っていいのかと思ったのでやや強引に直上することにする。(そのままでも行けたらしい。)登り切ったところが北鎌平だった。諸君頑張れのプレートがあり、心を熱くする。正面では槍が岳の槍が巨大な岩の固まりとなって天に突き上げている。なかなかの威圧感。どうやって登るのだろうかとやや不安になる。
コルに降りて、稜線沿いに登り槍の基部に出る。左にまく新しそうなトレースがあり、右にまくトレースもある。正面のトレースに取り付く。途中で気づいたが最凶のガレ場だ。足場が踏むと崩れる。手がかりの石は、すぽすぽとすっぽ抜け、足がかりの石も体重をかけると次々に崩れていく。どの岩が信用できるのかもはや分からない。幸い後続はかなり後ろにいるのが分かっているのでその点は安心だが、ここから登るにしろ下るにしろかなりきつい。とりあえず比較的信用できそうな岩に捕まり、気を落ち着かせる。確かめながら着実に登り、なんとかルートに復帰する。どうやら左を巻き気味に登るのが正解だったらしい。後続の人は遠くから様子を見て左に行ったとのことだった。
有名なチムニーはちょっと考えて、なんとか乗り越えてさらに登ると、人の話す声がはっきり聞こえ、ようやく槍の山頂の祠が見えてきた。がんばってーの声援をうけ、沢山の人の拍手に出迎えられてようやく山頂に到着する。ようやく着いたー。とりあえずほっとする。そして喜びがあふれてくる。ついに来たー!うーん最高の気分。山頂は人が一杯。写真待ちの列に加わり写真をとる。後続のおじさんが暫くして登って来て達成を喜び合う。北鎌の方を見下ろすとやはり凄いところだ。あそこを登ってきたんだなー。山頂でゆっくりしてから、山荘に下る。生ビールをごちそうになり、祝杯を挙げる。やっぱり最高。健闘を称え合う。
のんびりしてから槍沢のテント場に下る。途中で夕立にあう。結構雨は断続的に強く降り、気がゆるんでいたので服を濡らしてしまった。とりあえず明日帰ることにする。

8月9日

まわりがごそごそと騒がしいので珍しく早いこと目が覚めた。ゆっくり準備をして出発。今日中に新島々駅まで行く予定だがいけるんだろうか?とりあえず横尾を目指す。さすがに槍が岳へのメインルートだけあり、団体客と一杯すれ違う。横尾から蝶ヶ岳は1000mの登り。ヘルメットをぶら下げて蝶が岳に登る人などいないので、途中で一体どこに行くんですか?と聞かれる。稜線に着くと、槍穂がきれいに見えて、まもなくガスで見えなくなった。今日最後にして最高の展望だった。
蝶が岳ヒュッテを通って、一路南へ向かい、マイナーな山域に入る。大滝ヒュッテ、営業中だが人の気配がほとんど無い。稜線あたりでは草花を楽しめたが、しだいに展望のない笹と林の中を延々と行くようになる。大滝槍見台でもガスがかかり何も見えなかった。徳本峠までの間で3人としかすれ違わなかった。今日は平日客もなく、徳本峠小屋のおじさんは暇そうに電話していた。ここで午後2時、島々まで6時間。明るいうちに駅に着くだろうか?
島々谷沿いにずっとずーっと下っていく。なかなかきれいな清流を下に見て、沢登りしたいな(つまり、川の中いけば涼しいだろうな)とずっと考えていた。なかなか昔からよく人が入っていたようなしっかりした道だった。(街道ではないが、木こりや魚釣りの人や炭焼きの人とかがよく利用した道だったらしい)。流れは太くなり、ダムになった。しかし遠く、いつまでたっても着かない。たっぷり歩いて島々の集落に着く。ここから新島々駅はすぐのはずが、なかなか着かない。まだかまだかと思いながら舗装された歩道を、車を横目に歩き、薄暗くなってようやく新島々駅に着く。とにかく今日も良く歩いたー。下山にこんなにも体力を使って疲れたー。松電の丸っこい電車が待っていて、感情に浸る間もなく、写真を撮る間もなく、慌てて飛び乗った。

 

燕岳

 

雷鳥の雛

 

北鎌沢出合

 

北鎌沢、右の沢が右俣

 

遮るもののない展望

 

独標だ

 

これぞ槍

 

沢を見下ろして

 

いくつものピークの先に槍が

 

あとはあの頂点まで

 

大きな槍

 

やっと山頂!

 

蝶から槍


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